IT農業「栽培ナビ」とは
栽培環境をセンシングするセンサーと連携して栽培データを取得し、出荷予定や販売計画を立てやすくする「圃場の見える化」。クラウドサービスを介して営農指導員と生産者をつなげ、病害虫の被害を受けた作物の画像の送信などから、生産者が迅速且つ正確な栽培技術の助言を受けられる「営農ひろば」。そして、地域に適した農薬のデータベース作りや使用状況を記録できる「農薬管理」など、機能は多岐にわたります。輸出時に必要な農産物の国際水準GAPの取得支援も受けられます。
アプライアンス社の農業に関する取り組みは、2013年にスタートしました。「まず現場のニーズをすくい上げようと、20~50代の技術者7人が、早朝から晩まで滋賀県の生産者に張り付きました」と、カンパニー戦略本部事業開発センター新規事業開発部部長の桶田岳見(おけた・たけみ)さんは当時を振り返ります。
県内にハウスを借りデータを取りながら農作業をし、病害虫被害や圃場内での肥育の偏りといった課題を体感しました。さらに生産者の最も切実な要望は、「生産性向上による収入の増加」だということを知ります。また、農業界には、担い手不足、効率化など様々な課題があることを知り、取り組みの必要性を感じました。ただし、高額な投資を要するものは望まれておらず、工夫による解決が必要と痛感しました。
ものづくりを生業とする同社は、3つのキーワードで課題解決を検討しました。
担い手減少解決のため、いつでも簡単に相談できる機能や作業データの蓄積や栽培ノウハウを引き継げる仕組みでスムーズな事業継承に繋げる「人づくり」。地温など最低限のデータ監視だけで畝ごとの肥育のバラツキを抑え、適切なタイミングでの高品質な作物の栽培を後押しする「ものづくり」の強化。そして収穫時期のタイミングをずらし栽培する冬メロンなど地域ブランドを創出し、市場供給が少ない時期に、収穫してマーケットに送り込む「話題づくり」。
これらの現場での経験を活かして生まれたのが、「栽培ナビ」です。「栽培の記録データをとることは、ベタですがちゃんと押さえないと次のステージに行けない大事なもの」と同部開発第三課課長の新居道子(あらい・みちこ)さんは言います。
地元の地域JAとの共同実験では、ベテランの生産者でも自力では難しかった冬メロンの栽培、データ管理によって無加温で実現することができました。過去データに基づき、的確なタイミングで農薬散布をする等のノウハウ実施によるコストダウンなど、ICT化での成功体験を積み重ねてもらい、栽培効率化を実現することで、最終的には良質な農産物を消費者が満足できる値ごろ感で届ける。そんな好循環を招きたいといいます。
UIへのこだわり―家電メーカーならではのノウハウを活用
桶田さんらは、「ICTの最大の課題は、実際に使ってもらえないこと」だと話します。予算に見合わない高額な機器を設置しないと効果がなかったり、操作が難しく離脱を招いてしまったりでは、意味がありません。前者の課題を解決するために、地温を測定し、最適な環境に保つだけでも生産性が向上することを実証し、過度な設備投資の必要性を否定しています。
後者を克服するため「とにかく徹底的にこだわった」というのは、高齢者が多くを占める農業生産者が、現場で使いこなせるようなユーザーインタフェース(UI)づくりです。
今では多くの電子レンジの操作パネルで目にする、「あたため機能」の操作ボタンに描かれた、マグカップやお椀のピクトグラム(絵文字)。これを初めて取り入れたのはパナソニックでした。「当初は『安っぽい』という声が量販店から挙がり不安がありましたが、ふたを開けてみたら消費者には大変喜ばれました。視力が落ちた高齢者や字の読めない子どもでも簡単に操作できることが受けました」と、新居さん。
「栽培ナビ」の開発にも、そのノウハウを活かします。「シンプル」「クール」「シャープ」「あたたかい」…など複数のテーマのデザインを作り、さらに色彩も数パターン用意。作業現場を想定して、自然光下でも文字が読め、操作がしやすい見え方を徹底的にチェックしました。
また、農場現場で生産者、JAの職員、営農指導員など、年齢の高い方から若者までデザインを見せながらヒアリングしました。その結果、年齢の高い方を中心に大多数が「見やすい」と答えたピクトグラムを使ったデザインを採用しました。
「たかだか操作ボタン一つに、ここまで時間とお金をかけるのは、うちくらいですよね」と笑う新居さん。「でもね、これがうちのポリシーなのです」と続ける桶田さんの言葉に、大きく頷きます。「ボタン一つにも分かりやすさを込めることで、お客さまである生産者さんに、ICTへの先入観(心のハードル)を取り除いてもらいたいのです」。
圃場から食卓へ想いを伝える―Farm to Table-Table to Farm

県内での栽培実験の様子
同社が最終的に広めたいのは、「Farm to Table-Table to Farm」だといいます。この言葉には、生産者と消費者の想いを繋げたいという意味が込められています。
適切に管理された安全な農作物の生産をサポートすることはもちろん、生産者が市場ニーズを取り込んだ栽培計画を立てる手助けを、同社ならではの手法で実現したいといいます。
さらにパナソニックの強みは、なんといっても調理家電やレシピサービスを通じて、消費者であるお客様との接点を持っていること。パナソニック製品をご購入頂いた、お客様に対してニーズ、食卓のトレンドなどを収集することも可能です。そして、その消費者の食する感動を、いち早く生産者に伝えて、市場の情報を共有することも将来できます。この家電メーカーである強みを生かして、従来の「生産者が作りたいものを作って売る」という作り手からの発想から、「消費者が欲しいものを作って売る」というマーケットインの発想への転換が叶います。「パナソニック製品購入のお客様と、生産者様を繋げられれば未来の食と農をもっと面白くできるはずです」と、桶田さんは力を込めます。
「消費者目線でのモノづくりで、生産者を含むすべての人の生活を豊かにすること」―。戦後、家庭電化によって日本人の生活向上を実現してきた「ナショナル」時代のDNAは、“次世代の農と食”の可能性を広げます。
パナソニック株式会社アプライアンス社
滋賀県草津市野路東2丁目3-1-1
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