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3年かけ178軒を取材 「日本ワインに首ったけ♪」著者が見た業界激動のいま

3年かけ178軒を取材 「日本ワインに首ったけ♪」著者が見た業界激動のいま

北海道から九州まで全国の178軒をユーモアたっぷりに紹介するワイナリーガイド『日本ワインに首ったけ♪』(新樹社)上巻が出版されました。プロのトラックドライバーでもあるノンフィクション作家兼イラストエッセイストのそらしどさんが、造り手たちの情熱や思いを個性豊かに描く力作。日本ワイン愛溢れるそらしどさんに、出版に込めた思いと、取材で見聞きした業界の現状を伺いました。

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ユーモアとイラスト満載 「うんちく、聞きたくない人にこそ」

この10年間で消費量が1.5倍になったといわれる日本のワイン市場。国内には280を超えるワイナリーがあるといわれ、2018年10月末には国税庁が、国産ブドウのみを原料に国内で製造した酒類だけを「日本ワイン」と表示できるようルールを改めるなど、日本でのワイン造りは勢いを増しています。また、ワイン造りに打ち込む若手醸造家らの姿を描いた映画「ウスケボーイズ」も公開され、日本ワインブームは今後も広がりを見せそうです。

「日本ワインに首ったけ♪」では178以上のワイナリーやシードルリー、日本ワインが飲める場所を紹介しています。すべて、著者のそらしどさんが一軒一軒回って取材しました。

──トラックに乗った作家「トラック・ドライター」として、物流業界、ペット産業などの幅広い分野で執筆活動をしてきたそらしどさん。日本ワインの本を執筆しようと思ったきっかけは?

私自身もともとお酒が得意ではなかったのですが、10年ほど前にワインを飲む機会があり料理を引き立ててくれる魔法の飲み物と気づき、それから国産・海外産問わず楽しんできました。でも、ワインは「わからなければ飲んじゃいけない」という雰囲気がいまだに払拭できてないし、ワインの本も難しいものが多い。

私はノンフィクション作家として、みんなが目を背けていることや関心のないことをどうやって伝えたらいいかいつも考えています。つまり、ワインに関心を持っていただくためにうんちくなしで、いかに親しみやすく楽しく伝えるかということに挑戦したいと思って作ったのがこの本です。

長野県塩尻のブドウ畑でのそらしどさん

20年にわたって物流ドライバーをしてきて、現場のドライバーたちはみんな焼酎やビールを飲んでる。例えばこの人たちにどうしたらワインの楽しさを伝えられるかなと考えたときに、ユーモアとイラストが必要だと。

日本ワインの本を出すと決め、その瞬間にまずはじめたのが今年で4年目となるブログ「日本ワインに首ったけ♪」です。ワインの難しいことは語らず、日本ワイン業界の人たちや愛好家の方々のキャラクターを取り上げ面白おかしく伝えていったところ、14年10月に開設したブログが15年5月にはアメーバブログの酒ワイン部門(旧カテゴリ)で1位になりました。「ワインのうんちくは聞きたくないけど、なんとなく興味はある」という人がこれだけいるんだ!と確信しました。

とはいえ、日本ワインの歴史や解説、地方創生を絡めた取り組みを扱うなど、業界全体を知るための参考書としての情報も充実しています。北海道から九州まで全国180近いワイナリーを取材して見えてきたことはありますか?

ここ数年、ワイナリーの数は急激に増え、まさに激動と混乱の時代かもしれません。

本を書いている間にも取材したワイナリーの醸造家が他のワイナリーに移籍して内容が変わってしまい、取材をし直したこともありました。最近は特に、企業のワイン事業参入や、都市部で働いていたサラリーマンなど異業種からの参入で新設されるワイナリーが増えています。

「マンズワイン勝沼」にてご案内くださった武井千周さんと

ブドウは植えてすぐ良質な実をつけるわけではない、栽培醸造には技術も知識も必要で人材の育成にも時間がかかります。
ワイナリーの急増によって原料となるブドウや苗木不足の問題も浮上する一方で、日本でのお酒の消費量は年々減り、飲み手自体も減っている。最近では、新規にワイナリーを始めたものの、思うように売れない生産過多になっているという話も聞きます。
まさに急成長の混乱期です。

ワインには造った人がそのまま出る

長野県にある人気ワイナリーのひとつ、「Kidoワイナリー」で城戸亜紀人さんと

とはいえ、日本ワインの楽しさはやっぱり産地が近くて訪ねていけること。畑に行ってブドウを育んだ環境を目で見て、肌で感じて、今年の天候がこうだったからワインもこうなったのだなと身近に感じることができます。
生産者に会えば尚更面白い。「この人が作ったワインだからこうなるんだ」と、ワインに人柄がそのまま出るのがよく分かります。生産者の人柄に惚れて、そのワインがもっとおいしく感じたりもしますし、現地に行かなければ分からないことが沢山あります。

そういった意味で、消費者のみなさんにぜひ産地を訪ねてほしいですね。
日本ワインブームとは言われていますが、首都圏で飲んでるだけでは各地の産業は潤わない。産業を育てるためにもみんなに産地に行って欲しいので「この人に会いに行ってこの人のワインを飲もう」と思えるような、生産者を前面に出した本にしました。

日本ワイン激動の時代 先入観なく飲んで

──今回の上巻は山梨・長野エリアを紹介し、11月に発売される予定の下巻では北海道、東北を中心に全国を網羅しているそうですね。そらしどさんがいま注目している産地、ワイナリーを教えてもらえますか?

多くの契約栽培農家を抱える中堅ワイナリーや、自治体のやっている第三セクターのワイナリーや農協系のワイナリーに注目しています。
山梨のマルスワイン、山形の朝日町ワイン、岩手のエーデルワイン、広島の三次ワイナリーなどがありますが、地域の産業として設立された背景から、地域の農家と共に切磋琢磨し年々品質が向上し、ワインコンクールの常連にもなっています。
例えば、島根ワイナリー。出雲大社から近く、多くの観光客が見込めるお土産ワイナリーなので、生産の6~7割くらいを占める甘いワインが有名ですが、その経営基盤を元に高品質なワイン造りにも力を入れ始め、ここ数年劇的に美味しくなりました。

自社畑「横田ウィンヤード」のカベルネやシャルドネは勿論、島根は山梨に継ぐ甲州生産量ナンバー2で栽培の歴史も長く、良質な甲州から造られるワインは注目です。

これらのワイナリーは、多くのワインを供給できる体制から、観光バスが入るところもありますし、飲み手のすそ野を広げ、雇用を生み、地元を豊かにできる可能性があります。
地元の農家が長く作ってきた日本固有種のブドウを使ったワインも多く、これらを通して地元の農家たちと支え合ってワインを作っています。

信州まし野ワインの宮沢喜好社長とシードル・プリンスとして40軒ものシードルの委託醸造を受け持つ醸造責任者竹村剛さん

また、本格的なシードル造りを早くから取り入れてきた信州まし野ワインでは、周辺のリンゴ農家にシードルの委託醸造を積極的に勧めることで「シードルって何?」という人を減らし地域を活性化させる試みも行っています。

日本ワインを地域の産業としてとらえた時にも、このような周辺の農家とのつながりが深いワイナリーに注目していきたいです。

──秋はちょうど今年のブドウで仕込んだワインが出回る「新酒」の季節です。各地で複数のワイナリーのワインが味わえる新酒まつりも開催されていますね。

私も、日本ワインとの出会いは山梨県笛吹市で開催されていた新酒まつりでした。

2018年の新酒を祝うイベントにて日本ワインで世界に挑むグレイスワインの三澤彩奈さんと

ワインはごはんがおいしくなる魔法の調味料。
日本の食事にはやはり、日本ワインが一番合うと思います。
出汁には甲州がよく合うし、照り焼きや甘辛いタレや煮物にはベーリーAというのは鉄板ですが、例えば日本の典型的な朝ごはんにある普通の味噌汁や煮物や卵焼きが、辛口のデラウエアととてもよく合うので、休日に「朝デラ」と呼んで朝からワインを楽しんでみたり、かっぱえびせんと甲州を合わせてみたり…

こんな気軽な楽しみがもっと広がって、多くの皆さんにとって日本ワインがもっと身近になってほしいと思います。ワインラバーも「ワインに興味があるけど敷居が高いかも」と躊躇している人も、いろんなワインをどんどん試してほしいです。

今、日本ワインは激動の時代です。明日から醸造家が代わったらワインはかわる、跡取りが帰ってきたらワインはかわる!醸造技術や設備も発達し、造り手も日々、試行錯誤して古くからあるワイナリーも日々進化しています。ワインラバーの皆さんにも、「3年前に飲んでいまいちだと思っていたけれど、今のワインは最高だった」と思えるような発見と可能性に満ちています。偏見や決めつけを捨ててどんどん試していただきたいですね。

【書籍概要】
書籍名 : 日本ワインに首ったけ♪上巻
著者 : そらしど(しど せんしゅう)
上巻発売日: 2018年10月12日
下巻発売日: 11月中旬予定
定価 : 上・下巻 各1058円(税込)

【関連ページ】
ブログ「日本ワインに首ったけ♪」

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