「イチゴは高設栽培で収量が減る」のは必然か?

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「イチゴは高設栽培で収量が減る」のは必然か?

「イチゴは高設栽培で収量が減る」のは必然か?
最終更新日:2020年10月20日

今回の主題は「イチゴの高設栽培で収量が減るのは必然か」。高設栽培は土耕栽培と比べて培地の温度が下がるため、収量が減るというのが産地関係者の常識になっているようだ。これに異を唱えるのは環境制御技術に詳しい中村商事(埼玉県春日部市)の代表・中村淑浩(なかむら・よしひろ)さん。「むしろ収量は増える」と明言する理由とは。

高収益なのに生産量が減る訳

イチゴの高設栽培

中村商事が運営する「ヒロファーム」の高設栽培

この主題を設定したきっかけは、福岡県がその種苗を門外不出としているイチゴ「あまおう」を取材したこと。同県でのイチゴの生産量の「ほぼすべて」(県園芸振興課)を占めるこのブランドは、市場でのキロ当たり単価が2019年度産まで16年連続して国内最高値を付けている。栽培する農家にとっては収益性が高く、需要は尽きない。

それなのに福岡県のイチゴ生産自体の面積と量は10年前と比べて減少している。2000年にそれぞれ577ヘクタールと2万2400トンだったのが、2016年には463ヘクタールと1万5600トンになっている。

要因は労働負荷が高いため。一般的な土耕栽培では立ったり座ったり、あるいは中腰のまま作物の管理や収穫をしなければならない。栽培する農家は高齢化とともに生産を縮小し、やがて廃業せざるを得なくなっている。

培地の温度が低くなるから減収?

省力化のため県が産地に推奨するのが、立ったまま作業ができる高設栽培だ。確かに肉体的にはずっと楽になるものの、その普及率は「1割程度」にとどまる。というのも10アール当たり約500万円かけてまで導入しても、収量が落ちてしまうからだ。その理由について県立の農業試験場や普及指導センターに聞くと、「土耕と比べて培地の温度が低くなるため」という答えが返ってきた。これに関しては同県で高設栽培を実践する農家に聞いても、「減収は仕方ない」と諦めていた。

ただ、この答えはなんとなく素直に受け入れられなかった。そこで訪ねたのが中村商事。農業用ハウスやその関連資材を販売するほか、ハウスの環境制御技術のコンサルタントとして国内外で仕事をしている。自社でも観光農園「ヒロファーム」を運営。ここは資材メーカーとタイアップしながら、環境制御の技術や資材の実証実験をするなどの先端技術を垣間見られるほか、同社はここで施設園芸の勉強会も開いている。

中村さんにはあらかじめ電話で「高設栽培で収量が減るのは仕方ないのですか」と尋ね、「むしろ増収します」という答えを得ていた。

中村さん

中村商事の代表・中村さん(右)は国内外で営農指導をしている(画像提供:中村商事)

土耕よりも光合成が活発になる

「答えは簡単ですよ。高設栽培の方が光合成を活発にできるわけですから」と中村さんは語る。

いうまでもなく光合成の原料は水と二酸化炭素であり、エネルギーとなるのが光である。これらを作物が欲するままに過不足なく与えることが収量を最大化することに直結する。ハウスにおける環境制御技術はまさにそれに近づける環境をつくり出すことに主眼がある。

より適切な環境を生み出すためにまずもって必要なのはデータだ。そのためハウスにはセンサーを設置して、日射量や二酸化炭素の濃度、温度、湿度などのデータを取る。それに基づいて天窓やカーテンを開閉したり加温機を稼働させたりして、作物がより多くの実を付ける環境を作り出していく。

これに関して土耕栽培と高設栽培では「決定的な違いが生じる点がある」と中村さん。水や養液の供給量と排出量のほか、土壌の酸性度を示すpHや土壌の肥沃(ひよく)度を示すEC(塩類濃度)をデータとして把握できるかどうかだ。

高設栽培ではいずれのデータも自動的に集められる。一方、土耕栽培の場合に把握できるのは供給量だけで、排出量は事実上捉えようがない。結果、根がどれだけ吸収したかはぼんやりとしか分からず、供給量が多い場合には減らし、少ない場合には増やすといった調整の精度を高められない。水と肥料が不足すれば、光合成は活発にならず、作物は満足に育たなくなる。

「その地域の篤農家と呼ばれる人は長い年月をかけて何時にどのくらいの量のかん水をすればいいのかを何度も試してきたわけです。その中で最もいい収量を上げた結果を基にかん水をする。でも気象が変化すれば、それでいいのかはまたわからない」(中村さん)
 

培地の低温対策には温湯ボイラー

福岡県が高設栽培で問題視している培地の温度が低いことについてはどうか。これに関しては中村さんは「確かにその通り」というものの、「温湯ボイラーを利用する手がある」と説明する。温湯ボイラーとは培地内に管を配備して、湯を通すことで培地を温める仕組みだ。「ちょうどこの辺り(埼玉県)を境に利用の有無が変わる」とのことで、福岡県では「ほとんど使っていないのでは」とのこと。

温湯ボイラーを導入すべきかどうかについては「まずはその品種がどの程度の低温に耐えられるのか知るべきです」。品種によって生育に影響をもたらし始める地温は異なり、その下限はたとえば「とちおとめ」は17度なのに対し、「紅ほっぺ」「かおり野」は13度だという。中村さんは「栽培する品種の適正な根域の温度を知ることが重要」と強調する。

では、肝心な収量は高設栽培でどうなるのか。たとえば中村さんがコンサルタントとして支援しているある社会福祉法人は、初心者ばかりで「紅ほっぺ」の栽培を始めてから3年目で10アール当たり8トン以上の成果を挙げたという。これは栃木県における土耕栽培の平均の倍近い数字に当たる。利用する環境制御の資材は加温機と二酸化炭素の施用装置だけ。それでも養液の供給量と排出量のデータを把握したうえで管理することで、投資以上の効果を得ているのだ。

中村商事を視察に来たタイの顧客

中村商事を視察に来たタイの顧客

イチゴは高設栽培でむしろ収量が上がるものの、その土台となる環境制御をするうえでは知っておきたい事項がいくつかある。後編で紹介する。

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