レタスの
農場?
工場?

ひむか野菜光房

岸本政彦(53歳)

PROFILE

作物:グリーンレタス、フリルレタス、フラワーレタス、サニーレタス

ひむか野菜光房で農場長を務める。ひむか野菜光房は、当時鉄工所経営者、ガス販売経営者、ハウス栽培技術会社役員、水耕栽培のトマト農家だった4人が「工場のように安定的に野菜を生産できる環境を作り、地域の農業に貢献しよう」と、2012年に設立したもの。ビニールハウス内の湿度、温度など、全てをコンピューターで管理する「植物工場」を導入し、通年での水耕栽培を実現する。現在、パート40名、社員9名(社長、取締役を含む)。高齢者や障害者の方でも参加できるシステマチックな農業を展開している。

→ https://ja-jp.facebook.com/sunnygreenfarm/

INTERVIEW

なぜ、「植物工場」だったのでしょう?

農業は基本、人間の食べるものを安定して供給する産業です。ここでは1日当たり8000株のレタスを出荷しますが、一定量を安定した価格と品質で供給するためには、こういったシステムが必要なのではないかと思います。四季折々の食材も、土の質によって生産できる地域、できない地域がありますが、どこの地域にもニーズはあり、供給する必要がある。食肉に例えれば、植物工場は野菜における一種のブロイラーなんです。みんなが鶏肉を食べられるのは、ブロイラーを育てているから。いつの季節でも食べられるレタスを安定供給するためには、工業的に生産するやり方でないと難しいと思っています。

日本の植物工場は、
世界的に見てどうですか?

この分野ではオランダがものすごく先行していて、レベルが全然日本と違います。もっと植物生理や環境制御の勉強をしていかないと、オランダにはついていけません。例えば、オランダは室内の環境を400から500ぐらいの項目で制御をしています。それにより大量の収穫を実現しているのに対し、日本の農家は露地で自然任せ。これでは、将来、経営が成り立っていかない気がします。

日本でいまひとつ
工業化が進まない理由は?

僕は学生の頃からこの世界が好きで、工業化の動向に関してはずっと調査を続けています。日本で花の万博があった1990年代に「移植機」が初めて誕生したんですけど、30年たってもほとんど進化していないんですよ。どうしてなのかを工業の人と話をしたら良く分かりましたが、工業の機械というのは売れてナンボ。車は新しいものを開発するために何千万円と投入するけれど、それは売れて最終的にペイできるからなんです。農業の機械の場合、使う時期も使う人間も限定されるので、メーカーはなかなか開発投資に踏み切れない。大手メーカーが一時的に盛り上がって参入することもありますが、「これ、あまり売れないな」と、結局すぐに引き揚げてしまいます。売れないから技術投資が進まない、だから機械化が進んでいかないという負のサイクルです。国の試験場や大学の研究室のレベルは高いんですが、それが末端の私たちには伝わってこないというジレンマがあります。

そちらでは品種改良などにも
取り組んでいらっしゃるとか?

品種改良についても試行錯誤を重ねています。最初はグリーンレタスもフリルレタスも同じ品種で1年間作っていたんですけど、宮崎の暑さに耐えられなくて、夏は別の品種を入れてみたりしました。今も、季節ごとに植物工場に合った品種を試しています。他にも、まだまだやる事はいっぱいありますよ。例えば、現状では種はどうしても土で栽培する人に合わせて改良されます。土耕の人たちの方がパイが大きいので、その人たちに売った方がもうかりますからね。水耕栽培の人間は、土の生産者の方が使っている種からチョイスして植えていました。それが最近は、植物工場の団体ができ、年中種を大量に使うようになったことから、種屋さんも水耕栽培の農家が求めるものを作っていこうという流れになってきたんです。商業の原理です。

農薬の量も低く抑えているそうですね。

宮崎県では「微生物農薬」をメインで使っています。化学の薬を使うと害虫も抵抗力が付くので、また新しい農薬、さらに強い害虫、また新しい農薬というサイクルになりますが、微生物農薬だと抵抗力が付きにくいんですね。露地の農業でご飯を食べていこうと思ったら、経済原理に従って、ある程度大量に農薬を使用するのはやむを得ません。これに対して閉鎖系の工場は農薬が少なくて済みます。連作障害がないのもメリットです。肥料が雨で流れてしまう「流亡」による土壌汚染、地下水汚染が問題になっていますが、植物工場ではこの問題も出ないですね。

これからの農業は
どうあるべきでしょう?

実は、こういう水耕栽培でも連作障害というのは起きます。同じ水を使い続けたり、肥料濃度の測定方法が昔のままだと駄目で、細かな調整が不可欠です。うちには農業試験場出身の、水の分析に関しては天才的な人がいるんですよ。バラの専門家なんですけど、その人のおかげで、この田舎でも1日8000株のレタスが生産ができている。そして、最終的には作ったものを営業が売りさばいてくれるので経営が成り立っています。いくら良いものを作って既存ルートで出荷しても、利益を上げられなかったら農業はやっていけません。だから、この売りの部分を自社の人間がやり抜いているのは、やっぱり心強い。これからの農業は、技術者や商業者がチームの中にいる総合チームじゃないと難しいでしょうね。

ひむか野菜光房

佐藤友規(23歳)

INTERVIEW

なぜ、この会社を選んだのでしょう?

祖父が農業を営んでいたのでもともと興味があって、農業高校に入りました。学校では「土耕」を勉強していましたが、「水耕」も勉強したいなと思って、ひむか野菜工房の役員の方を紹介していただき入社しました。会社の人はもちろんですが、近所の農家さんも含めて多くの人とかかわっていきたい。いろいろな人たちと会話をしながら、一緒に農業を発展させていきたいです。

5年目ですが、
新人の頃から変化した点は?

入った時に比べたら、だいぶ積極的になったと思います。主に水耕の肥料の勉強をいろいろとさせていただいた他、経営関係の勉強もさせていただき、農業についての知識も深まったと思います。仕事の関係上、システムやパソコンについても少しずつ勉強しています。高校を卒業してすぐに祖父の後を継いでいたらこんなふうに学べなかったと思うので、その点はとても幸運だったと思います。

次のステップに向けて、どんな準備を?

今は肥料を作ったり、夏暑い中、汗だくになりながら作業したり、そういうことが本当にとても楽しいです。今後については、肥料関係の勉強がまだ途中なので、最後までやり切りたいと思っています。植物工場の最先端を行く千葉大学へ研修に行ったり、養液栽培研究会という全国組織の研究会に参加したり、大分の著名な先生が宮崎で勉強会を開催されるときにはそこにも足を運んだりして、技術の習得に励んでいます。