農家の年収、平均値はどれくらい?手取りは?
はじめに、農業で得られる所得のイメージを掴むために、農家全体の傾向を見てみましょう。ポイントとなるのは、「粗収益」「農業経営費」「農業所得」の3つのキーワードです。
農家の収入 平均値は1,076万円
令和3年の農林水産統計によると、農業経営体全体の粗収益は1,076.9万円 という結果になりました。想像より高い粗収益だと感じたのではないでしょうか。
年収の参考にする場合、「平均」ではなく「中央値」のことも考える必要があります。
農業を含む全ての職業の令和3年度の平均年収は433万円 、中央値は約400万円 です。
同じ割合で計算すると、農業収入の中央値は約995万円になります。
農家の収入 手取りは125万円
気になる手取りの平均額についても解説します。実際に使えるお金は、農業で得た収入から、農作物を生産するために購入した農具や肥料といった経費を差し引いたものです。
同調査によると、粗収益1,076.9万円に対して、経費にあたる農業経営費は951.5万円。差し引いた農業所得は125.4万円 です。
ただし、この金額は零細農家から大規模な農家、専業農家や兼業農家まで全ての業態を含めたものです。専業農家を中心に、生活に困らない所得を得ている農家もいるため安心してください。
儲かる農家はどれくらい稼ぐ?
平均年収が125万円と聞くと、「生活が成り立たない」と不安を感じてしまうかもしれません。
ここからは、農業で大きな所得を得ている事例を紹介します。農業をする場所や経営方針によって、儲かるか否か結果が変わります。行動力も必要ですが、どこで農業をするか、どのように経営するかなど、具体的な方向性を定めて計画的に動くことも大切です。
儲かる農家の農業所得
所得の多い農業経営体の事例として挙げられることが多いのは、北海道です。ホクレン農業協同組合連合会によると、北海道の1経営体あたりの農業所得は以下の通りです。
全国自治体の平均値と比べて、大きな所得を得ていることが分かります。
特に水田は、経営体あたりの所得がおよそ22倍と、広大な面積で効率的に行う農業の強さを示しています。(令和3年の調査結果)
高収益な作物を選定することも大事
稼げる農業の条件は、広さだけではありません。少ない面積でも付加価値の高い農産物を生産すれば、高所得が見込めます。
たとえば、個人経営のレストランと直接契約を結び、求められる野菜を多品種少量生産すれば、耕地面積が少なくても高い収益が見込めるでしょう。 他にも、糖度の高いトマトを特殊な製法で生産して、高単価で販売する例も挙げられます。
近年は、インターネットを通じて生産者と消費者が直接つながるサービスも出現しており、販売戦略次第で農業を儲かる仕事にできる可能性は高くなっています。
自営農家と雇用就農者で年収は変わる?
続いて、自分で農業を経営する自営農家と、農業法人などに雇われて農業に従事する雇用就農者の間で、年収がどの程度変わるのか確認してみましょう。
なお、農林水産統計によると、平成30年、令和元年と1万人を切っていた新規雇用就農者数は増加傾向にあり、令和3年には1万1,570人 になっています。門戸が広くなっているため、就農経験がなければ農業法人などから農家としてのキャリアを始めてもよいかもしれません。
自営農家の年収額は?
農家であり経営者でもある自営農家は、どれくらいの所得を得ているのでしょうか。
農林水産統計によると、主業農家(農業所得が主で、1年間に60日以上自営農業に従事する65歳未満の世帯員がいる農家)の、粗収益から経営費を差し引いた農業所得は433.5万円 でした。
なお、国税庁が行う民間給与実態統計調査によると、令和3年の給与所得者の平均給与は443万円 です。自営農家であれば、会社員と同程度の収入は実現できるでしょう。
雇用就農者の年収額は?
続いて、法人などに雇用されて農業を営む、雇用就農者の年収を確認しましょう。厚生労働省が実施する賃金構造基本統計調査 によると、令和3年農林漁業従事者の毎月の給与額は25万7,500円、年間の賞与額は35万1200円です。
年収に換算すると約344万円となり、自営農家の農業所得433万円に比べると90万円もの差額が生じています。
しかし、農業に従事してスキルアップを図りながら、生活が成り立つ程度の収入が得られると考えると、悲観する金額ではありません。独立することを前提に、技術を身に付ける場として捉えてみましょう。
専業・兼業で収入に違いはある?
就農への道を阻む要素の1つは、農業の不安定性にあります。自然を相手にする農業は、天候によって不作になってしまったり、逆に豊作すぎて値崩れしたりする可能性があるため、一定の収入を得るのは簡単ではないでしょう。
そのような不安定さへの対策として考えられるのは、副業で農業を営むことです。主な収入を農業で得る専業農家と、副業として農業に取り組む兼業農家、それぞれどの程度の収入が得られるのか解説します。
専業農家の収入 手取りは415万円
農家の経営体は、以下の3つに分かれています。
副業的経営体
1年間に60日以上自営農業に従事している65歳未満の世帯員がいない
(主に高齢農家)
本記事では、主な所得を農業で得ている主業経営体を「専業農家」と位置づけて解説します。農林水産省農業経営統計調査によると、令和2年の主業経営体の平均的な農業所得は415.6万円でした。
兼業農家の収入 手取りは23.8~60.1万円
一方で、兼業農家の収入はどの程度になるのでしょうか。同調査の中で副業農家にあたる、準主業経営体および副業的経営体の農業所得を参照すると、それぞれ60.1万円、23.8万円という結果になりました。
2022年にJob総研が行った調査によると、副業・兼業で得ている年収の中央値は100万円です。 副業・兼業として就農を考えると、効率的ではないかもしれません。
しかし、将来的に専業農家を目指している人にとっては、技術を身に付けながら収入アップを図れるので非常に魅力的です。
脱サラしたあとの農業収入はどのくらい?
最後に、サラリーマンを辞めて農業の道に進む場合に、生活できるだけの所得を得られるのか確認しましょう。
脱サラで農業の夢、実現可能?
ここまで解説した、農業に関する収入データを再確認しましょう。
専業農家として生計を立てる場合の平均年収は433.5万円(令和2年度調査では415万円)です。この程度の収入を得るようになれば、平均的な水準の生活を送れるでしょう。
一方、雇用就農者の平均的な年収は約344万円で、日本人の平均年収433万円と比べると低い水準でした。それでも、独身なら十分に生活でき、結婚しても共働きであれば子どもを育てられる程度の年収は得られそうです。
ただし、農業は天候を中心に年によって出来高に変動のある仕事であることは認識しておきましょう。毎年決まった収入が得られるとは確約されないため、リスクに備えて手元に一定度の預貯金を確保しておくことが望まれます。
脱サラで農業を始める場合、初期投資に注意!
脱サラで就農する場合は、初期投資にも注意が必要です。全国新規就農相談センターによると、新規に農業を始めた人は平均で569万円の費用がかかり、そのうち232万円を自己資金で賄っているというデータがあります。
残額はローンで賄っていることも推察されるため、家計、および農業の事業収支を細かくチェックして、返済計画が破綻しないようにする必要があります。
初期投資について自分で考えて準備することは難しく、方針を誤るとプラン通りの生活が叶わなくなる可能性もあります。生活が大きく変わる新規就農時には、お金のプロであるファイナンシャルプランナーに相談するのがおすすめです。
農業は収入が安定するまで時間がかかるため、お金に関する不安は事前に解決しておきましょう。
農家の年収は「農業のやり方」で変わる
農家の収入事情について、農林水産省のデータなどに基づいて解説しました。粗収入から農業経営費を差し引いた農業所得の平均額が125.4万円という結果から、「農業で生計を立てるのは厳しいのではないか」と不安に思ったのではないでしょうか。
しかし、自営・専業農家に絞ってみると、農業所得の平均は433万円にもなります。農家として安定的な収入を確保するためには、どのような形態で農業を行うのか、しっかりと計画することが重要であると分かりました。
なお、専業農家として就農する場合は農業用機械や設備などの先行投資が、農業法人などに就職して農業を始める場合は初任給の低さが問題になりがちです。どちらにしても収入が安定するまでの期間、一定度の手元の資金は不可欠です。上手にお金のやりくりをして、農業で生計を立てる夢を実現しましょう。
お金のことで不安があるなら、ファイナンシャルプランナーへの相談がおすすめです。
家計から事業に関することまで「お金のプロ」へ相談できれば、不安も解消されるでしょう。