農林水産省の統計によると、2020年の農家の平均年齢は67.8歳。35歳未満の働き盛りは3%未満であり、農業人口の約7割が65歳以上です(いずれも概数値)。
農業業界の高齢化が進むなか、20歳の若者たちが寝食をともにしながら農家を目指しているとのうわさが! 早速、彼らに今後の農業に対する展望を聞きにいくことにしました。
「経営力」「農業力」「社会力」「人間力」を育むカリキュラムで、次世代を担う農業経営者を育成する全寮制の学校です。なんと、卒業後は全員就農しています。
午後4時の講義終了後にお話を聞かせてくれたのは、この3人です。
白井涼輔(しらい・りょうすけ)さん
プロフィール
21歳 2年生
茨城県久慈郡大子(だいご)町出身、大子町で独立就農予定。作目は主に水稲、ナス。祖母が和牛の繁殖をしているため、ゆくゆくは畜産もしようかな、と考えている。
塚本真菜(つかもと・まな)さん
プロフィール
20歳 1年生
静岡県島田市出身、実家は非農家。
理想は、地元で多品目栽培すること。
ちなみに、マイナビ就農FESTから日本農業経営大学校を知ったのだとか。
木村元康(きむら・もとやす)さん
プロフィール
20歳 1年生
山形県鶴岡市出身、卒業後は親元就農予定。
作目は水稲、枝豆など。在来野菜に力を入れていきたいと思っている。
なぜ農業? なぜ経営?
さまざまな業界・職種があるなかで、なぜ農業を選んだのか
白井さん
祖父母が農家だったので、ずっと農業と一緒に生きてきたような環境でした。1歳の時から畑に一緒に出たりしていて、それがすごく楽しかったんです。それに、祖父母の働く姿に憧れていました。
あとは、地方で農業をやる人がどんどん減っているなと感じたからです。人手不足になっている地域のためには誰かが農業をやらなければいけない。そういう状況を見て、自分の育った地域で就農したいという思いは強くなりました。
塚本さん
小学校の時にした田植え体験が楽しかったのと、毎日畑の間を通るという環境もあり、どんどん耕作放棄地が増えている状況を目の当たりにして引っ掛かりがありました。それに加えて、中学・高校の授業などで1次産業の問題を頻繁に聞いてきました。その解決に向けて、農業を助けるために何かするというよりは、自分で農業をやろう!と思ったのが理由です。
木村さん
実家の農家が枝豆と米を栽培しているのですが、お客さんへの直販が多かったんです。
特に枝豆は、直接買いに来てくれるお客さんが多く、「君の家のお父さんとおじいちゃんがつくる枝豆がすごくおいしくて、毎年食べたいんだ」と子どもの自分にもいっぱい聞かせてくれたっていう思い出があって……。自分でつくった訳ではないんですけど、それがすごいうれしかったんですよね。
あとは、地元のおばあちゃん、おじいちゃんとか地域の農業している人に「今日も手伝い大変そうだね、頑張っているの?」とか声をかけられたりしていたので、地元に育てられたという感覚があります。幼いながらにしてそういうのもうれしくて。地元で生活できて、自分も親のように関係性をつくれたらなと思い、農業を目指しました。
幼い頃の楽しかった思い出と、現状をどうにかしたいという思いから就農を考えたのですね!
進路についても、農業大学や農業大学校などさまざまな選択肢があります。
なぜ、経営を中心に学ぶ日本農業経営大学校を選んだのでしょうか。
なぜ、経営を中心に学ぶことに?
白井さん
実務に関してはほとんど農業高校で学び、家の手伝いで身についていたので、これから絶対必要になる経営を学びたいと思っていました。自分は中学生のときから6次産業化をしたいと考えていたので、6次産業化を学べる場というのが、学校を選ぶポイントに入っていました。国立大や都内の私立大の農学部とかも見たんですけど、なんかしっくりこなくて……。大学は研究が多く、経営者になるためというよりは先生・研究者になるための学びのように感じたんでしょうね。たまたま雑誌の広告欄に載っていた日本農業経営大学校を調べて、6次産業化も含めて経営が学べることにひかれ、入学しました。
塚本さん
県農大で栽培はすでに習得していたんですが、経営のところが足りないと思っていました。また、県農大だとその地域に特化した栽培は学べましたが、その地域のことしか分からないため、他の地域のことも情報収集したかったというのもあります。
周りに農家出身の友人もいたのですが、一旦どこかに就職してから将来継ごうかなと考えている人がほとんどで、新規就農した人が近くにいる環境ではありませんでした。このまま自分が就農するのは厳しいなと思っていたところに、就農前提の人が集まっているこの学校を見つけました。
木村さん
農家になるというゴールは決まっていたのですが、農家になる過程が決まっていませんでした。普通高校を卒業するときに、国公立の農学部に行くのか、それとも県の農業大学校に通うのか迷いました。
そこで、自分が父の手伝いをしたり、父の仕事をしている姿を見ていて、どのへんに違和感を感じるか観察することにしました。その結果、変えた方が良いんじゃないかと思ったのは、雇用人材の扱いであったり、自分を労働者として扱うときの父の考え方でした。そういうことの改善策を学べるのって、大きくくくると経営学かなって思ったんです。幸い、栽培技術は父から学べる環境だったこともあり、とりあえず経営が何かということを学びたかったんです。
希望の就農形態はバラバラですが、いずれも農業経営体のトップとしての活動を見据えた選択だったのですね。
実際に学校で、財務諸表などの経理について学んだり、現在活躍している先進農家の話を聞いたりと、農業経営者を目指すプログラムで日々勉強しているそうです。
なかなか勉強が忙しそうだな、と感じた筆者。
2年生の白井さんに、新型コロナウイルス感染拡大前の1日のスケジュールを聞きました。
1日のスケジュール
授業を受けた後も卒業研究に時間を当てたりしています。
農業と隣り合わせの生活をしてきたからなのか、朝が早いですね。寝ぼすけの筆者とはワケが違います。
高い志を持って農業の道を選んでいる皆さんですが、きっと大変なことはたくさんあるはず!
農業経営を学んでいて大変だな、と思うこと
意外なことに、この質問を投げかけると答えるまでに首をかしげて「うーん、なんだろ」と考えている様子の皆さん。
熟考したうえで、次のように答えてくれました。
木村さん
自分は消費者の立場になって考えるというのが難しいと感じます。実家が農家なので、生産者側の考えは分かるんですけど、消費者がどうしてこの商品を買うのか、どんな商品を欲しいのか、というのを導き出すのはなかなか難しく感じます。
白井さん
今の時点で、生産からいずれはやりたいと思っているレストラン経営までのあらかたの金額など事業計画を出しておかなければならないのですが、未知の世界のなかで手探りでやっていくのは大変です。
塚本さん
今学期は大半がオンライン授業で、オンラインの壁は大きいなあと感じます。対面授業の方が先生に質問しやすかったり、得られるものは大きいように感じます。
勉強の息抜きとしては、車やバイクに乗ったり、今はコロナ禍で行けないもののライブに行ったりするなど、若者らしい一面も教えてくれました。
将来目指す姿は? 農業に対して思うこと
どんな農家になりたいのか、またどんな農業をしたいか
白井さん
まず地域の農業を支えられる農業経営をしたいと考えています。
農業で町おこしをしたいと考えているんです。農家が町を元気にしたという事例の一つになれたらなと思います。
具体的には米からできた米粉のスイーツやシフォンケーキなど、スイーツを出す農園カフェを、圃場(ほじょう)の横にかまえたいです。がっつり農業体験というよりは、まずはラフに農業に触れられる環境にしていきたいと思っています。そこから事業を展開して、そのカフェをレストランに進化させたり、最終的にはグランピングに近い、手ぶらで楽しめるキャンプ場をつくりたいです。食べるものは自分で畑までとりに行って焼いてもらうっていうシステムにしたいです! 自分の会社で一つの村がつくれるようなイメージです。
塚本さん
ずっと目標としているのが、持続可能な農業です。環境と経済の両立って難しいなと思うのですが、そこをどう両立するか勉強しつつ模索しています。
もう一つは、同じ循環でも「地域」。地域のなかで循環していて、農業という渦があるところに周りのさまざまな業種の人たちを巻き込み、活性化するイメージです。
私の地元である静岡県島田市の中でも、中山間地よりの場所は農業をしている人は減っています。条件が不利なところが多いのですが、逆にその地域性を生かすというのが最終目標です。
木村さん
個人としては、自分の子どもや地域の子どもがああなりたいと思えるような農家になれればと思います。よく農家は3Kと言われますが、「うちのお父さん、農家なんだよ」と子どもが憧れるような職業になりたいですね。
もう一つは、地域で一番の品質のだだちゃ豆をつくる農家になりたいです。
あとは、お客さんの顔が見える直販は更に増やして、続けていきたいですね。
皆さんそれぞれなりたい農家像があり、成し遂げたいことも明確にあるようですね。
ハッキリした目標を持つ3人から見て、農業で問題だと感じる点を聞きました。
20歳が考える農業の問題
白井さん
やはり、農業の3Kというイメージが強く残っているような気がしますね。
でも、今の農業ってすごい進んでいるな、と自分は思っています。IT、AI、機械の進化により労働環境も変わってきています。昔みたいにしんどいというイメージがあるのは残念ですね。
農業も「ここの社員になりたい」「ここの公務員になりたい」というのと同じように、なりたい職業の一つにポンと入ってくればよいなと思います。
塚本さん
食糧生産の機能ばかり注目されているな、と感じます。他にも見えていないところで水田が洪水防止機能を果たしている点や、農家の草刈りによって景観が保持されていることなど環境に対して有益なものをたくさん生み出しているということを知ってほしいです。お金にならないため難しいとは思うのですが、食糧生産だけではない環境への貢献という点が注目されるのは重要だと思います。
木村さん
現場と農政がかみあっていないと感じることが、少し残念だなと感じます。農家さん同士の会話のなかで「現場を分かっていない」という意見も多々あります。現場と農政の間の壁がうすくなれば、国としてもっと農業を盛り上げようよ、というふうになるのではないかと思います。
このような農業の問題を踏まえたうえで、農業業界をどのようにしていきたいかを聞きました。
これから農業業界をどうしていきたいのか、今後の展望
白井さん
若い人にバンバン農業業界に入ってもらいたいです。自分は法人化する予定ですので、若い人が働ける会社にしていきたいですね。そういった活動のなかで、「農業があるからこそ、自分たちが生活できる」という価値感をみんなで共有していけたら、もっと魅力的な産業になるのかなと思います。
塚本さん
農業界のIT化はどんどん進んでほしいですね。
あとは、消費者にもっといろんなことを知ってほしいと思っています。自分が農業をするなかで、少しずついろんな人に小さいところから働きかけるということを頑張りたいです。そのために、どのように就農するかという計画を2年で固めたいと思います。
木村さん
若者があこがれる農業業界にしていきたいですね!