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世界の環境問題と食糧危機問題の解決に貢献するため ドローンで環境と調和した精密農業を実現する。

世界の環境問題と食糧危機問題の解決に貢献するため ドローンで環境と調和した精密農業を実現する。

ドローンの空撮画像を利用して、精密農業の実現を目指すドローン・ジャパン代表取締役社長勝俣喜一朗(かつまたきいちろう)さん。ドローンを農業に活用する可能性と、勝俣さんがこの事業に込める思いについて、前編後編に分けてお届けします。

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ドローンの空撮画像を利用して、精密農業の実現を目指すドローン・ジャパン代表取締役社長勝俣喜一朗(かつまたきいちろう)さん。日本で古来から営まれてきた環境調和型の農業を伝承するため、まだ先が見えない道を手探りで進んでいます。ドローンを農業に活用する可能性と、勝俣さんがこの事業に込める思いについて、前編後編に分けてお届けします。

勝俣喜一朗さん略歴

・大学卒業後マイクロソフトで23年間、Windows3.0から8.1までのマーケティングに従事

・ものづくりの原点は農業との確信の基、ドローンを活用した農業の「見える化」を始める

・環境調和型の米づくりが続くよう、ドローンを栽培に活用し育ったお米を販売開始

ドローンで精密農業に挑戦

私たちは、農業にドローンを活用することで、精密農業の実現を目指しています。ドローンを農業で活用すると聞くと、空からの農薬散布をイメージする方が多いかもしれませんが、私たちの活用方法は少し違います。ドローンに様々なセンサーを搭載して、空から作物を撮影します。さらに、撮影した画像から作物の生育状態を分析して、作物に対して何をするのが適切かを導き出すソフトウェア開発に力を入れています。

欧米では、以前より人工衛星を用いた作物の生育観測が行われていましたが、技術の革新によりドローンが注目され始めました。人工衛星と比べて、ドローンは近距離で撮影できるので、高解像度の画像が得られます。また、移動型のため多角的に植物の状態や環境を把握できます。20分間ドローンを飛ばすと、約5ヘクタールの田畑で2,000枚近い画像を撮影できます。5種類のセンサーは、近赤外線など、人の目には見えない光波も取得できます。撮影した画像を合成・解析し地図情報とあわせることで、それぞれの植物の生育状態を把握できます。

篤農家の経験とデータを組み合わせる

データを得るだけでは、ほとんど意味がありません。そのデータを元に「何をすればいいか」の提案が重要になりますが、それは世界でもまだ確立されていない分野です。正直、現段階でビジネスが成り立つかと言えば、否です。莫大な研究費を投下しているアメリカ・オーストラリア・フランスなどで研究は進みつつありますが、画像データで現状を把握した後、どうすればより効率的に作物を作れるのか、栽培行動を提案するまでには至っていません。

農業のやり方は農家によって様々で、何が正しいかは判断しづらいものです。加えて、露地栽培では天候により非常に大きく左右されます。だからと言って、あまりに複雑なデータを扱おうとすれば、本質的な要因が分からなくなります。

そこで私たちは、篤農家の経験と照らし合わせながら、何が意味のあるデータなのかを解き明かすため、実証実験をしています。データを篤農家の経験と合わせることで、価値のある情報にしようと試みているわけです。農家の経験と勘に頼っていたものを、少しでも形式知化することで、収穫量や品質を予測可能にすることを目指しています。

今は、協力いただいている篤農家のもとに通い、繰り返しドローンで空撮をし、仮説を立て、そこで得たデータと篤農家の方から聞いた話を合わせて分析をしている段階です。ただし、作物は基本的に年に一度しか作れないので、仮説検証も1年に1回しか行えないわけです。答えにたどり着くまで気の遠くなるような長い道のりです。しかし 、チップの集積度や格納できるデータ量の進歩とドローンによるデータセンシングを組み合わることで、古来より続く農の匠のアナログ技術を次世代に残せる光が見えてきました。私の現役生活残り半分はこの事業に投じます。

日本の匠へのリスペクト

そもそも、私が農業に興味を持ち始めたきっかけは、幼い頃にさかのぼります。私の家は農家ではありませんでしたが、農機具メーカーに勤めていた父に連れられ、頻繁に農家に遊びに行っていました。昭和40年代、高度成長の真っ只中、近代化にスポットライトが当てられ一次産業が斜陽産業にされた時代でした。父は常々「日本は足元を見つめなければいけない。日本の水と自然から生まれる産業は宝で、世界にもっとも誇れる。それを忘れるな。」と話してくれたものでした。

「一次産業に関わる人たちこそ、日本の匠の原点で尊ぶべき存在だ」と刷り込みのように言われたことで、私の中には日本の匠=農家に対するリスペクトが芽生え、根ざしたのです。

その後、私はIT業界に身を投じますが、日本の匠(PCメーカーなど“ものづくり”の匠)へのリスペクトは増すばかりでした。神は細部に宿ると言いますが、精密機器であるパソコンやスマートフォンの至るところに日本の匠の技術が原点となっていると、改めて気づかされました。そこから、私のライフワークは「ITを活用・広めることで日本人の匠が持つ感性や技術を価値にし、世界に広げること」となっていったのです。

匠が求められる時代

私は、匠の技術の原点は日本の農耕社会にあると考えています。農業は短期的に成果が出るものではありません。先がはっきり見えない中でも長期的ビジョンを持ち、長期視点で計画し、子々孫々のことを考え、ひたすら改善し続けることが日本の農耕に根ざす価値観でした。そうでなければ、農耕社会を持続することができなかったからです。最近では、「持続可能性」という言葉もよく耳にしますが、日本人にとっては当たり前だった感覚です。長期的な視点で積み重ねることが、日本の卓越した技術を生み出してきたのです。

ところが、グローバル化が叫ばれるようになり、日本人は自分たちの良さを捨て、目の前の効率化ばかりを追いかけるようになりました。農業の世界では、古来より行われてきた有機自然農法ではなく、農薬や化学肥料に偏った便利さ・安易さを重視する農業が主流になりました。

一方で、現在のアメリカでは実に10%もの作物が、オーガニックとして販売されています(日本は0.2%)。日本人が当たり前にやってきたことに、今、世界が取り組んでいるのです。視野を広げてみると、日本の原点が価値を持つ時代が訪れているということになるのです。

日本の農業が主役になる時

世界の食料問題を考えると、環境調和型の農業を実現させることは急務です。世界全体の食料生産能力を検証すると、現在の生産力では80億人程度の食料しか確保できないと言われています。しかし、人口増加は止まりませんし、環境破壊により耕地面積は急速に減っています。このままでは、世界の人口をカバーする量の食料を確保できなくなります。やがて、食料の取り合いで争いが起きると危惧しています。

次世代の子どもたちが平和に暮らし、安心安全なものを食べ・生き続けるためには、環境に即した持続的な農業に立ち返り、安定的な食料供給体制を世界視点で築く必要があります。

だからこそ、日本の匠の技術を生かして、世界の食料問題を解決する。そのために、経験を持った篤農家の知恵と技術を形式知化して、次の世代に繋ぐ必要があるのです。「植物の生育状態のIOTによる見える化」は、その一歩です。 今まだ日本の篤農家が存命のとき(篤農家の現在の平均年齢67歳)、この瞬間に取り組む必要があるのです。

 

後編では、勝俣さんが力を入れている「ドローン米」についてお届けします。

【関連記事】

ドローンが見える化する篤農家の3つのこと。持続可能な農業を応援するドローン米プロジェクト。

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