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野菜農家 小田友美さん

山梨で生きる就農ライフ -Live in yamanashi-

INTERVIEW 29
野菜農家
小田友美さん
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山梨県に移住・就農したきっかけは?

東日本大震災のとき、長男が生まれたばかりでした。食の流通に不安を感じ、「自分で作れば安心できる」と思ったのが、農業に関心を持ったきっかけです。やるなら自給自足ではなく仕事にしたいと思い、当時住んでいた立川市で、就農希望者向けの研修を行っていた有機農家に頼んで週1回だけ参加させてもらいながら、1年かけて農地を探しました。
けれども、女性が単身で農業を始めるにはハードルが高く、都内では農地も見つからず、家賃も高いため移住を視野に入れました。夫はミュージシャンで音楽活動を続けられることが条件だったので、立川に近い上野原市の窓口に相談しました。ユニークな場所を案内してもらい、地域のイベントにも足を運ぶうちに知り合いが増え、家族で山梨に移住しました。その後、知人の伝手で花坂集落の推定築120年の農地付き古民家に出会い、引っ越して今に至ります。

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農業はどのように学びましたか?

上野原市に移住後は、「農業次世代人材投資資金(準備型/現・新規就農者育成総合対策(就農準備資金))」を活用し、上野原市における有機野菜の先進農家(アグリマスター)のもとで2年間の研修(現・やまなしあぐりゼミナール研修)を受けました。特に農業に向き合う心構えを学ばせてもらったことが大きいです。
師匠のテーマは「やるかやらないかだ」で、迷うくらいならまず動くようになりました。「やればなんとかなる」という言葉にも背中を押されています。また「畑は見ていないとだめだ」とも教えられました。毎朝畑の様子を見に行きますが、昨日より1日分進んでいるのを見て安心します。前年の作との違いを見て施肥量を変えるなどの管理にも観察は欠かせません。作業自体は一人で行っていますが、「農業は一人でやるな」とも教えられました。困ったときは知り合いに聞き、常に情報交換をしています。師匠とは喧嘩もしましたが、独立後も何かと頼っています。

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農業を始めて大変だったことは?

借りた古民家はしばらく空き家で、付帯する畑も長く使われていなかったため、整備するところから始めました。さらに面積を広げるには開墾作業が必要で、左右に生い茂っていた藪を2年かけて切り開いて倍の面積にしました。農地は斜面にあるため大型機械が入らず、人力での作業が中心でした。ここで生きたのが、師匠の「やるかやらないかだ」という教え。研修を終えた際にプレゼントしてもらった刈払機も大活躍してくれました。
開墾したばかりの畑では作物が勢いよく育ちましたが、時間が経つと土地の本来の性質が現れてきます。そのため、施肥管理は今も試行錯誤の連続です。安くて良い種や堆肥を探すのは常に課題。いろいろな人に話を聞きながら、少しでも良いものを見つけるようにしています。

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現在、どのような農業をしていますか?

立川と上野原、両方の研修先が農薬や化学肥料を使わない栽培を行っていたため、そのやり方を踏襲しています。除草剤も使わず、雑草はひたすら手で取ります。上野原にはそういうスタイルの農家も多く、そこに興味を持つ新規就農者も集まっています。
現在は、2カ所にまたがる計28aの農地を一人で管理し、少量多品目で年間約50品目の露地野菜を育てています。特定の主力作物は設けず、収穫した場所に次の作を植えて、畑を循環させながら管理しています。レタスや香味のあるワサビ菜やルッコラなどの葉物野菜を4種類ほど詰め合わせたサラダ用ミックスは比較的定番の商品です。短いサイクルで種から育てるため、たとえ失敗しても損失が少なく、やり直しがきくのが強みです。
販路は、中央自動車道・談合坂サービスエリアの野菜直売所や、LINE公式アカウントでの直販、個人の飲食店にも、収穫できた分だけ納品しています。

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作型や販路の工夫を教えてください

野菜直売所で他の生産者と競合しないよう、あまり扱われていない作目にチャレンジしています。最近では、数年前から栽培している花ズッキーニが直売所でも好評です。そのほか、実験的に四角豆やヒヨコ豆も育てています。ちなみに私は作っていませんが、上野原ではキヌアが特産品です。
食べ方の提案ができればと思いつつ、詳しい方が他にもたくさんいるので、私はまず生産に集中しています。オーガニックを意識する人が増えている時代ということもあり、ネット直販は比較的順調です。生産が追いつかないこともあり、申し訳ない気持ちもありますが、一人で回せる規模での運営を心がけています。お客様にもご理解をいただき、定期便はなく、内容はおまかせで、毎月「5」のつく日を発送日にするなど工夫しながら農業経営を続けています。
加工品の開発にも関心はありますが、何が求められているかは模索中。相談は広く、作業は一人で完結できる範囲で最大化する努力を続けています。

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山梨での暮らしはどうですか?

上野原は静かで穏やかな環境で、人もおっとりしています。地域では集落の管理に参加させてもらったり、お祭りや花見など、広域的な行事にも積極的に関わらせてもらっています。神奈川県に隣接し、都内にも近いため移住者も多く、同世代の知り合いや農業仲間ともつながりができ、情報交換をしながら助け合っています。
一昨年には、10歳になる長女の希望で、岐阜から愛犬を迎えました。今は、家族5人と1匹で暮らしています。農業収入は、以前、都内でレストランのアルバイトをしていた頃とほぼ同じくらいですが、住まいは改修が必要だったとはいえ家賃が格段に安く、暮らしには十分見合っています。
実は、家族はあまり野菜を食べませんが、有機栽培が根づいた上野原の野菜の味は、やはり格別だと感じています。

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今後の抱負、就農希望者へのメッセージ

一人でできる範囲でやっていくという基本方針は変わりませんが、年々、より楽にできる方法を見つけながら、農業を長く続けていきたいと考えています。一括で納入できる販路があると便利かもしれませんが、やはり個人との信頼関係を大切にしたいと思っています。 農業をしていると、心境や環境が変化するものです。初心を忘れずにいるのは難しいですが、「なぜやりたかったのか」「どんな畑にしたかったのか」と、原点に立ち返ることが大切だと思います。
そのためにも、一人で抱え込まないこと。栽培面でも資金面でも、信頼できる相談先をたくさん持っておくことを、就農希望の方にはぜひおすすめしたいです。

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