

マイナビ農業TOP > 山梨で生きる 就農ライフ > 果樹農家 粂田和之さん



前職は編集者として東京の出版・コンテンツ企業に勤務していました。コロナ禍で出版業界が縮小し、私の部署でも刊行する本の数が減ると告げられたことをきっかけに、以前から関心のあった農業への転職を本格的に考えるようになりました。農業なら定年なく続けられる仕事であることが魅力で、何より自分が育てたフルーツを食べる人に「おいしい!」と言ってもらえる喜びを実感したいという思いがありました。
当初は他県でも移住就農の面談を受けましたが、夫婦で農業に従事することが条件とされ、妻は仕事を続ける意思があったため残念ながら断念しました。そんな時、地域おこし協力隊の制度に就農研修ができることを知り、妻が見つけてくれた甲州市の果樹栽培の募集に迷わず手を挙げました。協力隊の選考に際して、研修先となる支援機関「株式会社あぐりフルーツ」取締役の反田さんの畑で農業体験をさせていただきました。丁寧な指導、収穫の楽しさ、何よりもシャインマスカットの格別なおいしさに心を動かされ、「ここで農業を始めたい!」という就農への意欲が一層強まりました。
研修先である「株式会社あぐりフルーツ」は、JAフルーツ山梨が出資する農業法人です。管内の生産者の高齢化を受けて、後継者の育成と作付けできなくなった畑を借り受けて果樹栽培を担うことを目的に設立されました。
あぐりフルーツは就農希望の地域おこし協力隊員を研修生(アグリトレーニー)として受け入れ、将来の地域農業の担い手となる新規就農者を育成しています。研修生への技術指導から就農支援までワンストップで行う仕組みになっていて、私は一期生として、3年間の任期で報酬を得ながら果樹栽培に従事し、実践的に学んでいます。
研修では、ブドウ・モモの栽培を一から十まで実地で教わります。ブドウを例に挙げると剪定や房づくり、摘粒、袋かけや収穫といった栽培管理から、ブドウ棚の補修や架け替えのなどのほ場の管理、耕作放棄地を解消して苗の植え付けなどを学びました。それ以外にも甲州市の特産品である枯露柿作りまで、年間の農作業を3年間繰り返し実習します。座学では農薬や肥料の使い方、病害虫防除、果樹経営の心構えなども学べる充実したカリキュラムで、初心者でも安心して技術や経営者マインドを身につけることができました。
ブドウやモモが商品になるまでには、摘房、摘粒、摘果といった細かい作業を根気よく積み重ねなければなりません。それらを体験する中で「一つひとつの作業が本当に貴重で、すべてが最終的な商品価値につながる」と実感しました。こうした細やかな作業の大変さはありますが、それ以上に収穫できたときの喜びは格別で、農業のやりがいを感じています。
もともと編集者時代からコツコツと作業するのが好きだったので、ブドウの摘粒のような根気のいる仕事も「意外と性に合っているかもしれない」と思えたのは嬉しい発見でした。また、研修中はあぐりフルーツのスタッフや、協力隊員の仲間と一緒に作業することが多く、楽しく働ける環境にも恵まれています。
山梨県には多彩なオリジナル品種があり、あぐりフルーツにはサンシャインレッドなどの新品種もいち早く導入されます。「どんな味だろう」とワクワクしながら、常に新しい挑戦ができる環境にいるのも大きな魅力です。

農地については、あぐりフルーツが管理する農地から「のれん分け」という形で借りて独立することができます。すでに収穫できる状態の畑もあれば、まだ育成中の畑もあり、研修中に植え付けと育苗も併せて行っています。
私の場合はブドウをメインに30aの農地を借りて就農予定です。就農初年度は20aのシャインマスカット成園を協力隊の同期と二人で管理していくほか、自分たちで解消した耕作放棄地のでブドウを育てていきます。
独立に向けた住居は、知人の紹介で畑に近い作業場付きの家を譲っていただくことができました。農繁期が落ち着いたら夫婦でDIYリフォームに本格的に取り組んでいきます。現在の私を含め協力隊員の多くはアパート暮らしですが、独立就農後は師匠の反田さんの紹介で作業場を使わせてもらえるので、住居探しに焦る必要がないのも安心できるポイントです。
軽トラックや乗用モア(乗用草刈り機)などの機械については、研修中に使用していた機械を、独立時に安価で購入できる仕組みを利用するため、初期投資の負担を大幅に減らせるのもありがたい支援です。


メインはブドウのシャインマスカットで、その他にはサンシャインレッドやモモ(なつっこ)も栽培予定です。成園に成長した畑からは年間500万円ほどの農産物収入を見込んでいるので、経費を差し引いても十分生活できる水準を確保できます。その後は段階的に規模拡大し、技術力を高めていくつもりです。
自宅はローンを組んでリフォームを進めていますが、将来的には自宅の2階を農泊として活用し、妻と一緒に農業体験を提供することで、地域の担い手不足の解消にも貢献したいと考えています。農業を通じて人とのつながりを広げ、山梨の魅力を多くの人に伝えていけたら素晴らしいと考えています。
甲州市での暮らしは移住前に想像していた以上に快適です。都会にいた頃と比べても不便さはまったく感じず、むしろ車があることで買い物などもスムーズになりました。妻は当初、地方移住に不安を感じていましたが、甲州市は東京に近く、妻も週1回は東京に通勤できる環境だったため納得して移住を決めてくれました。
地域の方々は皆さん「話しやすく」「温かい人が多い」と日々実感しており、毎月行われる朝市などのイベントやよく利用するお店での紹介などを通じて、自然に人とのつながりが広がっています。年間を通じて旬のフルーツに囲まれた暮らしは本当に豊かで、農業を通じて山梨の素晴らしいフルーツを全国に届けられることにより地域に貢献できることが何より嬉しいです。
趣味の映画鑑賞をゆっくり楽しむ時間も確保でき、都市部では味わえない静かで充実した日々を送っています。


私自身の体験から心から言えるのは、甲州市の地域おこし協力隊(アグリトレーニー制度)は本当に素晴らしい仕組みだということです。安定した収入を得ながらしっかりと研修を受けることができ、手厚い独立支援と独立後も相談できる体制が整っているので、「独立就農への不安は全くない」と胸を張って言えます。
甲州市では現在地域おこし協力隊を募集中です。もし気になる方はこの制度を活用して山梨に来てください。あぐりフルーツでは3日間のお試し研修体験を受け付けており、適性がある方はインターンシップに進む仕組みも整っています。まずは実際に体験してから判断できるので、より安心して第一歩を踏み出せます。
また、地域おこし協力隊の制度ではなくとも農業をやってみたいと思っている方がいらっしゃったら、ぜひ一度、何かしらの機会に農業を体験してみてください。きっと新しい人生の可能性を発見できるはずです。
私は45歳で就農を決意しましたが、農業は定年のない仕事であり、まだまだこれからが本番です。地域では60代、70代の現役農家さんも数多く活躍されており、むしろ「まだ若いね」と温かく迎えていただいています。年齢を理由に迷うことなく、思い立ったらなるべく早く始めることが大切だと実感しています。
就農を考えている皆さんと一緒に、山梨の美味しいフルーツを全国に広め、地域の担い手不足の解消につなげていけることを心から楽しみにしています。
農業に興味がある方、山梨県に移住したい方はこちらよりお問い合わせください(山梨県HPにジャンプします)。