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日本の農業活性化への提言 西辻 一真 氏

NEXT AGRI  PROJECT 明日の日本農業を語る活性化会議

日本の農業活性化への提言

NEXT AGRI PROJECTに向けて

株式会社マイファーム
代表取締役CEO
西辻 一真 氏

Kazuma Nishitsuji

全国の耕作放棄地を110カ所の貸し農園として再生し、消費者に「農の楽しさ」を伝え、農業に関心を抱く人を増やしている株式会社マイファーム。代表の西辻一真(にしつじ・かずま)さんは、京都大学農学部で品種改良を学ぶ一方、「農業関係人口を増やす」ことを通して食糧問題を解決したいと同社を設立。耕作放棄地の再生・収益化事業を柱にした成長企業として、農業界内外から熱い視線を集めています。事業を通した農業への思いや、生産者ではない“農業支援企業”としての農業との関り方についてお聞きしました。

進む「農の産業化」―「野菜作り」時代の良さを伝えたい

 2050年は、世界の人口が100億人になるといわれています。でも今のところ、100億人前の野菜を作るテクノロジーはない。ならば、「野菜作りをする人の数を増やせばよいのでは」という発想が、僕の原点の一つです。
 そもそも、農業は最初から産業だったわけではありません。僕たちのご先祖様が生きるためにやってきた「野菜作り」が分業化され、「農業」になった。ただ、今までの農業は、政策に守られてきた“産業もどき”でした。それが今、ITや品種改良による生産の効率化を通して、真の意味で産業化されようとしています。
 「農の産業化」が人間にとって重要な一方、「野菜作り」の時代の方が良かったことも結構あります。皆で喋りながら畑仕事をしたり、収穫する喜びを感じたり。そういう「野菜作りの楽しさ」は、産業化・効率化を追求すると、どんどん失われていってしまう。「農の産業化」は大事だけど、「野菜作りが持つ、農業の本来の良さというのを失わせてはいけない」というのが僕のスタンスです。

「自然サービス業」の持つ価値とは

 この「野菜作りの本来の良さを伝える役割」に価値を持たせようと考え出したのが、「自然サービス業」という分野を創ることでした。「自然サービス業」は、農業に関心を持つ人を増やし、人と畑を近づけるためのもので、(従来の生産に集中する)農業とは異なります。
 マイファームが取り組む「自然サービス業」の趣旨は、種蒔きから食べることまでの一連のプロセスを全部自分で体験することで、“農業の楽しさ”や“誰かと畑仕事をやる素晴らしさ”を消費者に知ってもらうことです。
 「自然サービス業」と、「産業化する農業」を混同してしまっている状態。こういう人は大体サービス面で失敗します。両者は別の領域だということを、農家自身が理解することはとても大事です。

地域活性化と「自然サービス業」の親和性

 田舎には田舎の良さがある、と地方の人に気づかせるのも「自然サービス業」の役目です。
 僕の故郷の福井県坂井市で、地場産の野菜や耕作放棄地で平飼いした鶏の卵を使った料理を出すレストランを経営しています。なぜ地方にレストランを作ったかというと、都会だと「素敵な空間で美味しいご飯を食べてほしいのに、賃料や給料が高いから回転率を上げなくてはならない」というジレンマに陥るからです。それに本当に美味しくて新鮮な素材は、生産地に来ないと食べられません。美味しい素材をゆっくりと食べられるレストランは、地方でしか実現できない。それを、地方に住んでいる人たちにも理解してほしいと思います。
 僕らのような都会の人が、外部からの視点で地域ごとの価値を見出し、今ある農業資源を活かしながらちゃんと収益化することは大切です。外部からの視点で地域ごとの価値を見出し、今ある農業資源を活かしながらちゃんと収益化することは大切です。消費者に近く、マーケットを知っている人や企業が、旗振り役を担えば最も上手くいくと思います。それを真似する人が地元から出てくれば、確実に地方は活性化するでしょう。

「NEXT AGRI CONFERENCE」でフラットな対話を―各ステークホルダーへ向けて

 これからは個が大切な時代。生産者も「自分がなぜその仕事をやっているのか」をきちんと言えるようになるべきです。「やっていることに意義や誇りを持つ」とも言い換えられます。意見がない人に未来はありません。国際競争にもさらされる今、生産者はただの“野菜作りマシーン”になってはいけないのです。
 「2050年の未来はどうなるか」といった一つのお題に対して、農業従事者、そして生活者や消費者一人一人が、“個人事業主”のような当事者意識を持って意見を言い合えば、異なる立場の人の発言もうまく吸収して活かせます。
 農業が効率化されれば、人間と自然の距離がどんどん離れていきます。それを防ぐために消費者に「農業のことを理解しましょう」と押し付けるのではなく、まずは「自然サービス業」を通して“農の良さ”を知って貰いたいです。それを推し進めるのは、僕らのような生産者ではない企業の役目です。そのような農業支援企業には、「自然サービス業」というものがあると知って貰い、共感して貰えるなら一緒に取り組みましょうと言いたいですね。

 「NEXT AGRI CONFERENCE」は、それぞれの立場の人が個として意見を持って参加し、対話できる場所になるといいですね。共通のお題についてコミュニケーションをとりながら一緒に考えられる。そんなフラットな場になることを期待しています。

株式会社マイファーム
代表取締役CEO 西辻 一真 氏

1982年福井県生まれ。
2006年、京都大学農学部資源生物科学科卒業。
一年間の社会人経験を経て、「自産自消」の理念を掲げ、耕作放棄地の再生及び収益化事業を行う株式会社マイファームを2007年に設立。体験農園、農業学校、流通販売、農家レストラン、農産物生産など、独自の観点から農業の多面性を活かした事業を立ち上げる。
2010年、戦後最年少で農林水産省政策審議委員に就任。2014年、内閣府国家戦略特区農業特区委員就任。2016年、総務省「ふるさとづくり大賞」優秀賞受賞。
将来の夢は世界中の人が農業(土に触っていること)をしている社会を創ること。

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