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日本の農業活性化への提言 古賀 啓一 氏

NEXT AGRI  PROJECT 明日の日本農業を語る活性化会議

日本の農業活性化への提言

NEXT AGRI PROJECTに向けて

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門
マネジャー
古賀 啓一 氏

Keiichi Koga

今、日本各地で農業を通じた地域活性化の取り組みが始まっています。こだわりの農産物を地域ブランド化したり、農家が民宿やレストランを経営したり。農業による地域活性化において重要な鍵を握るのが6次産業化、また企業や自治体との連携です。異業種の農業参入や新技術の活用やブランディングを伴う農業ビジネスの調査・研究、コンサルティングに携わる日本総研の古賀啓一さんに、農業による地域活性化を成功させるうえでのポイントをうかがいました。

企業と連携し、マーケットインの発想をもつ

 「最近はSNSで自分がどんな思いで、どんな風に作物をつくっているかを発信し、自ら販路拡大を目指す農家も現れています。ただビジネス経験のない農家が自ら流通・販売までを担って大きく成功するというのは簡単なことではありません」と古賀さんは言います。

 農産物の商品化には消費者ニーズをつかみ、商品のコンセプトをつくり、どのような消費者にどのような伝え方をすれば効果的かを考えるマーケティングに始まり、事業計画の策定、販路の確保・拡大など、ビジネスの知識やノウハウが不可欠です。
 とくにこれまでの生産者に一番欠けているのが、マーケットイン(消費者視点)の発想です。「農家は自分たちの生産技術をいかに高め、いいものをつくるか、といったところばかりに意識がいきがちです。でも自分がどんなに良いものをつくったと思っても、消費者に受け入れられなくては意味がありません。ただ消費者が何を求めているかは、実際に売ってみないことには分かりません。卸や小売り、消費者の反応から改善を繰り返すことで、初めて商品力は向上していくのです」と古賀さん。

 お米は従来、5キロ、10キロという単位で売られていました。しかしある企業が食べきりの3合パックで販売したところ人気となり、今では小袋入りのお米がお土産品としても売られるようになりました。このような発想こそマーケットインです。「消費者の視点を養うには、まずは商談会やファーマーズマーケットなどで自分がつくったものを直接売る、PRする体験が大事」と古賀さんは言います。
 ただ必ずしも流通・販売のすべてを農家が担う必要はありません。むしろ企業と連携し、そのノウハウや技術を上手く活用することが大事です。自分の商品に惚れ込んで売りたいと思ってくれるバイヤー、加工して海外に販売することに意欲的な企業、マーケティングや生産性向上を支援してくれるIT企業などと、良きパートナーシップを組むことが重要なのです。「そのためのマッチングの場やしくみづくりが今、とくに求められています」と古賀さんは指摘します。
 幸い、今は様々な業界の企業が農業に関心を示し、新規参入しています。IT企業が農業支援に取り組み、建築会社が植物工場をつくったりもしています。このような異業種の企業と連携することで、農業にイノベーションを起こせる可能性も高まっているのです。

自治体とタッグを組んで地域全体のブランド発信を

 さらに最近は、自治体も地域活性化や農業の高付加価値化への支援に力を入れています。「商品開発、JR駅や道の駅などの販路の紹介、地元企業とのマッチング支援などを積極的に行っています。さらに専門家の力を借りながら、マーケティングや事業運営など高付加価値化をトータルで支援する自治体も増えています」と古賀さん。そのような支援は積極的に活用したいものです。
 また自治体のもう一つ重要な役割として、地域全体のブランド力を高め、発信していくことがあります。そのよい例として古賀さんが紹介してくれたのが、兵庫県豊岡市です。ここでは長年、市がコウノトリの保護活動に取り組み、生物多様性を保全するための地域戦略を策定するなど地域としての方向性を形にしながら、それを熱心に発信してきました。そのうえで農協の呼びかけのもと、農家が農薬や化学肥料に頼らず、田んぼに水を深く張って栽培したお米を『コウノトリ育むお米』としてPR、販売しています。このような農家を始めとした地域の人が一体となった取り組みに、消費者からも多くの共感が集まっています。

 地域ならではの魅力をどう打ち出すか。そのなかで農業がどのような役割を果たすべきか。確固とした方針を示し、旗を振り続けることで大きな流れをつくることも自治体が果たすことのできる大事な仕事と古賀さんは考えています。

外部の視点で地域と農業の魅力を掘り起こす

 農業が他の産業と大きく違うのは、その土地と深く結びついていることです。農業はその地域特有の自然のなかで発展し、地域の景観、文化、人のつながりをつくりあげてきました。「農家はその地域の祭りや景観の維持・管理など、一般的な企業の経済活動からはみだすような役割も担ってきました。それを農業特有のコストとしてのみ捉えるのではなく、いかに自分の商品の付加価値に取り込むかという発想も重要な鍵のひとつです」と古賀さん。
 独特な祭りや風習、農法や棚田など、その地域にしかないものこそ、ブランドとなる可能性があるのです。だから「他の地域の成功事例をそのまま持ってきてもうまくいかない」と古賀さんは指摘します。
 また地域の魅力は、実はその地で暮らす人より、外部の人のほうが発見しやすかったりもします。農業も同じです。普段、農業に携わっていない人のほうが、その魅力や可能性に気づくことが少なくないのです。
  「例えば都会の子供は、トラクターやコンバインに乗せてもらうだけで大喜びします。実はそのようなことへの気づきが、農業の新しい付加価値の発見につながるのです。だから農家の方には、稲刈り・田植え体験などの始めやすいことからでも積極的に交流の場を作ることをすすめています」と古賀さん。自治体や学校も、それらの受け入れを積極的に農家に依頼すべきだと言います。
  また農業を通じた地域活性化は、必ずしも農家がリーダーシップをとる必要はありません。例えば、香川県のさぬきうどんブームは、タウン誌の編集者が辺鄙なところにあるうどん屋を面白がって記事にしたところから始まったとも言われています。農業の魅力や可能性も、もっと外部の人に発見してもらい、アピールしてもらっていいのです。
 そのためにも、企業や自治体を始め、様々な視点をもつ人たちとのより良い連携をいかにつくるか。それがこれからの農業の発展、地域活性化の鍵となるのです。

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門
マネジャー 古賀 啓一 氏

1982年生まれ。神戸市出身。
2007年 京都大学大学院人間・環境学研究科相関環境学専攻修士課程修了。
同年 株式会社日本総合研究所に入社。
2014~2016年 農林水産省に出向。農業、環境、観光等の分野でのコンサルティング実績多数。

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