養鶏農家 田辺竜太さん
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山梨県に就農したきっかけ、経緯は?
祖父が忍野村で養鶏を始めて、私で3代目。正直なところ、私自身は養鶏場を継ぐつもりはなく、父もその前提でゆくゆくは廃業する方向で経営を縮小しているところでした。
私は首都圏のサッカースクールに勤めていましたが、2016年夏に父が急逝し、忍野村の実家と東京を行き来しながら、養鶏場の事業をどうするか悩んでいました。地域のお客さんも心配してくださり、「卵屋さんがなくなったら困る」など、ありがたい言葉もいただきました。いとこである農場長をはじめ農場をサポートしてくれるスタッフの存在もあって、忍野村に戻って養鶏場を継ぐ決心をしました。当時交際中だった妻も状況を察して「いつ山梨へ行ってもいい」と言って背中を押してくれました。2017年1月に田辺養鶏場に入り、2020年に母から経営を継承しました。
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農業経営へのこだわりは?
2022年12月、念願の平飼いを一部の鶏舎でスタートしました。2023年夏には、やまなしアニマルウェルフェア認証を取得しました。養鶏では黒富士農場さん(甲斐市)に次ぐ2番目の認証になります。
話はさかのぼり、実家の田辺養鶏場に戻ったとき、経営として「売り」を強くしたいと思い、都内のマルシェやイベントに出店しました。富士山麓の水がきれいな忍野村の卵はイメージが良く、お客様に興味を持っていただき、「平飼いですか」という質問を度々受けました。そこでケージ飼いということがすごくウィークポイントに感じられ、平飼いへの思いがずっと頭の中にありました。
今は平飼いをしていることがブランディングになって、ケージ飼いの卵もポジティブに手に取っていただけるようになりました。
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就農して苦労したエピソードを教えてください。
忍野村に戻ってきたとき、農場長のサポートもあって生産の現場はうまく回っていましたが、自分には養鶏場の経営のことがよくわからず、県内で最先端の農場に教えを乞おうと、黒富士農場さんを訪ねました。そこでアニマルウェルフェアの考え方や取り組みを聞きましたが、父が廃業するつもりだった田辺養鶏場とのギャップが大きすぎて、手つかずにいました。
その後、老朽化した鶏舎2棟をフルリニューアルすることになり、私たちのような家族経営の小規模農場は、従来のケージ飼いでは差別化できないと思い、再び黒富士農場さんに話を聞きに行きました。折しも黒富士農場さんが平飼いの支援事業を始めたところで、全面的な技術サポートを受けて平飼いをスタートさせました。スタッフも1週間、黒富士農場さんの研修室に寝泊りして農場を見せてもらうなど、お互いに行き来して平飼いのノウハウを教えていただきました。
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平飼いを始めるにあたって腐心したことは?
販路の確保です。平飼いの検討を始めてから県内外20カ所ほど養鶏場を見学させてもらいましたが、どの農場でも「卵の価格がケージ飼いとくらべて1.5〜2倍になるが、売り先は大丈夫なのか」と聞かれました。
富士山麓で湧き水に恵まれたロケーションを強みに、ブランディングで販路を広げようと考えましたが、1年目の売り先は流動的でした。翌年からは、黒富士農場さんの紹介もあり、全農さんや生協さんと契約を結ぶことができました。家庭用は年間を通して一定の需要があり、経営も安定してきました。
平飼い用の鶏舎の建設費の一部は、情報発信も兼ねてクラウドファンディングで調達しました。ヨーロッパを中心にアニマルウェルフェアが浸透し、アメリカの一部の州ではケージ飼いを禁止する動きもあります。日本ではまだ平飼い卵の流通量が少ないため、情報発信が目に留まって引き合いをいただくこともあり、外資系飲食店で使っていただいています。
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この仕事のやりがいは?
私たちの卵を買ってくれる方の顔が見えることです。直売所へ買いに来てくださるお客様はもちろん、卵を使っていただいているホテルや飲食店へも可能な限り家族で食べに行ったり宿泊して現場を見ます。店の方から評価や感想が聞けることが、やりがいや喜びにつながっています。
地元の忍野村でも、若い人たちがUターンして飲食店や製菓店を経営していて、私たちの卵を使ってくれています。お互いに励みになり、刺激を与えられる環境がいいですね。隣の富士吉田市では、地場産業の機織り再興をはかるフェスに出店させてもらったり、母たちが実家を改装して運営しているたまご食堂で、フリーで活躍されているシェフが料理教室や食育イベントを企画してくれたり、「忍野のたまご」で地域に貢献できることがうれしいです。
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今後の目標をお聞かせください。
今、農場の移転の話があります。黒富士農場さんも関わってくださり、設計を進めているところです。これからアニマルウェルフェアが、間違いなく日本にも浸透すると思います。この移転を機に、私たちがモデル農場的な存在になり、平飼いを始めたいという農場が出てきたときに、流通も含めて、アドバイスできるようになりたいです。
併せてたまご食堂もリニューアルして、加工品や飲食を含めてよりいい形でオープンできるように、モデルケースとなる各地の施設を見に行き、計画を練っているところです。
忍野村としても、ふるさと納税に力を入れるなど、地域物産と観光を財源にしていこうとしているので、私たちも、卵を通じて人を地域に呼び込めるようになりたいです。畜産は人のいない山奥で営まれているイメージがありますが、食育やイベントなどを通じて、もっとみなさんの身近に感じていただけるように活動していきます。
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