動物とのふれあいや体験を通して
酪農・乳業への理解を醸成
日本における酪農の現状
酪農とは牛などを飼育し、牛乳やチーズ、バターなどの原料になる生乳を生産する畜産業のことを言います。日本では主に牛を飼って牛乳を生産する酪農が盛んで、現在130万頭を越える乳牛が飼育されています。近年、酪農業を営む農家は年々減少する一方で、1戸あたりの乳用牛の飼育頭数は増加傾向にあります。100頭以上の乳牛を飼育する農家による飼育頭数が全体の約4割を占めるなど、大型化・集約化が進んでいるのが現状です。地域別には、北海道が飼育戸数・頭数ともに1位で、以下頭数で、栃木、熊本、岩手と続いています。
酪農業界の新しい動き
酪農家が飼育頭数を増やせるようになった背景の一つが、搾乳ロボットなどによる機械化やITの導入による酪農技術の向上です。また最近では、牛乳からバターやチーズ、アイスクリームなどの乳製品を加工・販売し、観光牧場として消費者を呼び込んだりする農業の6次産業化に取り組む牧場も増えています。現在日本で飼育されている乳牛の99%は乳量の多いホルスタイン種ですが、乳脂肪分の高いジャージー種やブラウンスイス種などを飼育し、ブランディングに力を入れる農家もいます。
牛が持っている能力を最大限引き出すことが
私たちの役割だと思っています。
- プロフィール
- 熊本県立菊池農業高等学校を卒業後、動物関係の仕事を経て、5年前に阿蘇ミルク牧場の管理運営会社である株式会社マザーズファームに入社。乳用牛の飼育を担当して4年目を迎える。31歳。現在牛舎部門の責任者として、4人の従業員の指導にも当たっている。
阿蘇ミルク牧場は、阿蘇郡西原村にある体験型の牧場で、乳牛を飼育して牧場内で加工・販売するほか、手づくり体験館、動物ふれあい広場、バイキングレストランなども併設し、酪農・乳業の理解醸成に取り組んでいる。 - 担当している飼育動物の特長や力を入れていることについてお話ください。
- 牛舎部門では、現在、ホルスタイン、エアシャー、ブラウンスイス、ジャージー、ガンジーの5種類の乳牛を飼育しています。牛舎で搾乳した生乳は、場内の工場で牛乳や乳飲料、バター、チーズなどの乳製品を生産し場内の店舗で販売するほか、牛乳を使った手作り体験教室や乳搾り体験などのイベントも開催しています。これらの体験を通して、消費者の皆さんに酪農・乳業のことに興味を抱いてもらったり、楽しみながら理解していただくことが重要な使命だと思っています。
- 酪農の仕事に就こうと思った理由やきっかけについて
- 子どもの頃から動物が大好きでした。小学生の頃には、学校帰りに見つけたヘビを親に内緒で飼って、すごく怒られた経験もあります。菊池農業高等学校ではヤギや羊、ダチョウなどの飼育を学びました。卒業後は動物を飼育する仕事に就いていたのですが、乳牛という大きな動物の飼育に携わってみたいと思い入社しました。乳牛だけでなく、牧場内にはヤギや羊などの動物たちがいるのも魅力です。
- 酪農の仕事をする上で大変なことや抱えている課題は何ですか?
またその課題に対し、どのように向き合っていますか? - 牧場では、開業当初から5種類の乳牛を飼育しています。それぞれ種類や個体によっても性格や特長が違いますが、接し方はほぼ同じです。愛情をかけて関われば関わった分だけ、乳量や乳質で返してくれます。ただ、乳牛たちは、抱えている痛みやストレスを言葉で伝えることができないので、日々の観察を何より大事にしています。
乳牛は乳房炎等の病気になってしまうと、治療・投薬を施します。その間、搾った生乳は廃棄となり出荷はできません。そうならないためにも、牛舎内の衛生管理の徹底とスタッフ間で搾乳マニュアルを共有し、誰が搾乳しても同じ手順でできるよう工夫しています。
1頭1頭が牧場の大切な乳牛であることを認識し、病気になる前に見つけることが大切です。 - 酪農の仕事をする上で、いちばんやりがいを感じることはどんなことですか?
- 乳牛は、経済に貢献してくれる動物です。もともと人が牛乳をもらうために改良してきた動物で、それだけの能力を持って生まれてきています。その能力を発揮できる環境をどこまで作ってあげられるかが、酪農の仕事だと思っています。動物たちが役割を果たせるように、能力を最大限に引き出してあげることがいちばんのやりがいですね。もちろん思うようにいかないこともあり、日々試行錯誤の繰り返しですが、牛からいろんなことを教わっているので、それを還元していくのも、私たちの大事な仕事だと思っています。
- これからの目標と、就職・就農希望者へのアドバイスやメッセージをお願いします。
- 今後は、後輩の指導にも力を入れながら乳量を増やし、牧場の安定した売上に貢献できるよう取り組んでいきたいです。また、当施設を研修等に活用してもらい、新たに酪農に参入する人を応援できるような施設づくりにも取り組みたいですね。最近は、自分の牧場に一般のお客様を迎え入れるなどして酪農の理解醸成活動に取り組む酪農家も増えています。ブラウンスイスなどの乳牛を飼育して、チーズを作るなど、アイデア次第では伸びしろのある仕事です。酪農は、努力して頑張った分を乳牛たちが収益として返してくれるとてもやりがいのある仕事です。好きだけで務まる仕事ではありませんが、好きということは最大のモチベーションになると思います。