生産者の声。事業者の声。
CHAPTER 3 生産者視点に立つ。
生産者の声。事業者の声。
生産者の声。
農業機械は進化したものの普及に至るか?
国が進めるスマート農業の普及が伸び悩みを見せています。最たる原因は、生産現場と農機メーカーとの間にぽっかりと空いたニーズの溝。双方の意見を重ねると、普及の障壁となっている溝の正体が見えてきました。
農業分野の書籍を出版する一般社団法人農山漁村文化協会(以下、農文協)『季刊地域』編集部の瀬谷勝頼さんは「かねてより注目を集めていた田植機やトラクタは、自動運転などの優れた機能を実現しているものの、付随作業などを含めたトータルでの効率化が実感できていない」と、生産者の声を代弁。多岐にわたる作業工程の中で力を発揮する場面が限られているとの見方を示します。
『季刊地域』2019年秋号で集落営農・担い手法人に対して行った「期待するスマート農機アンケート」によると、リモコン式草刈り機、ドローン、自動水管理システム、営農支援システムなどに対する生産者の期待度は群を抜いていました。一方で、「無人のトラクタ・田植機・コンバインへの期待はそれほどではありませんでした」と、瀬谷さんは言葉を続けます。発想が自動化・無人化に偏っており、生産現場からは「現場に本当に役立つ機械になっていない」という厳しい声もささやかれています。
こうした中、瀬谷さんが最大の課題に挙げたのは、「コスト」。
「補助金などを利用し、何とか導入にこぎつけたとしても『投資に見合う効果が得られるかどうか……』とどの農業者も、自らの経営に適したスマート農機を見極めるのに苦労しています」。これが、瀬谷さんの感じている生産者の現状です。
事業者の声。
価格と操作性のバランスが今後の最重要テーマ
価格が課題、と捉えているのは農機メーカーも同様です。あるメーカーの担当者は「現状はやはり補助金頼みの部分が大きい」と語ります。
結果的に本来の市場合理性が働いていない点に、事業者も課題を感じているようです。高額になったり、現場ニーズと乖離が生じる要因としては、〝公的機関との共同開発が多くマーケティングが不十分〟、〝異分野からの参入で状況把握が甘かった〟など、原因は枚挙にいとまがありません。しかし、少なくとも高性能を追求した結果が価格に跳ね返っていることや、操作が複雑になった影響が根底にあるようです。
価格については、今後の量産効果をはじめ、リースやシェアリング制度の導入が求められるでしょう。操作に関しても、課題は多岐にわたりますが、唯一の強みは技術力の高さにあります。こうした技術をより生産現場の実情に近づけていくとともに、メーカー、生産者、行政が三位一体となって最適解を探ることが、地域農業の活性化の近道ではないでしょうか。