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先輩農家インタビュー 千葉市・松井元義さん

千葉市・
松井元義さん

松井元義(まついもとよし)さん
      

松井まつい 元義もとよしさん

東京都出身。会社員として台湾との貿易・営業に携わり、10年前に独立。自身で会社を設立し、台湾へ検査用光源を販売する傍ら、新事業としてライチ・マンゴーの苗木の輸入販売を開始。2020年、千葉県立農業大学校に入学。農業研修を経て、2021年に妻のあやさんと果樹農園「千の葉ライチ」を開業。苗木の輸入から果樹生産、販売まで一貫体制で手がける。※2025年7月時点

  • 年 齢

    54歳

  • 農 園

    千の葉ライチ

  • 営農地

    千葉市

  • 出身地

    東京都葛飾区

  • 就農年数

    5年目

  • 生産品目

    ライチ・マンゴー・洋梨・ブドウ

  • 栽培面積

    ハウス1,700m²、育苗ハウス350m²、露地面積4,270m²

  • 家族構成

    妻、子ども2人

年間スケジュール

  • 1月~3月

    ライチの開花準備・受粉

  • 4月

    ライチの生育

  • 5月下旬

    収穫・直売所での販売開始

  • 8月

    収穫後の剪定・施肥

  • 9月~11月

    圃場のメンテナンス

  • 11月~12月

    ハウスの加温

1日の流れ(収穫期)

1日の流れ(収穫期)

現在の栽培作物と営農形態を教えてください

千葉市で果樹農園「千の葉ライチ」を経営し、ライチやマンゴーを栽培しています。社員は妻と私の2人で、直売所にパートが1人。台湾から直接苗木を輸入し、生産、販売まで自社で一貫して手がける経営スタイルです。販路は、農園併設の直売所、オンライン、青山ファーマーズマーケットでの直販。ブランドホームページやSNS、YouTube配信をマーケティングに活用しています。

主力のライチは、ハウス面積約1,700㎡で3品種・約240本を栽培。日本では珍しい「玉荷包(ぎょっかほう)」が全体の8~9割を占めています。「黒葉(こくよう)」と「竹葉黒(たけはぐろ)」は主に授粉用ですが、果実も販売しています。このほか、約160本を育苗中です。

マンゴーは、ライチの約1割の規模で、日本で一般的な「アップルマンゴー」に加え、「玉文(ぎょくぶん)」「金煌(きんこう)」「黑香(ヘイシャン)」などの希少品種を手がけ、宮崎や沖縄などのマンゴー産地からも注文をいただくほど付加価値の高い品目になっています。

さらに、千葉が和梨の産地であることから、同じ梨でも別系統の洋梨100本以上、6~7品種を山形から導入し、ハウス周囲の環境整備を兼ねて植樹。自分が好きなブドウも緑系・赤系・黒系・紫系品種を各1本ずつ栽培しています。これらの果樹が実をつけるようになったことに加え、今年はミツバチの飼育にも乗り出し、ハチミツの生産に挑戦しています。就農5年目を迎え、販売品目が大幅に充実してきました。

妻のあやは、主に作業補助や、Instagramの更新、直売所の運営を担っています。ライチを栽培しているハウス内は、ライチが頻繁に落葉するのでこまめな清掃が必要になります。地味な作業ですが、時間もかかり大変です。そんな清掃作業を主にこなしてくれています。 今年度からは直売所の管理や、Instagramの更新などの大部分を妻が行っています。栽培責任者は私、販売担当者は妻という役割分担が徐々に出来てきました。

千葉県で就農した経緯、現在の作物を選んだ理由は?

もともとは会社員で、結婚を機に千葉市に居を構えました。前職は台湾の顧客向けに検査用光源を販売する会社の貿易・営業職で、月1度は台湾へ出張していました。10年前に同業の会社を立ち上げて独立。台湾との取引を継続する中、果物好きが高じて、空いた時間があればカメラ片手に現地の果樹産地を巡るのが楽しみでした。

台湾では、ライチは平地で、マンゴーは山間部で露地栽培される日常的な果物。日本とは全く違う栽培環境に興味を持ったのが始まりです。そこで生産者の方々との交流が深まる中で、縁あって新規事業として苗木の輸入販売に乗り出したのです。

日本で苗木の販売を開始すると、マンゴーは伸び悩む一方で、ライチは想定を上回る注文があり、「ビジネスとして可能性がある」と直感し、宮崎県の農業試験場などで情報収集を行いました。日本でのライチ栽培の実績は少なく、技術は未解明な部分が多いです。だからこそ、追求する価値があると判断し、果樹農園経営への完全移行に踏み切りました。

妻は反対こそしませんでしたが、「ライチの栽培なんてできるわけがない」と懐疑的でした。「もしできたら謝る」とまで言っていましたが、未だに謝ってもらえないのは、きっと妻の目には「まだまだ」と映っているのでしょう。実際、まだまだこれからです。

栽培技術はどのように習得しましたか

私は千葉県立農業大学校に入学しました。コロナ禍の混乱で入学・卒業時期が延期になりましたが、トマト、枝豆、サツマイモなど多品目の栽培実習を通じて農業の基礎を習得できました。

特に力を入れたのが実地研修です。 館山市のマンゴー農家での研修を希望しましたが、当初は年齢(当時49歳)を理由に断られました。しかし、そこで引き下がらず、「今から伺います」と直ちに車で館山へ。直談判の結果、農業大学校の先生の後押しもあって受け入れていただけました。3~4ヶ月間、週2回のペースで通い続け、マンゴー栽培の実践技術を学びました。就農1年目のハウス建設期間中も、手伝いに通い続けました。

ライチ栽培はほぼ独学です。 日本での栽培事例も限られ、試行錯誤の連続です。しかし、ノウハウこそが将来的なビジネスの資産になるため、できる限り自己解決を心がけています。インターネットでの情報収集に加え、洋ナシやブドウなど他の果樹栽培で身につけた技術を、ライチ栽培に応用しながら独自のノウハウを蓄積しているところです。

農地はどのように見つけましたか

新規に農業を始めるうえで、最も重要かつ困難なのが農地の確保です。 当時は新規就農者とソーラーパネル設置業者が条件の良い土地の取得を競う早い者勝ちの状態でした。
農地バンクの情報を日常的にチェックし、現在の圃場情報を見つけてすぐに現地へ直行。地主さんに直接お会いして条件交渉を行い、その場で契約意思を示しました。自宅から車で7分という距離もポイントです。就農準備は土地探しが最優先。契約から行政許可まで約半年かかることもあるので早めの行動が鍵です。

こうして見つけた農地は、平地よりも100mほど高台にあり、昼夜の寒暖差があるため果物栽培に向いています。条件の良さも、就農後に実感したポイントのひとつです。

千葉県で就農したメリットは?

千葉市は大消費地に近接した立地が決定的な強みです。ライチは極めて鮮度劣化の早い果物で、中国では「1日目に香りが飛び、2日目に色が変わり、3日目には味が変わる」と言われるほど。朝採れのライチをその日のうちに都内のマルシェ等で販売できる距離感は大きなメリットです。

また、千葉県内でライチ農園は前例がなく、果物が好きな方々に注目していただいています。台湾産ライチに親しんだお客様から「国産の『千の葉ライチ』の方がおいしい」という評価をいただき、国産の価値を実感しています。さらに収穫期に行う完全予約制ライチ狩りが、固定客につながる好循環を生み出しています。

今後の展望をお聞かせください

ライチ品種の中でも特に栽培が難しいとされる「玉荷包」に注力し、技術を確立させたいです。国内での栽培実績がほとんどない中、苗木の輸入から生産・販売まで一貫して自社で担えることを強みに、このトータルなノウハウを、将来的な事業資産として育てていきたいです。
リピーターが増え顧客基盤も着実に拡大し、オンライン販売は全国から注文があります。これまで鮮度が課題で沖縄・北海道への配送は特に気を配っていましたが、運送会社と連携して札幌や那覇への翌日配達のトライアルも進行中です。事業拡大を図っていくには、将来的に信頼できる人材を迎え入れる必要もあると考えています。

温暖化の進行も亜熱帯果樹であるライチ栽培では、有利に働くと捉えています。ハウスの燃料費削減と収穫期の前倒しで、GWごろからの需要が取り込めれば、収益性の向上が見込めるとみています。

就農希望者へのメッセージをお願いします

会社員時代に培ったスキルを、農業の現場に応用したことで、苗木の輸入から生産・販売までを一貫して手がける体制や、販促・マーケティングの内製化が実現しました。農業もまたビジネスです。この視点を持てるかどうかが、将来的に持続できるかどうかの分かれ道になると思います。

私自身、常に新しい挑戦を意識し、栽培の工夫で収量や品質を高め、他にはない果物でお客様に喜んでいただけることにやりがいを感じながら、日々ノウハウを積み重ねています。試行錯誤の先にある農業の楽しさが、きっとみなさんにも見えてくるはずです。