みやざき農業の未来を担う、若手リーダー座談会
みやざき農業の未来を担う、若手リーダー座談会
スマート農業、6次産業化、農福連携、海外進出…
農業は自分の夢を実現するための広大なステージだ
農業の「6次産業化」に「スマート農業」の推進、定着しつつある「農福連携」など、
宮崎の農業者の取り組みには、全国的にも注目される画期的な事例が目白押しだ。
その革新性やパワーの源は、いったいどこから来ているのだろうか。
若きリーダーたちにみやざき農業の魅力や人材活用、今後の展望などを聞いた。
PROFILE
- 桑原慎太郎さん桑原農園 代表高鍋町で祖父母の代から続く農家の生まれ。6年前に脱サラして独立就農し、きゅうりやナス、水稲、加工用ほうれん草を生産。福祉施設と連携し、障がい者雇用を積極的に行っている。
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渡邉泰典さんまるかじり株式会社
代表取締役
マルマンファーム
宮崎株式会社
取締役東京出身。大学を中退してIターンで就農し、日南市北郷町でイチゴとキクラゲを生産。2020年6月にマルマン株式会社の子会社を共同で立ち上げ、ズッキーニと高菜を生産している。 - 栗原貴史さん新福青果
営農部兼総務部
マネージャー福岡出身。東京で就職した後、新福青果に転職。ゴボウ、ニンジン、サトイモなどの露地野菜を通年で生産。早くからICTを使った農業経営の効率化に取り組んでいる。 - 香川憲一さん香川ランチグループ代表
一般社団法人
宮崎県農業法人
経営者協会会長川南町の養鶏農家の3代目。現在は養鶏をはじめ、グループ会社で卵の加工食品や真空パックの焼き鳥を製造販売するほか、物産館の経営など幅広く6次産業化を推進。
高齢化ってどこの話?若手が引っ張るみやざき農業
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東京にいた頃は、農業ってやはり高齢者が中心だな、と感じることが多々ありましたが、宮崎の就農者は若手がすごく多いんです。初めて宮崎に来たとき、それが一番びっくりしたことです。経営者や法人の幹部クラスの方でも私たちとほぼ同世代だから仲が良く、刺激もいっぱい。農業に懸ける想いとパワーはどこよりもアツいですね。
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若い人が中心になって本気で農業を盛り上げようとしているし、皆さん人柄も温かいから安心して飛び込めました。特に首都圏から来る人にとっては、気軽に戻れない距離の遠さも、かえって「農業者として、この土地に骨を埋める!」という不退転の覚悟につながりやすいかと思います。実際、私もそうでした。
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だから気骨のある若い人が定着するのでしょう。加えて、農業にのめりこめる背景には、やはり宮崎の食のおいしさも大いにあると思います。私は宮崎出身ですが、20代で東京暮らしをしていた頃、テレビの食レポなどで「ウナギは蒸すとふっくら」と言っているのを聞いて愕然としました(笑)。実家ではそのまま焼いて食べるのが当たり前ですし、鶏肉にしたって締めたばかりのまだ生温かい肉を炭火で焼くだけ。どちらも余計な手を加えずとも、素材本来のうまみがたっぷりで最高です。
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自分が作っているからではありませんが、宮崎の野菜はすべて新鮮でおいしい。子どもの頃はよく山芋掘りに行きましたし、今もどこかで「お店のしなびた野菜なんて買うもんじゃない」と思っています(笑)。いま栽培している佐土原ナスなんて、丸ごとグリルすると中身がトロトロして絶品です。
担い手不足を魅力的な〝物語〟で解決。農福連携もWin-Winで
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私の拠点の川南町という町は、戦後、全国から多くの移住者が押し寄せた、いわゆる「日本三大開拓者の町」の1つなんです。そんな〝物語性〟を雇用の促進に生かしたいと考え、移住する若者が活躍できる仕組みを作りました。会社の敷地にコンテナハウスを建てて「村」をつくり、若者はそこに住んで就業する。収穫した作物や加工品は物産館で販売する。そうしたところ、全国から希望者が殺到し、あっという間にハウスが満室になりました。
本社の敷地に並ぶ6棟のコンテナハウス。室内はベッドやテレビ、ユニットバスなどが完備され快適に過ごせる -
人の問題っていうのは、突き詰めると地方の若者の都会への流出なんですね。でもその土地に魅力があれば、留まってくれるし、全国からも集まる。私の会社では近年、産学連携などを通して地元の大学と深く関わっています。最近はアルバイトもお願いしていて、新卒入社も今年は15名に上りました。一度ルートができると、継続的に集まるようになりますね。
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私の農園ではかねてから、障がいのある方に農作業を手伝っていただく〝農福連携〟を進めています。お願いするのは出荷物の箱詰めや袋入れが中心で、きちんと作業環境さえ整えてあげればまったく問題ありません。
佐土原ナスの箱詰め作業の様子。雇用者が作業しやすい方法に変えたところ、作業時間を大きく減らすことができたそう -
同感です。私の会社も同じ形を採っていますが、農福連携という表現に違和感を覚えるほどに頼れる労働力になっていて、貴重な外部委託の事業者様です。もはや彼らがいないと経営が成り立たたず、Win-Winの関係ですね。
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私のところも今、週5で通ってもらっています。コロナの影響で、他業種の連携企業さんが受け入れをいったんストップしたことにより、受け入れの回数が増えました。作業スペースが広くて三密になりにくい農作業は、作業の相性も含めて障がいのある方が最も活躍しやすい分野かもしれません。地域全体でもっと広げたいし、ゆくゆくは法人化して正規雇用にもつなげていきたいと準備しています。
スマート農業で働き方改革、顧客管理もSNSの活用で
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若い人の就農を促進するにはやはり〝働き方改革〟も重要で、そのために当社では今、スマート農業に最大限の力を注いでいます。この1年はGPS付きのトラクターやドローンを導入するとともに、そのデータを活用して作業負荷の軽減や効率化を図りました。その結果、総労働時間は同じでも生産規模は3割ほど増加しました。農繁期のピークを除いて残業時間はゼロになるなど、働き方もがらりと変わりましたね。
(写真左)無人ロボットトラクターの操縦の様子。(写真右)圃場データをGISに落とし込み、土地情報の一元管理を進めることで、データ分析の高度化を目指す。 -
私のつくるイチゴでは、収穫も栽培も機械化が難しいので、生産部分のIT化よりも、むしろ顧客のデータ管理に関心があります。例えばイチゴ狩りに来たお客さんのデータはほぼすべてLINEで管理しており、正確なリピート率も出るようになっています。これを蓄積していくと、顧客一人ひとりの動向が瞬時にわかります。こうした顧客管理をやっているところは少ないので、ぜひ強みにしていきたいですね。
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若手ならではの戦略で面白いですね。やはり若い人はドローンを操作したり、新しい発想でSNSを活用したりといった部分に新しさや面白みを感じて、「農業をやってみたい!」となると思うんですよ。私のところでは例年、物産館の駐車場を開放し、お祭りを催して地域との交流の場を設けていますが、そういう場面でも新しいアイデアをどんどん取り入れていきたいですね。
ビジョンの数だけワクワクがある。農業ってエンタメだ!
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今とても順調なのはイチゴ狩り。これまでネット広報に力を入れ、ホームページ上に写真館をつくって笑顔一杯の家族写真を掲載するなど、とにかく顧客満足を徹底的に追求してきました。さらに縁あって今度、山の上の広い土地を購入するのですが、そこにイチゴハウスを移転して、ゆくゆくはキャンプ場なども備えた農業テーマパーク的なものをつくりたいと張り切っています。イチゴの味はまだまだベテラン農家さんにかなわないけど、知恵と戦略によって道が開ける。農業にはそんな可能性が無限にあると思います。
「親子が何度も通いたくなる農園」を目指し、撮影場所や帽子などの小物を工夫しながら記念の一枚を撮影する -
宮崎は土地も広いしね。私は障がいのある人が、到底できないだろうと思われたことができるようになり、それを見た職員さんが感動に震える姿を見た瞬間、「よし、この方向一本でいこう」と心を決めました。農福連携もスマート農業もよし、起業するもよし、あらゆる夢を全部ドンと包んでくれるのが農業の力であり、宮崎という土地柄だと思います。
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そういう意味では、まさに農業ってエンタメですよね。特にスマート農業には若い人に夢を見させてあげる力があると思うので、うちの会社では大学に出前授業に行ったり最新の機械を体験してもらったりして魅力を伝えています。将来的には中学生のキャリア教育などにも協力して、いろんな人の目を改めて農業に向けさせたい。宮崎なら教育という観点から農業に関わるチャンスもあるんですよ。
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南国の太陽の下で自然や生き物を日々相手にしていると、おのずと考え方がポジティブになりますね。私もチャレンジしたいことが次々に出てくるし、どうやって乗り越えようかと行動すること自体が楽しくてワクワクが止まりません(笑)。いま建設中の新しい加工工場が無事に稼働したら、次は海外進出、その次はおいしい介護食の開発と、新事業の構想はあふれんばかりです。ぜひ若い力を貸してほしいですね。
また宮崎の行政機関は、いろいろな人の紹介も含めて親身に相談に乗ってくれます。もちろん私たちも、本気で農業をしたいと思う人を全力で応援していきます!