中山間地域 農業の複合経営魅力物語 高谷ご夫婦



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岡山県
合同会社 蒜山耕藝
高谷裕治さん・絵里香さん



栽培作物 水稲、野菜多品目 |
耕作面積 7ha |
経営規模 本人 |
移住形態 Iターン |
前職 公務員(夫)・カフェ店員(妻) |
農地の取得 借地 |
就農までの期間 約8か月 |
移住した年 2011年 |
農業
×農業
×加工品
×店舗運営
- 多品目
- 水稲
- 加工
- 店舗経営
- Iターン



岡山県真庭市にある高原エリア・蒜山で、自然栽培に取り組む高谷裕治さんと絵里香さん。東日本大震災をきっかけに移住、就農した2人。自家生産の米や大豆を使った多種多様な加工品が人気で、特に餅は告知をすると同時に即完売するほど! 運営する拠点は、同地区の移住者増の入口にもなっています。
震災を契機に蒜山へ移住。自然栽培で育てた農産物、加工品を会員制で優先的に販売

蒜山は非常に寒冷な気候で、冬場は積雪も多い土地
移住を考えたのはいつごろですか?
ナチュラル・ハーモニ―という、自然栽培に特化した野菜宅配を利用したときに、自然栽培で育てられた野菜のおいしさに感動したことが、農業に興味を持ったきっかけです。自然栽培についてもっと学びたいと、ナチュラル・ハーモニ―が企画する農地見学ツアーや農家さんの講演会などに参加するようになりました。

人気のお米と餅だけは「小さな農民の会」全員に
現場に出て自然栽培を学びたい
いずれは自然栽培に関わる仕事をしたい
当時、夫は公務員、私はカフェで働いていたのですが、思い切って仕事を辞め、千葉県に引っ越し、その農家さんにお願いし、一年弱の間、研修を受けさせていただくことにしました。まずは現場で勉強してみようと、農業の世界に足を踏み入れてみたのが最初です。
東日本大震災の発生が移住をうながす
千葉県に越してしばらく経ったころ、東日本大震災が発生しました。研修後の身の振りかたで悩んでいた時期だったので、震災は移住を決断する一つのきっかけに。同時に、安心して食べられる食材を、自分たちで作るということに価値を感じ、農家になることを決めたのも、このときです。

2014年には『蒜山耕藝の食卓 くど」をオープン
いきなり自然栽培を実践していくことに
水稲、小麦、大豆などの穀物類と、30種類の少量多品目野菜を栽培
当時、関東からの移住者は珍しく、地元の人たちが私たちを心配して、とても親身に協力してくれました。そのおかげで、蒜山に暮らして1ヶ月ほどで、住む場所と農地が見つかり、2012年の春には蒜山耕藝として新規就農。
少しでも気持ちのいい場所にしたい
〝なにもしなくても勝手に景色が変わっていく都会〟と違って、ここでは〝きれいなな景色にするのも、荒れ果てた景色にするのも自分次第〟です。そう思うと、自分たちが過ごすうえでも少しでも気持ちのいい場所にしたいと、自然と地域の中で草刈りをする範囲が広がっていました。
温暖なイメージのある岡山県ですが、蒜山は非常に寒冷な気候で、冬場は積雪も多い土地。農業は東北地方のスタイルが参考になるほど。そういうことも、こちらに暮らしてから徐々にわかりました。
山間地ですので、獣害の被害も多く、毎年なにかしらの野菜は全滅しています(笑)。収穫間近の小麦の穂の部分だけをシカに食べられていたこともあります。
加工品を通して蒜山耕藝の認知度を上げていきたい
蒜山耕藝では自然栽培の自家生産物で作った加工品も販売しています。もともとは雪で農業ができない冬の時期に稼ぐ手段はないかと餅の販売をしてみたことが始まりでした。今年からは、自宅の敷地内に麹室や醸造設備を設け、どぶろくの生産も始めました。
ネットショップでは築けない関係づくり
3年前に始めたのが「小さな農民の会」という会員制度です。年会費6000円を頂き、会員になってくれたかたに優先的に、農作物や加工品を販売する仕組みです。会員数は現在200人ほどで、東京など都市部のかたが多いです。野菜は会員限定でも、売り切れてしまうことがありますが、お米と餅だけは全員に行き渡るようにしています。
自分たちが人の流れを生み出すきっかけの一つになれば

原材料を提供し、委託製造してもらっている加工品
2014年には『蒜山耕藝の食卓 くど」をオープン
私たちが越してきたときは移住者の少なかった蒜山ですが、現在は全国各地から続々と人が集まっているように感じます。東京で人気のお蕎麦屋さんや、広島のパン屋さん、鰻屋さんに陶芸家のかたなど、特に蒜山耕藝のあるエリアはかなりの盛り上がりをみせています。
暮らしの根底にある“安心感”
のんびり生活はしていないと思いますが、自分の手でやる楽しさや、生きているという実感を味わえるのも、こういった中山間地の魅力の一つだと思います。そして、やっぱり安心感が違います。ここには水はいくらでもありますし、食べ物も自分たちで作ってるから心配もありません。それが暮らしの根底にはあるように思います。
取材・文=乾祐綺 写真=乾祐綺 編集=養父信夫



