中山間地域 農業の複合経営魅力物語 中村 大佑さん



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北海道
NISEKO TASTY
中村大佑さん



栽培作物 野菜多品目 |
耕作面積 畑5ha |
経営規模 本人 |
移住形態 Iターン |
前職 半導体関係サラリーマン |
農地の取得 譲渡 |
就農までの期間 協力隊員として3年間 |
移住した年 2018年 |
農業
×加工品
×直販
- 多品目



バックパックで世界を周り、ヒッチハイクで日本中を巡った中村大佑さん。日本の食を支える農業に携わりたいと、北海道・ニセコ町で新規就農しました。北海道ならではの農業と向き合いながら、お客さんの声を直接聞くことを大切にしています。
畑とお客さんをつなぐ。有機農家同士もつなぎ、育成もする

ニセコは畑もある。ニセコで農業をやろう!と中村 大佑さん
農業を考えたのはいつごろですか?
地元はニセコ町の隣町の石狩市です。大学卒業後、神奈川で半導体関係の仕事をしていました。5年ほど勤めた会社を辞め、ワーキングホリデーの制度を使い、オーストラリアで暮らしました。そこで農業の仕事をしたんです。バナナ農園で働いていたときに、サイクロンの被害で倒れたバナナの木から熟したバナナをもいで食べてみたんです。その完熟したバナナがめっちゃおいしかった。「畑で採れる作物ってこんなに美味しいのか!」という感動体験が、農業に興味を持った最初です。

蝦夷富士とも称される羊蹄山
「僕は日本食でできているんだな」って実感
日本の食を支える農業をやろう
バックパックを背負って世界中を回りました。インドに行ったとき、お腹を壊してどんな薬を飲んでも治らなかったのに、納豆を食べたらすぐ治ったんですよ。「僕は日本食でできているんだな」って実感したと同時に日本の食を支える農業をやろうと、帰国しました。日本に帰ってきてからは、気の済むまで日本中を巡ったあと、心に残ったのは羊蹄山のあるニセコの景色でした。景色のいい場所で暮らしたいという思いがあったんですが、日本の景勝地って農業に適していない場所が多かったんですが、ニセコは畑もある。ニセコで農業をやろう!と心が決まりました。
1カ月ずっと芋掘りです(笑)
決意をしたまではよかったんですが、ニセコは観光地ですから住居を探すにも一苦労でした。それで、隣町の真狩村で大規模農業をしている農家さんのもとで、一年間住み込みで修行させてもらいました。真狩村の農家さんたちは、まさに北海道の大規模農家。1カ月ずっと芋掘りです(笑)。

5月後半から植えて9月に一気に収穫
農地の取得と農業技術の学びかた
農家50軒を訪ねて回りました
その後、ニセコ町の地域おこし協力隊に応募しました。乳牛の管理や有害鳥獣の駆除、酪農や林業の困りごとに対して手伝いをしていました。その間に就農のことも念頭に入れて、まずは顔を売ろうとニセコ町の農家50軒を訪ねて回りました。何度も通ううちに、「あそこは後継者がいなくて探しているぞ」という情報が入ってくるんですよね。そこから、農作業も手伝わせてもらうようになり、技術面で困ったときに相談ができるたくさんの「師匠」と呼べる人たちができました。土地の取得は、師匠の一人・遠藤さんとの出会いがきっかけです。就農を目指していることを話すと、「ビニールハウスを撤去するから、そこの畑を任せる」と譲ってくれたんです。農業機械も譲ってもらったり、困ったことはなんでも相談していました。
畑に合う作物を絞り込む
最初につくったのは、トマトです。ハウス栽培をしました。が、めっちゃまずいトマトができたんですよ。農業技術っていうのは、こんなにも大事なのかと思いましたね。種苗会社さんにアドバイスをしてもらったり、最近はYOUTUBEで栽培方法を詳しく紹介しているものがあるので参考にしています。メインの作物は、スイカとサツマイモ、ミニトマトです。オクラと葉物野菜も作っていたんですが、経営資源を絞りたいという考えもあり、2025年にはつくらない方向でいこうと思っています。種類を増やすと分散してしまうので、ある程度収量が採れるものに集中してやっていこうという作戦です。
加工品を地域の特産品に
干し芋のスケジュールは、9月に収穫したさつまいもを寝かして甘くしてから、11月ころから加工を開始します。とはいっても、それだけしているわけじゃないので、雨で畑の作業ができないときや合間を見ながら。年間通じて、干し芋の加工作業をしている感じですね。2024年、野菜・果物とその加工品の品評会である「野菜ソムリエサミット」に干し芋を出品してみたんです。加工品部門で金賞銀賞をダブル受賞したんですよ。ありがたいですよね。僕は、この干し芋をニセコ周辺でしか買えない商品にしたいんです。エリア戦略というわけではなくて、自分の営業できる範囲という意味で。ニセコ町の特産品を目指しています。

「野菜ソムリエサミット」加工品部門で金賞銀賞をダブル受賞
課題と補助金
今は1haくらい入る倉庫がありますが、規模を拡大していくうえでどうしようかと。設備にお金がかかってくるけれど、そこはもう投資するしかないかなと思っています。あとは、動物が多いです。アライグマによるスイカの被害がすごい。電柵をして、対策はしていますが。新規就農にあたっての補助金申請、しました。農業次世代人材投資資金を5年間受給しましたね。あとは、担い手確保・経営強化支援対策を活用し、機械代の足しにさせてもらいましたしました。地域おこし協力隊経験者の起業資金として100万円ももらっています。
「美味しかったよ」が僕のモチベーション
販路と今後の展望
販売は、ニセコ町の道の駅、自分の畑とインスタグラムの直販でやっています。売上の比率は道の駅と直販で3対1くらい。売上の35%割が干し芋です。 就農するとき、JA出荷のイメージがなかなか湧かなかったんです。どかっと出荷して手数料引かれて、自分のところにいくら入ってくるんだろう? って。僕にとって、直売所とか道の駅って明瞭だったんですよね。納品して、手数料何%以外が自分の売上になる。数字うんぬんじゃなくて、ニセコに来るたくさんのお客さんを実際に見て、なんとかなるだろうっていう想像ができたんですよ。JA出荷してあとよろしくっていうよりも、お客さんと直接話して「美味しかったよ」って言ってもらえるのが僕のモチベーションになっています。たくさん量を作って大量に出荷っていうよりも、直接お客さんに届けられる方がやりがいを感じますね。
新規就農を目指したい人へのメッセージ
農業のスタイルや考え方は十人十色だと思います。そのうえで、僕が言えるのは、最初から大きな設備投資は避けたほうがいいということ。でかい投資をしてしまうと、後戻りができないじゃないですか。農業は試行錯誤の連続です。軌道修正ができないと、苦しくなってしまうと思うので、現状であるものや中古のものをうまく使ったり、師匠と呼べるような農業の先輩に相談したりして、少しずつ進めていくといいんじゃないでしょうか。あとは、畑の土質を見極めること。どういう作物が自分のところの畑に合っているのかをよくよく見ることが大事だと思いますね。まあ、簡単には言えないですよね。僕は最近子どもが生まれたばかり。失敗できないというプレッシャーがすごくあります(笑)。お互い頑張りましょう!
取材・文=乾祐綺 写真=乾祐綺 編集=養父信夫



