中山間地域 農業の複合経営魅力物語 水口 淳さん



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滋賀県(近畿)
みなくちファーム
水口 淳さん



栽培作物 露地野菜・原木椎茸・水稲・大豆・麦 |
耕作面積 8ha |
経営規模 本人 |
移住形態 Uターン |
前職 アパレル社長 |
農地の取得 所有・借地 |
就農までの期間 1年 |
移住した年 2014年 |
農業
×加工
×直売
×飲食業
×観光ガイド
- 多品目
- 無農薬
- Uターン
- 観光ガイド
- 直売
- 加工
- 飲食業



みなくちファームの水口淳さんはアパレル業から〝知識ゼロ〟の状態で農業に業種転換。出身地であったマキノ町へ戻り、少量多品目の露地野菜をはじめ、水稲、シイタケなどをすべて無農薬で栽培している。そのほか、加工品の販売や観光事業、宿泊事業にも力を入れる。
度胸と努力の無農薬。兼業農家の未来を紡ぐ。

最初に借りた耕作放棄地は元養鶏場。半年間で約60トンの瓦礫が。
移住を考えたのはいつごろですか?
もとは隣町で、輸入した洋服をネット上で販売するアパレル業を。しかし、2008年のリーマンショックで売り上げが落ち、さらに2011年の東日本大震災で物流がストップ。景気の波に左右されたり、社会情勢に振り回されたりする仕事に疑問を感じ、一番堅実で、かつ可能性のある仕事だと考えたのが、僕の場合は農業だったんです。

コロナ禍では地方で巣ごもり需要によってネット注文の個人が増えた
農業は〝地域の信頼〟が鍵。
耕作放棄地を飛び込みで交渉。
農業の知識もなにもないまま、出身地であるマキノ町で新規就農を目指しました。今すぐ農業を始めたかったので、あたりを見て回って、耕作放棄地を見つけては、荒らしているんだったら貸してもらえませんか、と見知らぬ人に声をかけて回り、なんとか最初の農地を確保し、就農できました。
“あいつに任せれば何とかしてくれる”
最初に借りた農地には石などが大量に混ざっていて半年間くらいは、それを妻と2人で畑の外に出す作業を。抜根したり大変でしたけど、それを見てくれていた近隣の農家さんが、耕作放棄地を、少しずつですが、僕に任せてくれるように。半年間の作業で、徐々に信頼されていったのかもしれません。

“農業はやり方によって、無限の可能性があると思っています”
無農薬栽培を目指した理由。
農業素人ならではのマーケティング戦略。
作業に必要な機械は中古をネットで探して買ったみたり、Youtubeを見て農法を勉強したり、同じように作っても経験ある農家さんには勝てないと思い、ビジネス的に付加価値のつけやすい無農薬に決めました。
試行錯誤の繰り返しを続けること。
現在は、ハーブを含めた露地野菜が5ha、水稲、麦、大豆が各1ha、あとは原木シイタケを、すべて無農薬で。最初の2、3年はさまざまな品種を試して、初年度20種類くらいからスタートし、今では100種類くらいにまでに。
販売については近隣にある2ヶ所の道の駅、直売所への出荷、国内外含めて50店舗ほどの飲食店、個人へのネット販売などが中心。飲食店については、地元はもちろん、市の事業でシンガポールに送ることもありますが、メインは東京。シェフらが現地視察に来てくれた時につながった飲食店と今も続いている感じです。野菜のおいしさ、品目の多さに使い勝手のよさを感じ、契約してくれるところも多い印象です。
美しい里山環境が魅力の観光地でもあり、地域特有の資源。
原木シイタケの栽培は、里山の農業であり、文化である農業を繋いでいきたいという気持ちもありました。森で伐採したクヌギを使ったホダ木を用いて原木シイタケを栽培し、役目を終えたホダ木を粉砕して堆肥化。それを畑に戻すなど、里山の循環を意識しています。使える資源はしっかり使うということを心がけています。
味噌もすべて自分たちで作った材料だけで作りたい。
農業素人ならではのマーケティング戦略。
また、ここ琵琶湖周辺は、地域で採れる淡水魚・ニゴロブナを使った鮒ずしを筆頭に、地酒や味噌、醸造酢など、発酵文化が盛んな土地としても知られています。うちでも、在来種の大豆である、みずくぐりを使った味噌を作り始めました。麹からすべてを自分たちの材料で作っています。
農村風景を守りたいから、複合経営をする。

里山の循環を意識して、使える資源はしっかり使うことが大事
根っこは一つ。日本の農村の風景が好きだから。
農業以外のところでは、カフェと馬と触れ合える観光農園の運営、小中学生の農業体験の受け入れ、地域の農家さんや作家さんなどを集めたマルシェの主催、植林を行うなど森づくりなども。日本の農村の風景が好きだから。日本の農村や里山の美しさって、人の存在が不可欠であり、僕はそこに寄与したい。
自分のやりたいことと農業の接点に気づくかもしれない。まずはそこから。
直近では、農業体験ができるゲストハウスを計画していて、もうすぐ完成します。農業人口を増やすためには、一般的には、農業に対して意欲的な人を対象にサポートしますが、それだと農業に携わる人は増えないと思うんです。まずは農業に〝少しでも興味を持っている人〟と接点を持たないといけないと思うんです。
取材・文=乾祐綺 写真=乾祐綺 編集=養父信夫



