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NEXT AGRI PROJECT 2018 秋 EARTH JOURNAL(株式会社アクセスインターナショナル)

NEXT AGRI  PROJECT 明日の日本農業を語る活性化会議

日本の農業活性化への提言

ソーラーシェアリングの現状と課題、これからの展望を実践者に聞く

EARTH JOURNAL

EARTH JOURNAL ソーラーシェアリング特別号 広報・宣伝部長
一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 事務局長・理事
合同会社 小田原かなごてファーム 代表
小山田 大和 氏

Oyamada Yamato

「一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(通称:エネ経会議)は、地域に根ざした経済活動の一翼を担っている中小企業の経営者が集って立ち上げた組織です。経済活動には欠かせないエネルギーについての問題を正面から捉え、再生可能エネルギーを用いた新しい地域社会の実現を目指しています。そのひとつが「ソーラーシェアリング」であり、農業の収益率を変える新しい取り組みとして注目されています。今回は、エネ経会会議の事務局長を務め、自らソーラーシェアリングを実践している小山田氏に、現状と今後を語ってもらいました。

再生可能エネルギーの供給体制の実現を目指す「エネ経会議」

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 小山田氏が事務局長を務める「一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(以下 エネ経会議)は、2011年に起きた東日本大震災を機に設立された中小企業の経営者の集まりです。地震と津波による原子力発電所の大事故と、それに伴う電力エネルギー情勢の逼迫は産業界に対して“原子力に頼らないエネルギーの確保”という大きな課題を突き付けました。

 設立当初は120社ほどでしたが、現在は400社が参加するコンソーシアムに発展しています。法人の代表理事を務めるのは、かまぼこの老舗である小田原市の『鈴廣』で代表取締役副社長に就いている鈴木悌介氏。小山田氏が鈴木氏に出会ったのは学生時代に遡り、大学で地域振興に取り組んでいた小山田氏が大学祭イベントのパネリストとして招いたのがきっかけだと話してくれました。

 当時から鈴木氏は社会貢献に対する意識が高く、小山田氏も強く影響を受けたと言います。大学を卒業後、学校の非常勤講師や郵便局の職員になってからも、二足の草鞋で地域振興に注力します。しかし、2011年の大震災を機にエネ経会議が発足し、小山田氏も事務局長として活動すると「自分でも何かできることがあるのではないか?」という思いが日々募っていったそうです。そして、2014年に勤めていた日本郵便株式会社を退職し、エネ経会の考えを実践するべく事業を開始しました。

放棄された田畑やミカン畑を再生

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 小山田氏は当初、農業に対してはまったく興味がなかったと言います。しかし、地域振興のボランティアは学生時代から続けていたので、全国はもとより、ここ小田原市においても就農者の高齢化、後継者不足による耕作放棄地の増加が問題となっていたことは面識のある生産者の方から聞いていたそうです。そこで培ってきたネットワークを生かして、都市部から小田原市に就農を希望している方を紹介したそうですが、残念ながらリタイアする結果になりました。責任を感じた小山田氏は、自ら470坪のみかん畑を手掛けることにしたそうです。そして、その面積は現在では6000坪を超えるまでになりました。

 耕作放棄地を“おひるね”していた土地と位置づけ、農薬や除草剤、肥料を使わない自然栽培にこだわった「おひるねみかんプロジェクト」を立ち上げます。農業の収益力を高めるには、6次産業化が重要と感じた小山田氏は収穫されたみかんをそのまま絞った「おひるねみかんジュース」、そのジュースを使った「おひるねみかんジェラート」を商品化します。さらには、箱根で230年の歴史を持つ造り酒屋、井上酒造とのコラボレーションで日本酒をベースに使った「おひるねみかん酒スパークリング」も作り出しました。もともと、農家ではない素人が“おひるね”していた畑を守り、再生するというプロジェクトを起動に乗せたのです。

農業の収益力アップにソーラーシェアリングを

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 小山田氏は2016年2月に栽培面でアドバイスをいただいていた川久保氏らとともに、合同会社小田原かなごてファームを設立。事業内容には、『おひるねみかん』ブランドの展開、農業、人材育成、講演会やセミナーの開催、そしてソーラーシェアリング事業を掲げています。

 記念すべき第一号機は2016年11月に竣工されました。小田原市下曽我地区で放棄されていた約100坪の畑に、高設(高さ2m)のソーラーパネルを設置し、その下でサツマイモを栽培することにしました。計画では、第一号機の売電収入は年間約38万円を想定していましたが、約60万円と上々の結果となりました。これは、地面の輻射熱によるソーラーパネルの出力低下を高さが解消してくれたようで、ソーラーパネルを高所に設置するにはコストと強度の問題も出てきますが「想定以上の結果で驚きました。また、栽培に必要な日射もまったく問題はありませんでしたね」と小山田氏は話します。

 発電した電気は、地元の新電力会社である湘南電力株式会社に売電しており、エネルギーの地産地消が行われています。第一号機で得られたノウハウをもとに、2018年4月には第二号機が、小田原市桑原地区に竣工されました。こちらは約360坪の水田上でソーラーシェアリングを行うというもので、神奈川県では最大級(パネル容量58.24kw)の試みになります。水田という軟弱地盤で、さらにその下で作付けするというのは県内では初めてのチャレンジでしたが、取材時には黄金に輝く稲穂が少し先に迫った収穫を待ちわびていました。7月、8月には大きな台風の接近もあり、不安もありましたが、ソーラーパネルも稲も問題なかったそうで、売電収入は年間約180万円を見込み、収穫されたお米で発泡タイプの日本酒を造ろうと計画しているそうです。

ソーラーシェアリングの未来を語る

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「自らが実践していないと説得力がないし、農業が儲からないと就農者は減る一方です。それを解決する一つの答えがソーラーシェアリングだと考えています」と小山田氏は語ります。ソーラーシェアリング事業のすべてを公開することで、新しい農業のあり方を提示する同氏のもとには多くの見学者が足を運んでおり、厚木市や大和市、相模原市でも始めようという機運が高まっているそうです。かなごてファームでは今後もソーラーシェアリングに積極的に取り組んで行くそうで、現在は約200坪の第三号機が事業認可を待っている段階であり、それより大規模な第四号機、第五号機も計画されています。

 小山田氏は「農業は生業というだけでなく、日本の文化や伝統の基盤でもあります。美しい田園風景でもある農地の保護は、日本人が日本人である以上、喫緊の課題です」と語り、農業離れを誰もが真剣に考えてほしいと訴えます。そして、生産者の収入やモチベーションを上げるひとつの方法がソーラーシェアリングであり、「コツコツと地道に壮大な社会実験を続けますので、興味がある方は見に来てほしい」と同氏は熱く語ってくれました。

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EARTH JOURNAL ソーラーシェアリング特別号 広報・宣伝部長
一般社団法人 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議 事務局長・理事
合同会社 小田原かなごてファーム 代表
小山田大和 氏

3.11と原発事故を経て、2013年、鈴廣かまぼこの副社長が立ち上げた一般社団法人エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議の創設に参画。神奈川県・小田原の耕作放棄地から「おひるねブランド」を立上げ、小田原みかんをスパークリングのお酒にするなど小田原ブランドの6次産業化に貢献。2018年には県下最大級のソーラーシェアリングを竣工。自身も農業を営みながら小田原の農業を応援する。

【関連リンク】

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