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PROJECT.01 センシング技術に基づく統合環境制御の高度化によるピーマン栽培体系の実証

農林水産省 令和元年度スマート農業実証プロジェクト

PROJECT.01センシング技術に基づく統合環境制御の高度化によるピーマン栽培体系の実証

身の丈に合った
スマート農業技術の導入を模索

統合環境制御により単収向上、出荷予測の精度向上を目指す

JAそお鹿児島 ピーマン専門部会
(鹿児島県志布志市)
環境制御研究会 梅沢健太さん

ビニールハウスでのスマート農業に挑戦

JAそお鹿児島は、鹿児島県東部の志布志市・曽於市・大崎町・鹿屋市輝北町を営農エリアとする組織です。JAそお鹿児島ピーマン専門部会の会員数は96名。栽培面積は全体で26.7ha。9月の定植から翌年の5月まで、約9カ月間にわたり、台風に強い強化型ビニールハウスでピーマンを栽培しています。
「今回のスマート農業実証プロジェクトで目指しているのは、これまでスマート農業の取り組みが進んでいなかったビニールハウスで、統合環境制御を行うことで単収向上と品質向上ができるかどうかの実証です。私を含む実証生産者6名でこのプロジェクトに挑んでいます」とJAそお鹿児島ピーマン専門部会の梅沢健太さんは語ります。

ビニールハウス内でびっしりと育つピーマン
複合環境制御機器の導入により、ピーマン単収アップを実現

梅沢さんが志布志に移住したのは2010年のこと。2年間の研修を経て営農を始めたそうです。「研修中は環境制御関係の勉強はせず、基本的な技術だけを学びました。基本的な作業技術やノウハウは、2年間の研修で身に付いていたのですが、研修で使用したハウスと自分が就農したハウスでは環境や土質が異なります。学んだことを自分のハウスに合わせてカスタマイズすることには苦労しました。いろいろな本を読んだりして植物生理学も学びました。その結果、分かったのが、ハウス内の環境データを集め、分析することの大切さです」と梅沢さんは振り返ります。

そこで導入したのが、CO₂濃度や温度、日射量など、さまざま環境データをリアルタイムでモニタリングできる他、モニタリングデータに連動して「CO₂発生装置」と「日射比例潅水装置」を自動制御できる「複合環境制御機器」でした。

本プロジェクトに先駆けて1年ほど前から環境制御盤を導入

「データで栽培管理を“見える化”したことにより、収量の増加と自分の経験値が積み上がっていくことを実感できました」と梅沢さん。その後、1人より複数名で取り組めば、JAそお鹿児島全体で最適な栽培方法を確立できるのではと考え、仲間と一緒に「ピーマン専門部会 環境制御研究会」を立ち上げます。取り組みの結果、16~16.5tだった梅沢さんの単収が、「CO₂発生装置」と「日射比例潅水装置」を導入した年には18.5t、翌年も19.2tへと増加。ピーマン専門部会の平均単収が約13tですから、環境制御によって大幅に収量を伸ばせたことになります。

栽培環境を“見える化”したことにより課題を把握

しかし、梅沢さんには不安もありました。「環境制御研究会のメンバーだけが儲かっても、一部のノウハウを持った人だから、ということになってしまったり、もしメンバーが病気になったり引退したらノウハウが失われてしまうのでは」と。そこで、誰でも導入できるレベルでスマート化を進めるための支援をしてほしい、と県やJAに働きかけていた時、スマート農業実証プロジェクトなら、より高度な取り組みができて、成果を横展開できるとJA鹿児島県経済連の方から聞き、参画を決意したそうです。

統合環境制御盤導入により、さらなる省力化と増収を狙う

2019年の実証プロジェクト開始に合わせて、実証生産者6名は、暖房機、細霧システム、CO₂発生装置、日射比例潅水装置などの各種環境制御機器と、これらを高度にコントロールする「統合環境制御盤」を導入しました。
「複合環境制御機器を使用していた頃は、CO₂発生装置と日射比例潅水装置以外は連動されておらず、機器によってセンサーの感度が異なるため、自動開閉装置で換気されているのに暖房機が動いているなど、余計なコストや作業が発生することに悩んでいました」と梅沢さん。その点、統合環境制御盤は他の環境制御機器もまとめて自動制御できるため、より省力化できるとともに、モニタリングデータに連動した精度の高い環境制御が実現でき、さらなる収量・収益増加が期待できるとのこと。

実証データの本格的な収集はこれからですが、導入以前より機器の設定時間が短縮することで栽培管理や収穫の作業を増やせたり、データをクラウド管理することで仲間のデータとの比較が簡素化されることが期待されます。

ビニールハウス×スマート農業の実現に向けて、技術面をサポート

鹿児島大学 農学部
環境情報システム研究室
(鹿児島県鹿児島市)
准教授 神田英司さん

長きにわたりITシステムを活用した農業のあり方を研究

環境情報システム研究室において、農業とITの融合による新しい農業づくりに取り組んでいる神田さん。リモートセンシングによる生育計測の他、作物の生育や気象との関係などを研究しています。 農林水産省の研究官として1990年代から栽培管理支援システムの構築に取り組みはじめ、6年前に鹿児島大学に来てからも農業におけるIT技術の活用に取り組んできた神田さんは、これまでの経験を買われ、JA鹿児島県経済連から声がかかり、JAそお鹿児島ピーマン専門部会の実証農場で行われるスマート農業実証プロジェクトに参画することになりました。

ピーマン栽培のプロとITの専門家をつなぐ役割を果たし、
現場に即したシステム化を推進

このプロジェクトにおける神田さんのミッションは、研究機関、JAそお鹿児島、実証生産者、JA鹿児島県経済連、システムベンダー、鹿児島大学などで組織されるコンソーシアム(共同事業体)の代表として、月に1度のミーティングを行いながら、プロジェクトの進行管理を行い、実証の目的を達成していくことです。
実証生産者の多くは、早くから生産管理ソフトや環境制御機器を導入しており、経験を通じて大幅に収量を上げていたそうです。そのため、プロジェクトの準備段階ではイチから新たな機器を揃えるのではなく、実証生産者が整備してきた栽培環境を活かしつつ、ビニールハウス内の環境管理を自動化する「統合環境制御盤」や、作物の草丈を計測する「3Dカメラ」など、不足している機器やシステムを導入してもらったとのこと。

3Dカメラを作物の上部に設置し、草丈をリアルタイムで計測することで成長スピードを管理

「3Dカメラの設置方法やプログラミングに関しては、大学内の情報学系研究室やIT企業が詳しい。しかし、ただ撮ればいいのではなく、ピーマンの生育状態を判断するのに必要なデータを得るためのカメラ配置や得たい情報を考えるのは農学知識がある私の役目。IT専門家と連携し、生産者の声も聞きながら、栽培現場の実情に即した実証環境づくりに取り組んできました」と神田さんは語ります。

統合環境制御機器を活用し、
ビニールハウスならではのスマート農業の確立を目指す

「今回のプロジェクトで実証したいことは、ビニールハウスのピーマン栽培で、どこまでスマート農業技術を導入できるかです。台風の通り道である鹿児島で普及している強化型ビニールハウスは、ガラスハウスより環境制御がしづらいと考えられています。しかし、実証生産者の過去の実績を考えれば、プロジェクトの目標である単収の5~20%増加や品質向上を十分達成できると考えています」と語る神田さん。
ビニールハウスに導入可能な環境制御機器は、CO₂濃度を高める「CO₂発生装置」や、温度を上げる「暖房機」や「ヒートポンプ」、加湿するための「細霧システム」、日射量に比例した潅水を行う「日射比例潅水装置」など、小規模なものに限られます。しかし、小規模な環境制御機器であっても、温度、湿度、CO₂、日射を測定し、さまざまな機器と連動させ栽培環境を高度にコントロールできる「統合環境制御盤」があれば、光合成能力の最大化が可能になり、収量と品質のアップ、省力化を期待できるそうです。

日射量が多い時間には水を多く、日射量が少ない時間には水を少なく与える日射比例潅水システム

神田さんは将来的には、各種センシングデータの分析結果を活用し、出荷予測システムの精度を73%から80%以上に高めたいと考えています。
「予測の誤差が少なければ、セールの予定や、価格を入れたチラシを作りたい小売店は、安心してJAそお鹿児島からピーマンを仕入れるようになるでしょう。安定的な取引により信頼を獲得できれば、JAそお鹿児島産ピーマンの価格安定も期待できます」と神田さん。
とはいえ、2年間のスマート農業実証プロジェクトは始まったばかり。1年目はセンシングデータを随時分析しながら改善を繰り返す方針だそうです。
神田さんがこのプロジェクトで伝えたいことがあります。それはスマート農業が大都市のビルの中にある植物工場や、自動運転トラクターを導入しているような大規模農業法人だけのものではないということ。
「それぞれの土地や作物に合ったスマート農業があるはずです。ビニールハウスでのスマート農業の実現は、小規模農家でのスタートが多い新規就農者を増やすことにもつながります。鹿児島のビニールハウスに合ったスマート農業のあり方を、このプロジェクトを通じて具現化していく考えです。そして、このプロジェクトで確立された技術とノウハウが、県内の他のピーマン産地に横展開されることを期待します」。

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