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PROJECT.02 輸出に対応できる「超低コスト米」生産体制の実証

農林水産省 令和元年度スマート農業実証プロジェクト

食味・収量センサ付き自動走行コンバインによる水稲収穫作業の実演(2019年10月3日)

PROJECT.02輸出に対応できる「超低コスト米」生産体制の実証

生産者と行政、民間企業が
一体となって実践

スマート水田農業を実現し、
農業を魅力ある職業に

農業法人アグリードなるせ
(宮城県東松島市)
代表取締役社長 安部俊郎さん

農業復興のパイオニアとして地域と共に発展

宮城県の県都・仙台市の北東にある東松島市。東は石巻市、南は太平洋に面し東北としては比較的温暖な気候が特徴です。その恵まれた自然からは高品質な農水産物が育まれており、農業ではネギ、トマト、キュウリのほか、ササニシキ、ひとめぼれなど水稲栽培が盛んに行われています。
この肥沃な大地を襲った東日本大震災から9年目を迎えた2019年。宮城県における農業復興のパイオニアとして地域を牽引してきた農業法人アグリードなるせは、スマート農業実証プロジェクトの実証農場として採択されました。「超省力・低コスト生産による稲作経営の確立」をテーマに、新規就農者や若者が憧れる「スマート水田農業」の実現を目指しています。

「見える化」による効率化で広大な農地を管理

前身である中下農業生産組合から2006年2月に法人化したアグリードなるせは現在、約100haの農地で水稲、麦、大豆などを栽培しています。この広大な農地を耕作する背景には、壊滅的な被害を受けた2011年3月11日に発生した東日本大震災が大きく関係していると、代表取締役社長の安部俊郎さんは話します。
「震災によって離農する農家が後を立たず、農地を任せたいという声が当社に多く寄せられるようになりました。農地は年々増え、現在、140件の農家の農地を管理しています」。
整備された圃場では水稲、麦、大豆を2年3作、3年4作体系で栽培。増え続ける農地の作業効率化を図るため同社が取り組んだのが生産状況の「見える化」です。本事業に先駆けてクボタのスマートアグリシステム『KSASクラウドサービス』を2016年度に県の補助事業で導入した同社は、栽培計画や生産状況をデータ化し、スタッフ全員が共有することで農地に出向かなくても、その日の作業内容をオフィスで確認できることを実証。蓄積したデータは作業、肥培管理などの振り返りや経営計画の作成に利用しています。

栽培計画や生産状況を見える化

「作業実績や栽培管理情報を各担当者がそれぞれ入力し、現状・結果をモニターで表示し、全員が共有することで各自に使命感が生まれました。また、円滑にコミュニケーションが取れるようになり、作業が効率的に行えるようになってきています。今後は蓄積したデータを省力化や低コスト化に生かすことを課題とし、経営の安定化を図ることが目標です」。
先進的にスマート農業に取り組んでいた同社は、さらなる効率化を目指して宮城県農政部とコンソーシアムを組み、スマート農業実証プロジェクトに応募。現在、スマート農業機械を汎用利用したコスト低減と、リモートセンシングよるデータを活用し、水稲の生産コスト「7000円/60kg」(現況値(H29)から25%削減)を目標に「超低コスト米」の生産に取り組んでいます。

加工施設の規模拡大と、雇用創出を目指して

2015年8月に農産物処理加工施設『NOBICO(ノビコ)』をオープンしたアグリードなるせは、自社栽培の小麦の製粉のほか、菓子(バウムクーヘン)の製造・販売を行い、6次産業化による経営発展と地域雇用の創出を目指しています。新規事業を軌道に乗せるためにも、農業が抱える課題をスマート農業で解決することが急務と安部社長は話します。

「農地管理や収穫時の人手など、これまで人が行っていた部分をICTや無人自動走行トラクタなどで補うことで、新たな事業展開を図ることができます。農業は休みがない、儲からないという負のイメージをスマート農業の活用で払拭し、若者が憧れる職業にしていきたいですね」。

2019年10月に東日本を襲った台風19号の影響により、収穫間近だった大豆は冠水により壊滅状態、大麦の播種作業も遅れ、プロジェクトの実証に大きな影響を及ぼしました。しかし、そんな現状の中アグリードなるせは被害状況をデータ管理することで、自然災害に備えることができると前向きな姿勢を見せていました。数々の困難を乗り越えてきたアグリードなるせは、スマート農業による効率化を実証すると共に、新しい農業経営のスタイル確立に向け、地域農業の発展に尽力を注いでいます。

生産から出荷までをスマート農業でサポート。農業の未来を最新鋭の技術で切り開く

株式会社南東北クボタ
(宮城県名取市)
ソリューション推進部長
渡辺敏夫さん

超省力化・高品質生産を実現する新しい農業のカタチ

ロボット技術やICTを活用したスマート農業を技術面でサポートするクボタ。長きにわたり日本の農業を支えてきた同社の取り組みは、生産から出荷、さらには経営管理に至るまでそのメソッドを創出し、進化を重ねています。
「高齢化が進む日本の農業は今後10年でさらに減少する見込みです。それに伴って地域の農家から農地を委託された農業法人の負担は大きくなる傾向にあり、集積された大規模な圃場を限られた人員で管理するにはスマート農業の普及が欠かせません」と、分析する南東北クボタソリューション推進部長の渡辺敏夫さん。

同社はアグリードなるせの実証農場で行われるスマート農業実証プロジェクトを、無人自動運転トラクタや食味・収量センサ付き自動走行コンバイン、直進キープ機能付き田植機などの技術面でサポート。スマート農機と営農技術を組み合わせて超省力化・高品質生産の実現を目指しています。

自動操舵機能付運転トラクタ
経験値を補うスマート農業の活用で、営農技術を確実に継承

日本の農業の未来には若い担い手が必要不可欠ですが、技術が伴わないことから経営難に陥る新規就農者がいるというのも事実。その背景には高品質な農作物を栽培する技術は長年の経験で培った知識に依存する部分が多く、後継者に正しく継承されにくいという問題があります。そうした経験差を補うのもスマート農業の利点のひとつです。
「経験のない新規就農者は正しい肥培管理が難しく、予測ができません。その場合、ドローンで撮影した生育状況をデータ化することで追肥の必要性や収穫時期を把握することができます。スマート農業の活用で、ベテラン農家の技術を若手農家に継承できるというわけです」。

ドローンで撮影した生育状況(NDVI)のデータ画像

また、センシング技術や農機の自動化によって、農業の概念は変わりつつあります。そのような状況下でスマート農業を普及させるためには、圃場の規模や目的に合わせた農業機械をどう組み合わせるかがカギと渡辺さんは言葉を続けます。
「同じ農機を使っても、同じ結果が出るとは限りません。蓄積したデータを分析し、修正を繰り返すことで省力化や高品質生産につなげていくことができます」。

ドローンを活用した農薬散布で効率化を実証
見えてきた課題と今後の取り組み

スマート農業を実現するためには無人自動運転トラクタをはじめとした製品・サービスの導入が必要となり、規模の小さな農家では導入が難しいという側面もあります。今後は価格面の見直しや補助金制度の整備などが必要になってくることが予想されます。
「本プロジェクトで得たデータからは、さまざまな可能性を読み取ることができます。大規模農家だけではなく、全ての日本の農家がスマート農業を活用し、農業を強いビジネスに進化させることが当社のミッション。そのためにもデータを正しく蓄積し、活用するための通信インフラの整備も大きな課題です」。
プロジェクトが遂行される中で見えてきたこれらの課題には、生産者と行政、製品やサービスを提供する民間企業が一体となって取り組むことが望まれます。農業の担い手の減少・高齢化が進んでいく中、地域の農地を守り、農業を魅力ある職業にしていくためには、アグリードなるせをはじめ全国69カ所で始まっているスマート農業プロジェクトの実証結果は日本の農業の未来に欠かせないものとなることでしょう。

(写真提供・協力 (株)クボタ、宮城県)

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