畜産|先輩就業者インタビュー
どうして「酪農」を仕事に?
地質学の調査で、北海道の十勝岳で2カ月半ほどキャンプ生活をしていました。そこでお世話になった農家との交流が、農業に興味を持つキッカケに。研究者の世界は厳しく、研究に没頭できないと競争には勝てません。自分の地質学への情熱が仲間と比べて及ばないと感じていたので、北海道でのダイナミックな農業にチャレンジすることにしました。もともと動物が好きだったこともありますが、北海道は酪農への就業体制が整っていたので2軒の農場で研修(1年半)を受けました。
1軒目の農場では、牛が下痢をおこす「牛サルモネラ感染症」が発生。牧場主は感染牛への対応はもちろん、そんな状況でも朝夕の搾乳や飼養管理、牧草の収穫まで手を抜くことはありません。乳量が減り、経営的なダメージもありましたが、それを乗り越える酪農家の姿に感銘を受け、酪農こそ自分が本当に打ち込める仕事だと確信しました。
2軒目の農場で就職する予定でしたが、父の病気で大阪へ戻ることに。しかし、酪農への思いも強く、父の友人の紹介で周防大島の先進農家で研修を受けることになりました。そこは北海道で体験した大規模な酪農とは違い、小さな牛舎で少ない頭数を管理し、酪農家の技術力で牛の能力を引き出す別世界。そこで牧場主から「どれだけ牛に関わっても、経営者でなければ、やりたい酪農はできないよ」と言われ、酪農家になる決意を固めます。
「酪農」を仕事にする上で大切なことは?
周防大島の牧場主が「本気で経営者を目指すのであれば…」と他の酪農家に後継者を探している酪農家の情報を聞いてくれ、小規模だが引退を考えている酪農家が防府市にいるということで、そこで研修(2年間)を受けて、事業継承するという話をいただきました。そこでは、牛の管理だけでなく、経営全般も任せてくれたので、より実践的な研修を受けることができました。
しかし、規模を拡大するのが難しい場所だったので、新たに、自分が考えている経営規模に合った空き牛舎を探すことになりました。振り出しに戻って一からのスタートとなり、思ったような空き牛舎が見つからずに困難を極めましたが、絶対に諦めない「強い気持ち」を持ち続けた結果、周囲の協力もあり、10数軒目でようやく今の牛舎に巡り会うことができました。見つかった牛舎は老朽化により修繕が必要な状態だったので、何とか自分で修繕しました。また、牛や機械は所有していなかったため、研修先から格安で牛を譲り受けたり、必要な機械を中古で整えたりして、2003年8月に経産牛10頭・育成牛3頭の規模で何とか経営をスタート。銀行からの借り入れと国や県からの支援を受け、2010年4月に経産牛約50頭規模まで拡大。現在は、年間で480tの生乳を出荷し、質の高い生乳の生産に取り組んでいます。
非農家の方が「酪農の経営」を目指すのは簡単なことではありません。酪農系の学校で学んできた若い方にも「すぐに理想の実現は不可能だよ」と話しています。レールなんか存在しないので、絶対に諦めない「強い気持ち」が必要で、チャンスがあれば私のように空き牛舎を借りてスモールスタートするのが現実的だと思います。
- 酪農経営を目指すには
- いい研修生、いい従業員のままではダメ
- 自分の名前で、少量でも品質の高い生乳を出荷することが第一歩。あなたの技量や酪農への情熱を周りの方が評価してくれれば、必ず支援の輪が生まれるはずです。
- 紆余曲折を経て辿り着いた
- 酪農を経営する魅力とは
- 今の牛は、産乳能力がとても高いのですが、健康で良い状態に保つには酪農家の技術力が不可欠です。自分の取り組みに対し、牛が乳量や乳質で応えてくれる…その奥深さが魅力です。