十勝管内ほぼ全域で、1日農業バイト『daywork』を運用
北海道東部に広がる十勝エリアは、小麦、馬鈴薯、豆類、てん菜を中心とする大規模な畑作地帯。広大な土地を利用した酪農も盛んです。近年は長いもが作付面積を伸ばし、収穫量が全道の6割以上を占める一大産地となっています。
農業経営の大規模化が進む一方で、従事者の高齢化や労働力不足は深刻です。生産者が比較的労力のかからない作物へ移行する動きもあり、輪作体系の崩れによる連作障害や主要作物の安定供給が維持できなくなることが懸念されています。
十勝管内の労働力不足の課題を解消するために、JAの農業労働力担当者による任意組織として立ち上がったのが、とかちアグリワークです。2019年にJAさらべつ、JA幕別町、JA帯広かわにし、JA帯広大正、JA芽室の5JAが集まって発足し、2023年に17JAが加わり、現在はJA陸別を除く帯広管内の22JAが参画しています。
とかちアグリワークでは、2019年から労働力確保のプラットフォームとして、スマートフォンアプリ「1日農業バイトdaywork(以下、デイワーク)」の活用を推進してきました。その結果、2024年時点でJA十勝管内のデイワークの登録者は約7,500人、組合員である生産者約450軒が同サービスを利用しています。同サービスにより延べ3万人が農業アルバイトに従事し、募集に対する成立率は92%に達しています。
「労働力の確保は、職業紹介所や派遣会社を介した場合でも、JA職員が生産者との仲介や調整にあたります。デイワークでは生産者と労働希望者が直接つながることができるので、JA職員の労務と求人コストが大幅に軽減されています。」とJAさらべつ経営相談部・部長の大野勝広さんはその利点を話します。デイワークはもともとJAさらべつが先行して導入し、帯広開発建設部等の関係機関の協力のもと、とかちアグリワークの事業推進により十勝管内のほぼ全域に発展しました。
なおも続く収穫期の労働力不足、人をどこに求めるか
デイワークの運用で労働力確保に一定の成果があったものの、年2回、どうしても人手が足りない時期があります。
まず9月第1、2週の馬鈴薯の収穫。そして11月第1、2週の長いもの収穫です。これら2作物は十勝管内のみならず全道で一斉に収穫作業に入るため、労働力の不足が常態化し、デイワークの成立率も80%台に落ち込むといいます。
市町村の職員に従事してもらうように働きかけをするJAもありますが、行政の副業規則には週・日ごとの就労時間に制限があり、労働力不足を埋めることはできません。作物の収穫適期を逃すと品質低下を招くため、収穫期の労働力の確保は待ったなしです。
そこで打って出た策は、大都市圏の大手企業との「他産業連携」です。
「十勝管内に労働力がないなら、大都市圏の企業の社員の方々に十勝へ来てもらい、馬鈴薯・長いもの収穫作業に従事してもらおうと考えました。折しも、国のデジタル田園都市国家総合戦略で更別スーパービレッジ構想が採択され、多くの企業が参画しているので提案する好機です。」(大野さん)
企業の福利厚生や研修に、十勝で農業体験のニーズあり
2023年、とかちアグリワークでは、農業労働力産地間連携等推進事業を活用して「他産業連携」を進めました。この事業にも、生産者と就労希望者のマッチングにデイワークが運用されています。
「各社から更別スーパービレッジ推進室に出向している方へ、『御社のみなさんに十勝へ収穫を手伝いに来てもらえないか』と話をすると、多くの企業が興味を持ってくれました。」と大野さん。同事業の初年度に限り、7日以上の就労で来る人の交通・宿泊費が国から補助されるため、大都市圏から7日間、50人分の予算を組み、事業が採択された6月中旬からとかちアグリワークの役員が東京へ赴き企業を訪問して事業の説明にまわりました。
2023年度は、7社から若手・中堅社員を中心に17人が参加。9月の馬鈴薯の収穫に5人、11月の長いもの収穫に12人が従事しました。
「参加者の数が思うほど伸びなかった要因として、事業が採択された6月中旬に募集の案内を開始したため、企業側で稟議する時間が短かったことが挙げられます。また、社員が有給休暇や副業として参加するには、交通・宿泊費補助の要件となる実務日数7日以上がネックになったようです。」(大野さん)
一方で、企業の農業体験への潜在ニーズは高いと見ています。
「企業のニーズは、社員への福利厚生、農業関連事業部での研修目的など、多岐にわたることがわかりました。それぞれのニーズに合わせたプログラムを提供できれば農業体験として活用してもらえ、交通・宿泊費などの個人負担なしで来てもらえると期待しています。」(大野さん)
2023年の事業への参加者からは、「素晴らしい経験ができた。」「机上ではわからない現場を知ることができた。」という声が聞かれ、チームワークの醸成や他社との交流の機会が提供できたことにも手応えを得る結果となりました。
対企業の事業なので、生産者も来てくれる人材への信頼と安心感があります。2024年は、2月から東京・大阪の企業へ案内を開始して着々とプランを進めています。
酪農はバイト人材育成から、将来の他業種連携も視野
もうひとつ、十勝管内で盛んな酪農業でも、農業従事者の高齢化や担い手不足は深刻です。特に労働時間の約4割を占める搾乳が負担になっていることから、とかちアグリワークでは、2022年から3カ年でJRAの畜産振興事業を活用して搾乳アルバイト人材の育成にも取り組んでいます。
搾乳には一定の知識と技術が必要なため、JAが牛の模型を導入し、JA職員・酪農ヘルパー等が講師となって、搾乳バイト希望者への研修を実施。別日に酪農ヘルパーに同行し、協力先の農家での実地研修を行い搾乳のスキルを身につけます。この事業でも、アルバイトと農家のマッチングにデイワークを活用し、現在は十勝管内で30人の搾乳アルバイトが登録。2024年までに80人の登録を目指しています。「搾乳バイト」もまた、馬鈴薯・長いもの収穫のように他産業連携に発展する可能性を秘めています。
「事業を通してたくさんの企業とつながりができれば、さらに多くの人とつながり、労働力確保のための知識がいろいろな角度から入ってきます。」と大野さん。2024年度も他産業の連携先を求めて北海道と大都市圏を往来しています。
【取材協力】
とかちアグリワーク
【農業労働力産地間連携等推進事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局
MAIL:roudouryoku@myfarm.co.jp
TEL:050-3333-9769