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注目の若手農家が語る! もうかるまでの道筋【若手農家座談会】

注目の若手農家が語る! もうかるまでの道筋【若手農家座談会】

農業経営者として「もうかる農業」を戦略的に推し進める若手農家たち。不確実性の高い昨今に、若手農家たちはどのような活路を見出しているのか。そこには若さゆえの挑戦もある一方、若さゆえの苦労も少なからずあるそう。農業経営の考え方や、業界への展望などを座談会形式で語り合ってもらいました。司会進行:マイナビ農業 横山拓哉(よこやま・たくや)

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【プロフィール】<五十音順>
■上野勉さんプロフィール

株式会社シトラスプラス 代表取締役
1989年佐賀県唐津市生まれ。祖父が「上野早生(わせ)」を生み出したミカン農家の3代目。高校卒業後、果樹研究所研修課入所。卒業後の2010年に唐津市で就農。2017年に事業継承、2019年に法人化。施設カンキツへの統合環境制御の導入を行う。

■酒井貴弘さんプロフィール

アイ・エス・フーズ徳島株式会社 代表取締役
1993年兵庫県南あわじ市生まれ。高校卒業後は地元企業に就職。20歳のときに当時父が代表を務めていたアイ・エス・フーズ株式会社へ入社。青ネギの栽培を始める。2017年に兵庫県の淡路島にある本社より分社して徳島にアイ・エス・フーズ徳島株式会社を設立。

■中森剛志さんプロフィール

中森農産株式会社 代表取締役
1988年東京都生まれ。東京農業大学農学部在学中より青果流通業・飲食業で起業。2016年に水稲栽培をはじめ、2017年に食料安全保障の確立をテーマに掲げ、中森農産を設立。コメ、ダイズ、トウモロコシを栽培し、栽培面積は合計で230ヘクタールに上る。

■深見優さんプロフィール

有限会社深見梅店 代表取締役
1983年和歌山県西牟婁郡生まれ。創業1940年の梅干し専門店の4代目。大学卒業後はアパレル関係の仕事に就職。自然災害をきっかけに和歌山へ帰郷、就農する。2009年より有機梅の栽培を開始。「有機JAS」認証を2013年に受ける。

■丸山桂佑さんプロフィール

アグベル株式会社 代表取締役
1992年山梨県山梨市生まれ。同市で60年以上続くブドウ農家の3代目。大学卒業後、大手不動産仲介会社に向けた広告営業に従事。2017年、山梨へUターンし家業のブドウ農家を継承。2020年にアグベル株式会社を設立。

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「もうかる農業」への道筋

マイナビ農業・横山:最初のテーマは「もうかる農業」。みなさんは就農時から、現在までの道筋が見えていたのでしょうか。

丸山:僕が就農して最初にやったのは、従来通りの共選です。約600〜700万円の売り上げがあり「意外ともうかるな」と思っていました。でもコストを計算してみると、全くそうとは言えない。人件費などのコストの概念がほとんどない家族経営の農業では良しとされていましたが、「このままでは稼げない」「自分で値段が決められない」という違和感を覚えました。そこで初めて「もうかる農業」を意識し始めて、経営も軌道にも乗り始めましたね。

上野:うちは施設園芸の比率が高く、12カ月間、何かしら集出荷できるのが強みだと思います。基本的に果樹はシーズンが終わったら来年まで待たなければいけませんが、施設園芸は固定費も下がっていきますし、営業もしやすい。何より時期をずらしてずっと収穫できるのは有利です。

酒井:うちはネギを栽培しています。ネギはシンプルに「切って、生やして」をどれだけできるか。特に私は、いかに少ない面積で収量を上げるかを意識しています。それによって他の生産経費も減らせるからです。またネギは年に3回収穫できて、特に3回目は生産コストがほとんどかかりません。3回きちんととれるかも重要になってきますね。

若手農家たちが経てきた苦労

マイナビ農業・横山:みなさん若いからこそ、苦労されたこともあるのではないでしょうか。

酒井:うちの会社が淡路島で設立して約3年経過したタイミングで、隣の徳島県に産地を作ることになったんです。その仕事を任せてもらいました。1番苦戦したのは、年上の従業員との人間関係。僕はずっとプレイヤーだったので、マネジメントは全然わかりませんでした。社内の人間関係はぐちゃぐちゃになるわ、経営はもう毎月赤字が続くわ……2、3年たってようやく会社として成長でき、利益を出せるようになりました。

深見:うちは有機梅の栽培をしています。和歌山県は南高梅の産地ですが、これまで有機栽培で作っている農家はほとんどなく、有機栽培=異質なことと捉えられがちです。長いこと、年配の諸先輩方からは「あいつがおかしなことを始めた」と見られてきました。でもここ数年、僕と同じ年ぐらいの30〜40代で「産地だからこそ、新たに有機栽培に挑戦したい」という人たちが増えてきました。それに伴い「有機栽培ってどうなの?」と聞いてくれる方も出てきて、良好な関係を築けています。

上野:私は、逆に若いからこそ良かったことの方が圧倒的に多いですね。取引先も、地域の方も、社員も、みんな年上で「若いからもっとやれ」って応援してくれます。僕は商習慣も何もわからずに営業していて「見積もり書とは何か」「JANコードとは」など、全て取引先から教えていただきました。早いうちからやってみた方が得なんじゃないかなと思います。

気候変動に取り得る手とは

マイナビ農業・横山:最近は自然災害のリスクが高まっていると思いますが、対策も含めて、みなさんが感じていることを教えてください。

中森:昨年はコメとダイズの高温障害がひどくて、埼玉県の条例で特別災害に認定され支援してもらいました。国連が言った通り、異常気象は増えていると感じます。ただ高温障害に耐性のある地域があるので、そういう場所にスケールするのはリスクヘッジになると思います。

丸山:僕も同じで、産地を変えて開園しているのはまさにその理由です。また生産方法を工夫して施設型の果樹をやったり、露地でも雨よけの設備を入れたりしています。

酒井:うちも同じですね。香川県や岡山県、兵庫県、京都府の農家と産地連携をしていて、自社でも来年から大分県に参入する予定です。ネギも夏の栽培がネック。そのために高冷地で栽培しようと。また九州は台風のリスクがあるので、全て施設園芸でやっていく予定です。総事業費は約3億円かかりますが、経営規模をスケールしていくためにプラスになると思っています。

上野:私たちも高温の影響でミカンの色が付きにくかったり、春先に花がつかなかったりすることも増えてきています。でも特殊なスキルを持った篤農家と呼ばれる方たちがいて、その方たちのものってブレないんです。最初は迷信だと思っていましたが、見る目が養われてくると、やっぱり違うんですよ。今後はもっと自分も解像度を上げていくことが大事だと思います。

深見:うちは「多様化」といって、いろんな品種を植えています。特に私は有機栽培をやっているので、1種類では病気にかかると全滅するリスクがあるんです。今から実践して気候変動に備えています。

人口減少時代の採用戦略

横山:人口減少時代、みなさんは人材をどう採用していますか。

中森:うちは今、正社員が18人、パートの方が数名います。けん引免許や大型一種免許など、さまざまな免許が必要なので基本的には日本人しかいません。私は近い将来、サラリーマンで農業をやる人が、年収1000万円を狙えるような農業を実現したいと考えています。メディアで発信していることもあり、今は求人を出すと約100人が応募してくれます。また、中森農産のテーマを「食料安全保障の確立」と掲げていて、そこに共感してくれる方も多いですね。

丸山:うちは応募は来ますが、今は採用をしていなくてリファラルだけ。良い人がいたら、こちらから採用しに行くという形をとっています。うちの規模は10ヘクタールちょっととたかが知れていますし、果樹の場合は繁忙期と閑散期の差が大きい。閑散期に適正に管理できる人数が正社員の人数だと思います。期間雇用のアルバイトさんは約100人いますよ。

酒井:採用がうまくいっている会社の共通点ってあると思いますか?

丸山:パーパス・ミッション・バリューがちゃんとしていて、その事業が人のためになっていることが重要だと思います。あとは本業でそれなりの収益を上げていて、それなりの対価が払えること。この二2つが、今の僕ら世代の経営にとって重要じゃないかなと。ビジョンだけ大きくても、待遇面がボロボロでは人は集まりませんから。

若手農家が目指す農業のカタチ

マイナビ農業・横山:最後に、これからみなさんが目指していきたいことを教えてください。

深見:私が夢として掲げているのが「食べる人にも、育てる人にも、育てる環境にも優しい梅」。私の故郷は梅の産地ですが、有機栽培をやっている農家はまだまだ少ない。でも産地を守るにはこれまでとは違う武器を持たなければいけないと思うんです。それを代々受け継いできた先人がいるからこそ、今私が農業をできています。私も次につなげていくという思いでやってます。

中森:さっき篤農家さんの話もしましたが、彼らが培ってきた農業のノウハウはこの国の宝なんですよ。僕ら若い世代がそれを引き継ぐことに本気で取り組まなくちゃいけないと思っています。それは1一つの地域で自分の農場をやるだけでは実現しませんし、僕らが掲げる食料安全保障も確立できません。若い人材を採用して教育し、全国に送り込んで、各地に農場を作っていきたいと考えてます。

酒井:僕は農業を魅力ある産業にしたくて、もうかることが全てだとシンプルに思っています。そのためにも、自分たちがもうかる農業のモデルになり、農業界のリーディングカンパニーになっていくことが大事だと考えています。具体的には、売り上げ100億円、営業利益で約20%がとれるような会社にしていきたい。後継者がいない農家や法人と連携して、全国的に産地を作っていこうと計画しています。

丸山:これまで果樹はほとんど家族経営の農家が生産してきました。後継者がおらず、将来は生産者が減っていくのは明らかです。そこを法人として組織経営で規模拡大していくこと自体が産地にとって重要だと思います。僕たちが成長していくことが結果的に、産地を守ることにつながったり、農業界にいい影響を及ぼしたりできれば良いですね。

上野:農家が減っているので、今後果物の相場は上がり続けると思います。経営的には楽になってくるかもしれませんが、消費者にとってそれがいいことなのか。私はそうではないと思います。豊かさとは「食の多様化」。柑橘が年間を通してテーブルの上にあるフルーツとなるように、日々お客様が食べられる価格で提供する。そのためにサプライチェーン全体を含めて、どうビジネスを作ってくか。私たちシトラスプラスはそれを「柑橘のイノベーション」と呼んでいます。「ゼスプリのキウイ」「ドールのバナナ」のように「シトラスプラスの柑橘」になりたいですね。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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