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「安心して牛舎を離れられる日」の裏側。酪農ヘルパーと酪農家が築く信頼関係とは

「安心して牛舎を離れられる日」の裏側。酪農ヘルパーと酪農家が築く信頼関係とは

搾乳や飼料給与など、365日休むことのできない酪農の現場で、酪農家の休日確保を長年支えてきた福岡県酪農ヘルパー利用組合。安心して牛舎を離れるためには、作業を任せる酪農家と、それを引き受けるヘルパーとの信頼関係が欠かせません。今回は、利用する酪農家、現場で働く若手ヘルパー、制度を支える利用組合、それぞれの視点から、酪農ヘルパーが果たす役割と、その背景にある日々の連携、地域の酪農を支える存在としての価値をひも解きます。

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酪農家の休日と暮らしを支える、「牧場を任せられる人」がいる安心感

「酪農は休みがないのが当たり前」。酪農家の今村和彦さんも、かつてはそう考えていました。

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今村さんが利用組合に加入した平成4年当時は組合員も多く、ヘルパーを利用できるのは2カ月に1日程度だったという

子どもの少年野球の遠征がある日は午前2時頃から仕事を始め、祖母が亡くなった際には、両親は通夜に参列できても、自分たちは牛の世話のため出られなかったといいます。転機となったのが、平成4年の酪農ヘルパー利用組合発足でした。加入後、初めてヘルパーを利用して家族で一泊旅行へ。「酪農もこうして休みが取れる時代になった」と実感したそうです。

現在は、まずヘルパーを利用できる日を押さえてから家族の予定を立てるようになり、家族と過ごす時間も増えました。「あと何日でナイターを観に行ける」といった楽しみができることで、日々の仕事にもメリハリが生まれているといいます。自分や家族の用事だけでなく、農繁期には牛舎の仕事を任せ、自分にしかできない作業に集中することもあるそうです。さらに、急病やけがなどで突然人手が必要になった際にも頼れることが、大きな安心感につながっています。実際、ヘルパーを利用できなければ経営を続けられなかった組合員もいるのだそう。休めることは心身の負担を和らげるだけでなく、家族経営の酪農を続けていくための支えにもなっています。

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「休むときは思いっきり遊ぶので、仕事より疲れることも(笑)」と今村さん。ヘルパーの利用が、休日を楽しむ時間も生み出している

酪農家によって異なる牧場。それぞれに応えるプロの技術

酪農家が安心して牛舎を離れられるよう、その間の牧場を預かる酪農ヘルパー。今回話を聞いたのは、酪農ヘルパー2年目の大石真也さん(21歳)です。(取材当時)

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「とにかく牛がかわいい。そして、自分が生産に携わった牛乳をたくさんの人に飲んでもらえることが酪農の魅力」と語る大石さん

将来は自営での就農を目指しており、そのためにもさまざまな牧場を経験できるヘルパーの仕事を選んだのだそう。現在担当するのは約20軒。牧場ごとに異なる仕事にどう向き合い、どんな技術を身につけているのでしょうか。

Profile

    大石真也さん
    小学生の社会科見学をきっかけに酪農を志し、福岡農業高校、福岡県農業大学校で酪農について専門的に学ぶ。卒業後、福岡県酪農ヘルパー利用組合へ。
    現在2年目で、約20軒の牧場を担当。将来は自営での就農を目指している。

「一つの農場だけではなく、いろいろなところを見られるのが魅力でした」と大石さん。実際に働き始めると、同じ酪農でも、搾乳の方法や乳房の拭き方、前搾りの有無、使用する機械や操作方法など、やり方は牧場ごとに異なります。それぞれの手順を覚えながら、別の牧場で学んだ効率的な飼料の与え方や作業方法を生かすこともあるそうです。

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「牛にも、人が怖がっていることは伝わる」と大石さん。必要以上に怖がらず、それぞれの牛の性格を知りながら接することを大切にしている

1年目は分からないことがあればその都度先輩に確認していましたが、2年目となった今では、自分で判断して動ける場面も増えました。先輩の動きを見ながら、次に必要な作業を先回りできるようになったことにも成長を感じているそうです。さらに、普段は蹴らない牛が足を上げる、搾乳時に嫌がる、触ると乳房に硬さがあるといった「いつもと違う」変化を察知する力も、経験を重ねる中で身についてきました。

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牛の異変に気づき、必要な手当てをした際、農家から「やってくれたんやね、ありがとう」と声をかけられたことが、最もうれしかったという大石さん

一方で、大石さん自身は「分からないことを一人で判断せず、周囲に確認すること」を今後の課題として挙げます。多様な牧場に対応する応用力、牛の変化を見逃さない観察力、そして農家や仲間と連携するコミュニケーション能力。酪農ヘルパーは、単なる補助作業にとどまらない専門性が求められる仕事です。

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「これくらいでいいだろう」と妥協することはできないと話す大石さん。牛だけでなく、農家の設備や資産を預かる責任を感じながら日々の仕事に向き合っている

信頼は一日では生まれない。酪農家とヘルパーの関係づくり

では、酪農家はどんなときに「この人なら任せられる」と感じるのでしょうか。

今村さんが挙げるのは、ヘルパーを利用した翌朝、牛舎に入ったときに「預けたときと同じ状態」であることです。使った道具が決められた場所に戻され、日報には「8番はエサをあまり食べない」「5番は乳房の張りが弱い」など、気になった牛の様子がきちんと残されている。そうした情報があれば、すぐに必要な対応を取ることができます。「かゆいところに手が届くようなヘルパーには、安心して任せられます」と今村さん。

一方、大石さんも、初めて担当する牧場では、最初の数回は農家の方が牛舎まで様子を見に来ることもあったと振り返ります。それが5、6回と担当を重ねるうちに、今では電話で「頼んどくね」と任されるように。「頼まれることがうれしいし、やりがいでもあります」。農家の方が様子を見に来ていたのが、やがて電話だけで任されるようになる。その変化に、少しずつ信頼を得ている実感があるそうです。

酪農家が牛舎を離れている間にも、牛の体調や様子は刻々と変化します。だからこそ、決められた作業を終えるだけではなく、その日に起きたことや気づいたことを次の管理につなげることが大切です。ヘルパーからの細かな報告があれば、酪農家も留守中の状況を把握でき、翌朝から迷わず対応することができます。

酪農ヘルパーが預かるのは、日々の作業だけではありません。牛の状態や設備を含め、牧場そのものを任される責任があります。決められた作業を確実に行い、小さな変化も見逃さず、次に必要な情報を農家へつなぐ。そうした一つひとつの積み重ねが、安心して牧場を任せられる関係へとつながっていくのです。

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先輩ヘルパーから学ぶことも多く、なかには30〜40分かかる作業を10分ほどで終えるなど、作業の速さや機械操作に長けた人もいるという

厳しい酪農の現場を支え、未来につなぐ酪農ヘルパー制度

福岡県内の酪農家は、2020年3月末の209戸から、2026年3月末には129戸へと約40%減少しました。福岡県酪農ヘルパー利用組合の組合員数も、2020年4月の113戸から、2026年3月末には68戸まで減っています。飼料や生産資材の高止まり、近年の厳しい暑さなど、酪農を取り巻く環境は依然として厳しい状況です。酪農家が点在するようになれば、ヘルパーの移動距離が伸び、働く側の負担や組合の経費も増えていきます。

こうした中でも、酪農家が安心して休むために、ヘルパー制度は欠かせません。現在、同組合では正職員10名、臨時職員9名が活動していますが、人員は十分とはいえず、組合事務局の志岐秀雄さんは「あと2名ほどいれば」と話します。

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酪農未経験でも、農家での実務研修などを通じて一つずつ仕事を覚えることができる。「分からないことは経験者に尋ね、謙虚な気持ちで仕事に向き合ってほしい」と志岐さん

今後必要なのは、搾乳や飼料給与、清掃といった基本を確実に身につけることに加え、分からないことを経験者に尋ね、自分の考えを言葉にできる人材。若手には、現場をより良くする提案や行動力にも期待しているといいます。

さらに、酪農ヘルパーの経験を経て就農した例もあり、希望者には離農する農家を紹介するなど、次の担い手を後押しする役割も生まれています。大石さんは2〜3年後の自営を目標に、さまざまな牧場で経験を重ねています。酪農家を支えながら、次代の担い手も育てていく。酪農ヘルパー制度は、地域の酪農を未来へつなぐ重要な役割を担っています。

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「期待の星にはなりたい。自分が変えていくくらいの気持ちで」と大石さん。志岐さんも、若手の提案や行動力に期待し、就農希望者の夢の実現を後押ししている

お問い合わせ
福岡県酪農ヘルパー利用組合
〒812-0011
福岡市博多区博多駅前4-32-18
TEL:092-431-7863
FAX:092-431-7868

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