食用菊とは?

食用菊は、食べるために栽培されるキクの総称です。標準和名はショクヨウギクで、食菊、料理菊、甘菊とも呼ばれます。刺身などに添えられる小輪種(つま菊)と、花びらを食べる大輪種・中輪種に大きく分けられます。小輪種も花びらをちぎって散らせば薬味になりますが、野菜として食べるのは大輪種や中輪種です。この記事では、主に大輪種・中輪種の食用菊を取り上げます。
特徴
食用菊で食べるのは花びらの部分です。厚みがあり、ゆでてもへたらず、シャキシャキとした歯ざわりが残ります。かむとほのかな甘みが広がり、菊特有の香りも楽しめます。苦みのある花芯は使わず、がくから外した花びらだけを調理するため、クセはほとんど感じられません。
花の色は黄色と赤紫が主で、加熱しても色があせにくいのが持ち味です。おひたしや酢の物に使われることが多く、汁物やご飯に少量を加えるだけで彩りになります。品種によって花びらの形は異なり、筒状に丸まった管弁のものは歯切れの良さが際立ちます。
食用菊と観賞用の菊の違い
食用菊は、植物学的には観賞用の菊と同じで、両者の間にはっきりした線引きはありません。菊の花のなかでも、苦みが弱く食味に優れたものを選んで、食用としてきました。観賞用の品種がそのまま食用に転じた例もあり、花としての美しさも備えています。
食用菊の品種
食用菊には多くの品種があります。なかでも代表的なものは、青森県南部地方で栽培される「阿房宮(あぼうきゅう)」と、山形県や新潟県で栽培される「延命楽(えんめいらく)」です。
阿房宮は黄色の八重咲きで、香りと甘みが強いのが持ち味。延命楽は淡い紅紫色の中輪種で、筒状の花びらのシャキシャキとした食感が特徴です。延命楽を山形では「もってのほか」や「もって菊」、新潟県の下越では「かきのもと」、中越では「おもいのほか」と呼びます。ほかにも黄色系の「寿(ことぶき)」「岩風(いわかぜ)」「越天楽(えてんらく)」「菊名月(きくめいげつ)」などの品種が栽培されています。
なお、切り花や庭の菊は食べるために育てられたものではありません。苦みが強いうえ、農薬の使い方も食用とは異なるため、口にするのは避けてください。
産地
日本各地で栽培されていますが、菊の花びらを食べる習慣が根づいた東北地方や新潟県が主な産地です。つま等に使われる小菊は愛知県などで栽培が盛んです。
山形県は食用菊の産地として知られ、「もってのほか」をはじめさまざまな品種が栽培されています。東京都中央卸売市場で扱われる量(つま菊を除く)の5割ほどを山形県産が占めます。
青森県では南部地方を中心に栽培され、菊の花弁を蒸して板状に乾燥させた「菊のり」が特産品となっています。干し菊、蒸し菊ともいいます。
新潟県では新潟市や燕市で「かきのもと」の栽培が盛んで、新潟市南区は県内生産量の8割を誇ります。「かきのもと」は新潟市の食と花の銘産品にも指定されています。
旬の時期
露地ものの旬は10〜11月です。早生(わせ)種を含めて品種の幅が広がったことで出回る期間は長く、山形県では5月から1月にかけて収穫されています。
代表品種では、阿房宮の収穫が10月下旬から11月上旬、もってのほかは10月下旬ごろから。新潟のかきのもと(延命楽)は10月上旬から、霜が降りる11月下旬ごろまで出回ります。 つま用の小菊はハウス栽培で通年流通しています。
栄養

食用菊の花びらはおよそ92%が水分で、100gあたり25kcalと低カロリーな野菜です。食物繊維や葉酸、ビタミンEのほか、カリウムやビタミンCを含みます。赤紫色の花びらの色は、ポリフェノールの一種であるアントシアニンによるものです。乾燥品にはビタミンのほか、タンパク質、カルシウム、リン、鉄などが、生よりも多く含まれています。
食物繊維
小腸で消化されずに大腸まで届き、便通を整える働きがあります。100gあたり3.4gを含みます。
葉酸
赤血球の形成を助ける栄養素です。妊娠中や妊娠を計画している女性は、不足しないよう意識したい栄養素でもあります。100gあたり73μgを含みます。
ビタミンE
抗酸化作用により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける栄養素です。100gあたり4.6mgを含みます。
※栄養成分は日本食品標準成分表2020年版(八訂)「きく 花びら 生」の値を参考にしています。
下処理方法

食用菊は、酢を入れた湯でさっとゆでてから使うのが基本です。
まず、花びらをがくから外します。指でつまんで引くと、まとめて外れます。中心の花芯は苦みがあるので使いません。
次に、湯1Lに対して酢大さじ1程度を加え、花びらを20〜30秒ほどゆでます。浮いてくるので、箸で沈めながら混ぜてください。酢を加えることで色が鮮やかに仕上がり、とくに紫の花びらは赤みがさえます。 ゆで上がったらざるに上げ、冷水に取り、水気をしっかり絞ります。ゆですぎると食感が損なわれるので、短時間で仕上げるのがコツです。
花の形を生かして天ぷらにする場合は、洗って水気を拭き取るだけで、下ゆでは必要ありません。
保存方法

生の食用菊はあまり日持ちしません。乾燥しないように湿らせたキッチンペーパーで包み、ポリ袋や保存袋に入れて冷蔵庫の野菜室で保存し、味・香りの良い1〜2日を目安に使い切ります。
使い切れないときは、下処理してから冷凍します。酢を入れた湯でゆでて水気を絞り、1回分ずつラップで包んで保存袋に入れ、冷凍庫へ。1カ月ほど保存できます。使うときは冷蔵庫で解凍し、和え物や汁物に加えます。
青森県の菊のり(干し菊)のように、蒸して乾燥させた加工品もあります。常温で保存でき、湯で戻せば季節を問わず使えます。
食用菊を楽しむレシピ5選
菊が出回るのは秋のひととき。下処理した花びらは、和え物から揚げ物、ご飯物まで幅広く使えます。黄色と紫を盛り合わせれば、季節を感じる一皿になります。ここでは、色と食感を生かした5品を紹介します。
菊なます

シャキシャキとした大根に、食用菊のほろ苦さと香りを合わせたなます。甘酢に菊を加えることで、紫色が鮮やかに映え、食卓に彩りを添えてくれます。さっぱりとした味わいで、箸休めにもおすすめです。
材料(2人分)
- 食用菊(花びら) 20g
- 大根 150g
- 塩 小さじ1/4
- 酢 大さじ2
- 砂糖 大さじ1
- 塩 少々
作り方
- 大根は皮をむいて細切りにし、塩をまぶして10分ほど置く。しんなりしたら水気をしっかり絞る
- 食用菊は花びらを摘み、酢を入れた湯でさっとゆでた後冷水にとり、しっかり水気を絞る
- ボウルに酢、砂糖、塩を入れて混ぜ、甘酢を作る
- 大根と食用菊を甘酢で和え、10分ほど置いて味をなじませる
菊とホウレンソウの磯巻き

山形県でおひたしの組み合わせとして定番のホウレンソウと食用菊を海苔巻きに。鮮やかな緑に、食用菊の黄色が映えます。海苔がふやけないように水気をしっかり絞るのがポイントです。
材料(1本分)
- ホウレンソウ 1/2束(約150g)
- 食用菊(黄菊・花びら) 15g
- 焼き海苔(全形) 1枚
- しょうゆ 小さじ1
作り方
- ホウレンソウは根元をよく洗い、沸騰した湯でゆでる。冷水にとって水気を絞り、根元を切り落とす
- 食用菊は花びらを摘み、酢を入れた湯でさっとゆでた後冷水にとり、しっかり水気を絞る
- ホウレンソウにしょうゆを加えて和え、余分な水分を軽く絞る
- 巻きすに焼き海苔を置き、ホウレンソウを海苔の手前半分に均一に広げ、中央に食用菊を横一列にのせる
- 手前から巻きすごと持ち上げ、ホウレンソウと菊を押さえながら、しっかり巻く
- 巻き終わりを下にして少し置き、形をなじませる。食べやすい大きさに切って器に盛る
菊と柿の白和え

菊のほろ苦さと柿のやさしい甘みを、白和え衣のコクでまろやかにまとめます。紫、オレンジ、白の彩りにも秋らしさが感じられます。
材料(2人分)
- 食用菊(花びら) 15g
- 柿 1/2個(約80g)
- 木綿豆腐 1/2丁(約150g)
- 白すりごま 大さじ2
- 砂糖 小さじ2
- 薄口しょうゆ 小さじ1/2
- 塩 少々
作り方
- 木綿豆腐はキッチンペーパーで包み、重しをして30分ほど水切りする
- 食用菊は花びらを摘み、酢を入れた湯でさっとゆでた後冷水にとり、しっかり水気を絞る
- 柿は皮をむいて種を取り、1cm幅程度の食べやすい大きさに切る
- 水切りした豆腐をボウルに入れてなめらかにつぶし、白すりごま、砂糖、薄口しょうゆ、塩を加えて混ぜ、白和え衣を作る
- 食用菊と柿を加え、形を崩さないようにさっくり和える
菊の天ぷら

食用菊を花の形のまま薄衣で揚げ、華やかな姿とほのかな香りを楽しみます。揚げたてに塩を添えてシンプルに。がくは食べずに、花びらだけを味わいます。
材料(2人分)
- 食用菊 4~8個(大きさによる)
- 天ぷら粉 大さじ3
- 冷水 大さじ3~4
- 揚げ油 適量
- 塩または抹茶塩 適量
作り方
- 食用菊は汚れがあればやさしく洗って水気をしっかり拭き取る
- ボウルに天ぷら粉と冷水を入れ、粉が少し残る程度にさっくり混ぜて衣を作る
- 食用菊を1個ずつ衣にくぐらせ、全体に薄く衣をつける
- 揚げ油を170~180℃に熱し、食用菊を花の形が崩れないように入れる。表面が固まり、衣がカリッとするまで揚げる
- 油を切って器に盛り、塩または抹茶塩を添える
菊の稲荷ずし

甘辛く煮た油揚げに、食用菊を混ぜた酢飯を詰めた稲荷ずし。紫と黄色の2色が目を引きます。甘酢の酸味とよく合い、菊のシャキシャキとした食感が生きています。
材料(8個分)
- 油揚げ 4枚
- だし 150ml
- 砂糖 大さじ2
- しょうゆ 大さじ1と1/2
- みりん 大さじ1
- 温かいご飯 1合分(約330g)
- 酢 大さじ1と1/2
- 砂糖 大さじ1
- 塩 小さじ1/2
- 食用菊(紫菊・花びら) 10g
- 食用菊(黄菊・花びら) 10g
- 白いりごま 適量
作り方
- 油揚げは半分に切って袋状に開く。熱湯をかけて油抜きをする
- 鍋にだし、砂糖、しょうゆ、みりんを入れて煮立て、油揚げを加える。落としぶたをして、煮汁が少なくなるまで弱めの中火で煮る
- 食用菊はそれぞれ花びらを摘み、沸騰した湯でさっとゆでる。冷水にとって水気を絞る
- 酢、砂糖、塩を混ぜてすし酢を作り、温かいご飯に回しかけて切るように混ぜる
- 酢飯を半量ずつに分け、それぞれに紫菊、黄菊を加える。白いりごまも加え、菊をつぶさないようにさっくり混ぜる
- それぞれの酢飯を4等分して軽く俵形にまとめ、油揚げに詰める
食用菊の栽培方法

食用菊は多年草なので、一度植えれば株を更新しながら毎年花を収穫できます。6月中旬に苗を植え付け、秋に花が咲いたら収穫します。丈夫で育てやすく、プランターでも栽培できます。
準備・土づくり
初めて育てるときは、園芸店や通販で苗を購入します。株がある場合は、春から初夏にかけて株分けするか、挿し芽で苗を作ります。日当たりと水はけの良い場所を選び、植え付けの2週間前までに苦土石灰と元肥、あれば腐葉土を入れて耕し、高さ10cm程度の畝を立てます。プランターの場合は野菜用培養土を使うのが手軽です。
株分けの方法
6月の新芽が30cm程度に伸びた頃、根をつけたまま親株を掘り上げ、十分根がついた新芽をハサミで切り分けて用います。株分けは植え付けの直前に行いましょう。
挿し芽で苗を作る方法
植え付けの20〜30日前となる5月頃、長さ5〜6cmの側芽を切り取り、下葉を取り除いて十分に吸水させた後、育苗用の土に挿します。発根するまでは乾燥を防ぎながら、15〜20℃で管理します。
植え付け
株間は20〜30cmほどとり、根鉢を崩さず苗を植え、軽く抑えて水やりします。
管理・水やり
植え付けから約2週間後、草丈が15cmほどになったら摘心すると脇芽が育ち、より多くの花を収穫できます。背が高くなる品種は、支柱を立てて支えます。土の表面が乾いたら水やりをしますが、露地栽培では雨だけでも育ちます。追肥は生育期の7~9月に2回ほど行います。
収穫・冬越し
花が開いたものから、1輪ずつ花首のところで摘み取ります。開ききる前のほうが花びらが締まり、食感も良好です。花が終わったら地際で刈り取り、寒い地域では敷きわらなどで株元を覆って冬を越します。
注意したい病害虫
アブラムシやハダニ、葉に褐色の斑点が出る褐斑病が発生しやすい植物です。株間を十分にとって風通しを良くし、茂りすぎたら間引くと発生を抑えられます。農薬を使う場合は、食用菊に登録のある薬剤を選び、使用時期と回数を守ってください。
秋の色を食卓に、野菜として菊を味わう

食用菊のおひたし/出典:農林水産省「うちの郷土料理」
食用菊は下処理が簡単で、気軽に使える秋の野菜です。料理の添え物という印象が強いかもしれませんが、山形県などの産地では、秋になると袋いっぱいに詰められた菊の花や花びらが、直売所やスーパーの野菜売り場に山のように並び、日々のおかずとしてたっぷり食べられています。定番のおひたしのほか、郷土料理のレシピも少なくありません。鮮やかな色は食卓を華やかにし、使い方次第でレパートリーも広がります。旬の時期に見かけたら、少量からでも取り入れてみてください。庭やプランターで育てれば、花を眺めながら摘み取る楽しみもありますよ。

















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