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稼げる、カッコいい、感動する農業へ。

ピンチをチャンスに。
「変化への対応力」こそ
宮崎の農業の強みです。
稼げる、カッコいい、
感動する農業へ。

全国5位の農業産出額、『宮崎牛』や『太陽のタマゴ』などの全国区のブランド、スマート農業への取り組みなどで先行する宮崎県の農業。
その「農力」はどのように形成されたのか、次に目指すのはどんな農業なのかなどについて、宮崎県副知事の郡司行敏さんに伺いました。

Yukitoshi Gunji

宮崎県 副知事

郡司行敏

宮崎市清武町生まれ。九州大学大学院農学研究科修了。1981年に宮崎県庁入庁。農水産物ブランド対策監、農政企画課長、南那珂農林振興局長、農政水産部長を経て2017年4月から現職。自らの経験から「現場・技術・議論」を意味する「3つのG」が仕事のモットー。宮崎市清武町で妻、雌のトイプードルと暮らす。「娘」と呼ぶ2匹との散歩がストレス解消法。

口蹄疫の発生から得た学び

…今、宮崎県の農業が抱えている課題は?

平成から令和への変化は、単に元号が変わっただけでなく、政治経済や国際関係、あるいは気候や人の価値観の変化にも表れています。今後はこうした変化に、的確に対応した地域だけが生き残れると私は考えています。変化の中でも最も大きなものが「人口減少社会の到来」です。この流れは止められませんから、限られた人材で地域の産業や社会をどう支えていくのかが、一つ目の課題です。そして、もう一つは、いかにして地域に人を呼び込むかです。
2020年は、オリンピック・パラリンピックが東京で開催されます。1964年の前回大会の前後は、人材が「地方から都会に」流れ込んだ時期でしたが、この新たな節目を機に「都会から地方に」人が還流するようになれば良いと私は考えています。

…地方創生における農業の位置付けは?

宮崎県は地勢的に関東・関西と非常に遠いことがハンディキャップの一つなのですが、世界地図で見れば、九州はアジアの中心的な位置にあり、そこにビジネスチャンスがあります。また、宮崎県の7割は山あいの中山間地域なのですが、伝統農業の神髄と言うべき高千穂郷・椎葉山地域が『世界農業遺産』として認定されたように、そこには豊かな多様性があると捉えることもできます。私はこの多様性を誇りに感じられる地域社会を目指しています。
農業が宮崎県の基幹産業であることを、改めて知らしめたのが「口蹄疫」の発生です。農業は動植物を育て、それを価値化するビジネスですが、口蹄疫発生の影響により29万7808頭の家畜の命を絶たねばなりませんでした。県は「非常事態宣言」を発表し、農業のみならず、観光業、商工業、流通業など各方面に深刻な影響がもたらされました。口蹄疫の発生により、産業間の垣根を越えた「連携」の大切さを、県民全体が学ぶことができました。

強みは気候や価格の変動に対応する力

…宮崎県の農業の強みとは?

一言で言えば「変化への対応力」です。宮崎県の農業産出額は、1955年頃は全国で30位くらいでしたが、現在は5位に位置します。ここに至るには、その時代ごとの課題に果敢に取り組み、変化を促してきた先人の努力がありました。県の農業において大きな転機となった政策の一つが1960年の「防災営農」です。宮崎県はかつて「台風銀座」と言われ、秋になると収穫前のコメが全滅するという事態がしばしば発生していました。そこで思い切ってコメの作り方を「早期水稲」に変えて稲刈りを10月から8月に前倒しするとともに、稲作中心の農業から施設園芸や畜産に取り組む農業への転換を図りました。それまでの常識を覆すチャレンジでしたが、生産者の決死の覚悟と、行政、農業団体、生産者の絆があってこそ達成できたのだと思います。

…ブランド化に取り組んだきっかけは?

「防災営農」が気象リスクに対するチャレンジとすれば、価格の変動リスクに対するチャレンジが「ブランド対策」でした。原点となったのは、私が普及指導員をしていた当時、ある生産者の方から「自分の手で作った作物なのに、どうして俺たちは自分で値段が付けられないのか」と言われたことでした。そこで、市場を通さず量販店に直接仕入れを持ち掛けたところ、「買ってもいいけど、何か特徴がないとその値段では買えない」と言われました。その特徴=付加価値を具体的な基準として形にしたのが「ブランド認証制度」です。当時は「バッグや宝石でもないのに、なんでブランドなの?」と言われたものですが、私は「ヒト、モノ、カネ、情報」に次ぐ第5の経営資源が「ブランド」だと言って説得を続けました。ブランドがもたらす安全・安心や品質は目に見えないものですが、ここをしっかり訴求してきたことが消費者との信頼関係を構築し、みやざきブランドの確立につながったのだと考えています。

地下足袋をはいた社長になれ

…農家の高齢化や後継者問題については?

今、私たちが直面している三つ目のリスクが「担い手不足」です。農業人材の確保と育成に関しては株式会社マイナビと協定を締結するなど対策を講じていますが、就農人口が減少している今だからこそ、人を育てることに注力する必要があると考えています。その際、本当に農業に魅力を感じ、農業で生きていくという覚悟を持った若者と、退職後に副業的に農村社会を支えていく層それぞれに対して有効な施策を打つことが大切だと思います。農業で食べていくと考えている方に、「地下足袋をはいた社長になれ」と言っていますが、これからは6次産業化やデジタルネットワーク社会の中での新たな販売方法の創出など、経営者としてのマネジメント力がますます求められるようになります。

…「輸出」や「スマート農業」については?

日本の人口が減っていく一方で、世界の人口はますます増えていきます。九州をアジアの中心と捉えれば、「輸出」も挑戦すべき大きなフィールドだと思います。実際に『宮崎牛』は東アジアやアメリカで評価を得ていますし、ヨーロッパでの展開も始まっています。
また、「儲かる農業」を追求する上では、生産性を高める「スマート農業」の推進も手法の一つです。私は「新しい技術が新しい時代の扉を開く」と考えていますが、今後、県内における「スマート農業」の社会実装を進め、新しい農業の形を発信していきたいと思います。こうした挑戦を続けていく農業を私は「新3K農業」と呼び、「稼げる農業」、「カッコいい農業」、「感動する農業」の実現が、若い人の参入を促すと思っています。農業には生き物を扱う感動、最新技術を駆使するカッコ良さがある。もちろん、所得がしっかりとついてくることが前提です。そして、常に新しいものにチャレンジする気概を持った農家を育てていくことが私たち行政に求められていることだと思います。

「競争」と「協同」で日本の農業を未来へ

…全国の自治体に向けたメッセージを

伝えたいメッセージは「競争」と「協同」です。各自治体は、地域の宝物をそれぞれに発掘し、磨き上げることが非常に大切です。そして互いに競争し合うことが質を高めていくことにつながります。と同時に、共に同じ目標に向かって頑張る局面もあると思います。例えば輸出を考える時に、「オール日本」で挑むこともあるだろうし、量販店の棚を考えた時に、ピーマンなら冬場は宮崎、夏秋は他県が産地であれば、連携して通年でおいしいピーマンを消費者に供給する体制が組めるかもしれません。各地域が競い合い、そして助け合う中で、日本の食はもっともっと面白くなり、農業も発展していくと信じています。

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