実践の場で商品開発を学ぶ
「商業高校フードグランプリ」は、地域の特産品を用いて、メーカーと共同開発した食品を競うコンテスト。2013年度からの新学習指導要領で、商業高校(商業科を有する高校)の実施科目に「商品開発」が導入された。商品の開発に関することのみならず、流通に必要な知識や技術を、体験的に習得することを意図した科目に着目した同社。コンテストを通して継続的に流通・販売可能な商品の条件や課題を学び、商品の改良や、次の商品開発に活かすこと、地域食文化の活性化に寄与することなどを、実践の場で学ぶ機会を創出するねらいで企画した。
グランプリは、全国の商業高校からエントリー商品を募り、その商品を味、独創性、地域社会への貢献度などを基準に大会事務局が審査。同社の品質保証部の確認を経て、本選に出場する高校を決定している。今回は6校6品が本選に進んだ。
■北海道・東北ブロック 北海道函館商業高等学校 「The Butter Chicken Curry」
■関東・甲信越ブロック 山梨県立ひばりが丘高等学校 「吉田のうどんだしMAX」
■東海・北陸ブロック 三重県立水産高等学校 「カツオのキーマカレー」
■関西ブロック 堺市立堺高等学校 「べっぴんさん甘酒ノンオイルドレッシング」
■中国・四国ブロック 高知県立安芸桜ケ丘高等学校 「なすのプリン」
■九州・沖縄ブロック 福岡県立小倉商業高等学校 「恋するドレッシング koidore」
商品開発に込めた思いを生徒たちが発表
本選は一般来場者の投票と、6人の審査員による審査で各賞を決定した。一般来場者の投票基準は「味の良さだけでなく、接客やブースの装飾」が優れた高校となっており、各校のブースは様々な方法で商品をアピールしていた。審査員による判定は「商品の販売戦略」をテーマに、商品の独創性・新規性や、販売を意識した商品の陳列・ブースの装飾、5分間プレゼンテーションなど、8項目に出場校6校が臨んだ。最終日に行ったプレゼンテーションは、学校法人服部学園理事長の服部幸應氏、美養サラダ研究家の宮前真樹氏ら6人の審査員を前に、商品や地域への思い、商品の販売戦略について説明した。大賞を目指す高校生たちの熱気で会場はヒートアップ。大賞の発表時には、大きな歓声と拍手に包まれた。
大賞
「なすのプリン」 高知県立安芸桜ケ丘高等学校
服部幸應審査員特別賞
「The Butter Chicken Curry」 北海道函館商業高等学校
宮前真樹審査員特別賞
「恋するドレッシング koidore」 福岡県立小倉商業高等学校
審査員特別賞
「吉田のうどんだしMAX」 山梨県立ひばりが丘高等学校
「べっぴんさん甘酒ノンオイルドレッシング」 堺市立堺高等学校
「カツオのキーマカレー」 三重県立水産高等学校
来場者賞
「なすのプリン」 高知県立安芸桜ケ丘高等学校
大賞を受賞した「なすのプリン」ができるまで
今回「なすのプリン」で大賞となった高知県立安芸桜ケ丘高校のビジネス応援部顧問の金子宏(かねこひろし)先生と、生徒リーダーの手島茉利奈(てしままりな)さんに、開発のエピソードを聞きました。
―「なすのプリン」について、特徴を教えてください。
(手島)ナスは安芸市の特産品です。環境に配慮したエコシステム栽培という、こだわりの農法で育てられたナスを、もっとたくさんの人に食べてもらいたくてプリンにしました。
―なぜ「プリン」にしたのですか。
(手島)私の家は祖母がナスを栽培しているのですが、実は私自身、ナスが苦手なんです。小さい子もナス嫌いの子が多いと聞いて、子どもでも食べられるナスの調理方法をみんなで相談しました。好きじゃない人にとっては、苦いし、食感も微妙なナスをどのようにするかと話す中で「スイーツにしたい」という意見が出て、スイーツの中でも人気のある「プリンにすること」が決まりました。
―開発秘話を教えてください。
(手島)開発に当たっては、地元食材の加工販売や、オーガニック製品を製作している「まる弥企画」さんに協力していただきました。90%以上が水分のナスを、じっくり皮ごと柔らかく煮てできた試作品は、味はおいしかったのですが、見た目が断然、美しくありませんでした。そこで、甘くて香ばしいキャラメルソースを加えたなすのペーストとミルクプリンを交互に重ねて、見た目もかわいいボーダープリンが完成しました。
開発を進めるうちに、商品そのものの美しさを伝えたいという思いが強くなって、ターゲットを大人に変更しました。味も少しビターテイストにし、パッケージは落ち着きのあるデザインにしました。
―金子先生にお聞きします。なすのプリンの取り組みについて、経緯を教えてください。
(金子)グランプリに参加するに当たって、新学期からのスタートでは間に合わないので、春休み前から参加する学生を募りました。やる気がある生徒が集まったので、短い期間に価値の高い商品開発ができたと思います。まる弥企画のスタッフのみなさんも、これまで何度かコラボレーションしてきたこともあり、生徒の意図を汲んでいただき、プラスアルファの相乗効果が生まれたと思います。
―ビジネス応援部は珍しい名称ですが、どのような活動をおこなっているのでしょうか。
(金子)他の地方都市と同様に、安芸市の若者は、就職や進学を機に市外・県外に出て行くケースが多く見られます。様々な事情で地元を離れることは仕方がないことですが、せめて、自分の生まれ育った街の良さを知ってから巣立って欲しい。そういった考えのものとで、地域理解の一環として、地元企業との商品開発を行っています。
また、地域おこし活動にも力を入れています。2017年7月には、高知県が開発した交配種の鶏「土佐ジロー」を使ったラーメンを提供する9店舗の協力を得て「安芸の土佐ジローラーメン街道」(開催中~2017年10月29日までの土日実施)という地域おこしイベントを実現しました。安芸市で頑張る人にも、安芸市を離れて頑張る人にも「誇れる郷土」であり続けるために、現役の生徒たちが地域の宝に光を当てる活動を続けています。
―今回、大賞を受賞しましたが、今後の抱負を聞かせてください。
(手島)今回のグランプリをきっかけに、他校から「文化祭で販売したい」という、うれしい話もいただきました。私たちは商品を作って終わりと思っていないので、PRにも力を入れて行きたいと考えています。
今は、一人のスタッフの方に、1日7時間かかりきりで作っていただいて、1ヶ月に1,500個の生産が上限ですが、もっと売上げを伸ばすことで、スタッフさんが増えるなど、プラスの効果を生み出したいです。「安芸と言えば、なすのプリン」と言っていただけるように。安芸のおみやげナンバーワンを目標にしています。それには、改良も必要です。私たちができることに全力を尽くして、その後は後輩たちに託したいと思います。
―ありがとうございました。
商品開発は高校生の力だけでは実現しない。地元企業の協力と、時間の積み重ねも必要だ。グランプリ本選参加校はいずれも、商品開発や町おこしの経験、それに数年の月日を費やした下地があって、今回出展した商品を開発している。全国の商業高校が来年はどのような新商品をエントリーしてくるのか。大賞を受賞した安芸桜ケ丘高校の取り組みにそのヒントがある。