“100%美瑛産”の美しさ
黄、紫、黒、白、茶。放射状に敷き詰められ、丸いペンダントを彩るのは、宝石やビーズではなく、大豆やトウモロコシといった穀物。素材の持つ色や形を活かした、世界に一つだけの手作りアクセサリーです。ハッと目を奪われるカラフルさですが決してうるさくなく、落ち着いた自然界生まれの色合いはどんな服にもよく馴染みます。
アクセサリーを手掛けるのは、北海道美瑛町の松家芳(まつかかおり)さん。春から秋は、米や麦、大豆にジャガイモ、ビートを作る「松家農園」で農作業に勤しみます。素材となる大豆などの豆類や、カラフルな粒が特徴のグラスジェムコーン(宝石とうもろこし)は、すべて松家さんの畑で作ったり、近所の農家から分けてもらったりした“100%美瑛産”です。
「まさか農家の嫁になるなんて思っていなかった」と明るく笑う松家さんは、20年前に大阪から美瑛へ嫁ぎました。
美瑛へ来て驚いたのは、冬の長さ。合計約40ヘクタールの田畑での収穫が10月末に終わると、3月下旬の土作りまで長い冬休みが始まります。12月の平均月間降雪量は180cmを超え、「おかの町」としての美景を織りなす丘陵地帯も真っ白に染まります。元々保育士時代は工作を教えることが得意だったなど、手先が器用な松家さん。雪深い外へ出るのが億劫な日は、自然と娘の子ども服を作るなど手芸に熱中する時間が増えました。
もう一つ、北の大地が松家さんを驚かせたのは、特産物である豆の種類の豊富さです。
可愛らしい虎柄で煮豆の材料として最高級品とされる「トラ豆」、表面の模様が2枚貝のような「貝豆」、ウズラの卵の殻に似た「ビルマ豆」、黒と白の見た目そのものの「パンダ豆」など、個性的なエンドウ豆の数々。そして、黒、青、黄と品種によって色合いが異なる大豆。
大豆の主産地でありながら、地元のスーパーや食卓に煮豆など豆料理が並ぶことは少なく、加工品以外での大豆の消費量が少ないことを不思議に思ったという松家さん。「豆の魅力をもっと知ってもらいたい」と、色とりどりの豆を使って、髪飾りやペンダント作りに取り組むようになりました。
はじめは友人にプレゼントしたり、町内のカフェにある雑貨スペースに並べて販売したりする程度でしたが、人づてに評判を呼び、テレビ番組で紹介されるほどに。美瑛町内の道の駅でも販売を始めました。観光で訪れた子どもに人気だというヘアピンは500円から、一番高いものはデザインが凝ったネックレスで1600円ほど。
「一年掛けて作る」、世界で一つだけのアクセサリー
大豆を使った大きなペンダントは、半日がかりでパーツ作りを完成させ、透明な樹脂液のレジンを塗って2日間乾かして完成です。ただ、素材となる作物の土づくりから数えると、一年間手塩に掛けて育まれた代物です。こだわりは色のグラデーションと、一つとして全く同じものを作らないことだといいます。
3年前からは、グラスジェムコーンも素材に使うようになりました。「使い道がなくて、おいしくない」と、本州の農家仲間から譲られた種を畑に撒いたところ、地元で「花とうきび」と呼ばれている、赤色などの実をつけるトウモロコシと交配を繰り返したのか、年を重ねるごとにカラフルなものが収穫できるようになりました。どんな色に出合えるだろうと胸を弾ませながら、皮を剥く瞬間が「大好き」という松家さん。黄、紫、水色、濃い青、黒-。色に合ったデザインを考えるのも、至福の時です。
2年前から、豆や加工品の魅力を伝える「お豆腐マイスター」や「おから味噌インストラクター」としても活動します。一丁から家庭で手軽に作れる豆腐や、おからを原料にした味噌作りを、町内の知人を中心に教えています。
「栽培から消費までトータルで関わりたい」という松家さんの思いは、素朴な美しさのアクセサリーに宿り輝いています。アクセサリーについてのお問い合わせは、ブログ「お豆アクセサリー*Mallow」やSNS「Instagram」アカウントへのメッセージで。道の駅「丘のくら」でも購入可。(※販売時期要確認)