ケアファームのコンセプトと経済
身体を動かして「農業をする」ことが重要
ケアファームとは、「ケア(介護)」+「ファーム(農場)」。認知症や精神疾患を抱える人、発達障がいのある子どもたちなどにデイサービスを提供する農場です。さまざまな利用者が緑豊かな環境の中で一緒に1日を過ごします。
また、野菜や果物を収穫したり、雑草を取るなどの農作業、飼育されている動物の世話、餌やり、畜舎の掃除といった仕事も基本的に利用者が行います。
ただ単に良い環境の中で寛ぐだけでなく、太陽のもとで活発に身体を動かして「農業に勤しむ」ということが重要なポイント。それも一緒に組む仲間たちと会話をしながらの仕事なので、コミュニケーションも深まり、孤独感・疎外感からも解放されるといいます。これによってストレスを緩和したり、症状の進行を遅らせる効果が期待できるとされています。
スタート20年で20倍
このケアファームが始まったのは1990年代後半からと言われていますが、その後、患者=利用者の増加とともに増え、10年後に5倍、そのまた10年後には20倍近くに。2015年のデータでは約1,400ヶ所あると報告されています。
介護報酬が大きな収入源
その背景には収入の良さがあります。ケアファームを営む農家の主な収入源は、農産物の売上の他に、国の介護保険「AWBZ 」からの介護報酬、各種の寄付の3つです。
AWBZ は自治体が保険者となり、基本的にすべての人が加入しています。日本では考えらえないことですが、オランダでは家族や友人、地域の人が介護を行った場合でも給付が受けられるようになっているのです。
したがってケアファームを経営する団体は、利益追求に終始せず、社会性のある事業を行っていると国から認められれば、農業経営による収入に加え、国からの助成金などが受けられるのです。
運営スタッフと利用者
農業従事者+福祉専門家+ボランティア・研修生
運営は農業従事者と、ケアマネージャー・介護士など福祉の専門家が協同し、これにボランティアや研修生が加わって行っています。
一例をあげると、日本のある自治体が視察したアムステルダム郊外のケアファームでは、農業・介護、それぞれの専門スタッフが約20名、研修生やボランティアが約60名参加しています。
約120名の利用者+待機利用者
そこでは周囲が森に囲まれた美しい農場で、約6,000羽の鶏、約80頭の豚、約100頭の牛や馬が飼育されており、野菜、果物、ハーブなどの有機野菜が栽培されています。
利用者は、平日の月曜日から金曜日の昼間は認知症や後天性障がいの人たちがデイサービスで、週末は発達障がいの子どもたちが宿泊で施設を利用。ここではトータルで約120名が通い、農業に勤しんでいますが、これよりさらに多くの参加希望者が待機していると言います。
障がい者でなく、ハンディキャップドパーソン
ちなみにこうしたケアを受ける人たちは、オランダでは「障がい者」でなく、「ハンディキャップドパーソン=精神的・肉体的にハンディキャップを持っている人」と言われます。
また、活動を理解してもらうために毎年1回、地域の人たちに農場を開放する「オープンディ」を設けています。
オランダの福祉の特徴
農作業に対する賃金は一切なし
オランダにおける、福祉に対する考え方は日本と大きく違っています。
日本の福祉施設は、障がいの重度に応じて利用者を受け入れますが、オランダではそうしたことにとらわれず、幅広く対象を想定しています。
また利用者の農作業に対する賃金は一切支払われないことも大きな特徴と言えそうです。
サービス提供者と利用者は対等な相互扶助の関係
ケアファームの一連のケアは、日本では障がい者(ハンディキャップドパーソン)が働くための場所づくりや、賃金収入による生活力向上などを目的とした取り組みとされます。
ところがオランダではそれと異なり、農業従事者の多角的経営の一つとして捉えられ、収入の確保が主目的とされています。
一方の利用者は、ストレスケアやリハビリ、症状の進行を遅らせるための施設としてケアファームを認識しており、双方には対等な相互扶助の関係が成り立っています。
日本でもケアファーム設立が期待されている
今後、日本でもオランダ同様、各地でケアファームが設立され、利用されることが期待されています。現在でも知的障がいの人などが働く場所として、農福の連携は見られますが、高齢の認知症患者をケアする手法としての可能性も高いでしょう。
なお、オランダではケアファームの経営者で作る「ケア農業連盟」(FLZ:Federatie Landbouwen Zorg)が組織されており、事業を行う農家の大半がFLZに加盟しています。