未来を先取りしたコミュニティ
100年前は海の底
首都アムステルダムから東へ約30km。高速鉄道IC(インターシティ)ならわずか23分で到着するのが、人口20万弱の都市「アルメレ Almere」(英語読みはアルメール)です。
この街のあるフレヴォランド州は100年前は海底にあり、20世紀前半に行われた、大堤防の建設を含む一大干拓事業によって生まれました。
未来社会を想定した実験ができる街
何もない干拓地からつくる街、ゼロからスタートする街だからこそ可能だったさまざまな実験。1986年に基礎自治体としての歴史を歩み始めたアルメレでは、それらの実験が活かされ、30年余りを経た今、世界随一の「未来都市」として注目を集めています。
世界最先端の建築、土地そのものをアートの材料とし舞台に見立てた巨大な「ランドアート」、自然豊かなウォーターフロント、近代的住宅と繁華街が計画的に配備され、高齢者やハンディキャップドパーソンも安心して暮らせる地域包括ケアシステムも整っています。
食の循環サイクルがビレッジの中で完結
そのアルメレで新たに始まった実験プロジェクトが「ReGen Village(リージェン・ビレッジ)」。新しい農業技術とエコロジーを追求したコミュニティです。
15550平方メートルの土地に住宅100件が建設。住居スペース、コミュニティスペースなど、複数の建物で構成される各集落は、農業温室とつながっており、温室内では家庭から排出される生ゴミを堆肥にしたり、野菜や果物を栽培できる仕組みになっています。
つまり農作物の生産から消費、堆肥を使ったリサイクルまでの食の循環サイクルが、このビレッジの中で完結するのです。
地産地消+地リサイクル。まさに究極のエコロジカル農業スタイルです。
新しい農業技術とエネルギーが理想を実現
垂直農法とアクアポニックス
農業は温室だけでなく、住居近辺の大規模な施設でも行われます。ここでは高層建築のタテの空間を活かして作物を育てる「垂直農法(ヴァーティカル・ファーミング)」や、魚の養殖と水耕栽培を同時にできる「アクアポニックス」などの新しい都市型農業が中心です。
これらは従来の農業と比べて、同じ土地面積で約10倍の収穫を見込め、使用する水量は10分の1程度で済むといいます。
また環境に対する負荷も非常に小さいので、周辺の森林や野原、湿地帯など、自然環境も損なうことなくそのまま維持することができます。
エネルギーも自給自足
エネルギーは太陽光をはじめ、地熱、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーの発電ソリューションを導入。これらによって住民が消費する電力をコミュニティ内で賄います。さらに住民はソーラーパネルとパッシブ冷暖房が完備され、自らエネルギーを生み出す「ポジティブエネルギーハウス」で生活します。家庭ゴミはコンポストされ、植物用の堆肥や家畜・魚の餌としてリサイクル。コンポストできないゴミは、バイオガス工場で水やエネルギーに変えられるなど、エネルギーの完全自給自足を実現しています。
世界中へ波及するリージェン・ビレッジ
じつはこのアルメレにおけるリージェン・ビレッジ建設は数あるプロジェクトの第1号。エーリッヒ氏はすでにヨーロッパ各地で続々と建設計画を進めており、いずれは世界規模での展開、特に地球人口の大半を占めるアジア・アフリカ地域の発展途上国でのニーズを視野に入れて活動しています。
また他にもイギリスやアメリカの企業が、同様に食やエネルギーの自給自足を志向する居住コミュニティの建設を表明しています。こうした動きは世界各地で少しずつ広がり始めており、いずれは大きな潮流になっていくものと思われます。
循環型コミュニティ建設における農業の重要性
人口増加が著しい開発途上国では、多くの人がより豊かで快適な生活を求めて都市部へ移り住んでいますが、それによってまた地球環境が破壊される問題が生まれています。
そこで現在の先進国が19世紀から20世紀にかけて行ってきたのと同様の都市開発が進めば、環境の悪化はますます深刻なものになるでしょう。リージェン・ビレッジに代表される循環型コミュニティの建設は今や緊急課題。そこでは食物の生産に直接関わる農業の新しい在り方・技術・アイディアが強く求められているのです。
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