人も植物も、鉄の力で元気になる
「人間が鉄欠乏になると貧血を起こしますし、植物も鉄が不足すると力を落とします。人間も、植物も、生命の維持に鉄は必要不可欠です」と話すのは、愛知製鋼株式会社未来創生開発部の菊地弘泰(きくち ひろやす)さん。「鉄力あぐり(固形)」「鉄力あくあ(液体)」は、植物の鉄分補給を目的に、同社が開発した農業資材です。
自動車のエンジンやギヤなどを構成する鋼(はがね)の生産からスタートした同社は、自動車やインフラの解体によって発生する鉄スクラップを原材料として、モノづくりを行う「資源循環型企業」です。「鉄」という素材の可能性を追求し、新しい価値を提供することに取り組む特殊鋼メーカーは、鋼材から鍛造品まで、一貫して生産できる企業の強みを生かし、「鉄」に関連する製品を開発しています。
研究の過程で偶然生まれた特殊な酸化鉄。それを活かす方法を検討し、到達したのが「植物の生育を助ける鉄の働き」でした。研究、検証を繰り返し、植物の鉄分補給に最適な農業資材「鉄力あぐり(固形)」「鉄力あくあ(液体)」が誕生しました。
植物の成長に不可欠な「二価の鉄」
「鉄」は植物の葉緑素を作るために必要な元素です。鉄が不足すると葉緑素が作れず、葉は白くなります。白い葉では光合成ができなくなり、植物は生育の力を失います。
酸化鉄の活用を検討してきた研究チームは「森から流れ出た養分が海を豊かにする」と言われてきたことに着目し、土壌の中の鉄分を研究しました。
土壌の中には3~4%の鉄が存在していますが、土中の鉄分は、酸素と結びついて「水に溶けにくい鉄」=「植物が吸収しにくい鉄」になっています。もともと水溶性に乏しい性質もあって、土中の鉄分は植物が吸収しにくい状態にあります。
植物は「溶けにくい鉄」を吸収するために、根から有機酸を分泌し、鉄分を溶かそうとします。その活動で溶ける鉄分「三価の鉄」を、さらに自身の酵素の力を使って「二価の鉄」に変換することで、植物は細胞の中に鉄分を取り込むことが可能になります。
天候が安定しているときには、植物自身が「二価の鉄」を作ることができますが、気象条件が悪くなると、酵素の力がうまく働かず、鉄欠乏を招いてしまいます。
研究チームは「植物の育成を促進すること」に酸化鉄(二価の鉄)を活かす方法を見いだし、農業の領域に踏み込みました。「二価の鉄を効果的に植物に与えること」をテーマに研究・開発を進めた結果、「鉄力あぐり」と「鉄力あくあ」の原型にたどり着きました。