輸出に強い「くしまアオイファーム」
宮崎県最南端に位置する串間市。日本有数のサツマイモの産地で、昭和初期から続く農家の三代目が現社長の池田誠(いけだ・まこと)氏です。
池田社長は父親の死をきっかけに23歳の若さで後を継ぐと、40歳になった2010年ごろから地元スーパーなどに働きかけて市場を通さない直接取引を開始。法人化と前後して海外輸出も始めるなどして、国内外での売上げを徐々に拡大してきました。
主な輸出先は香港、シンガポール、台湾、タイ、マカオなどの東南アジア諸国で、日本産のサツマイモは甘くておいしいと人気が高いそう。2017年の輸出量は834トン、約2.2億円。これは日本から海外に輸出されるサツマイモのシェア31.5%を占め、直近の半年にいたっては50%を超える見通し。国内を含めた売上高は、2018年は9億5,000万円を見込むといいます。
圧倒的な強さの秘密はどこにあるのでしょうか。5つのポイントについて伺いました。
躍進を可能にした独自の仕組みとは
①ニーズに合わせた多品種生産
「当社の強みの一つは青果用サツマイモに特化した多品種生産で、お客様のニーズに合わせた規格変更やOEM(他社ブランド製品の生産)にも対応していることです」
そう話すのは、くしまアオイファーム副社長の下出淳平(しもいで・じゅんぺい)さんです。産地ごとに単一品種を生産する農家が多い中、「紅はるか」「宮崎紅」「シルクスイート」「安納芋」「パープルスイートロード」の5種類を主に生産。バイヤー視点で見れば、ワンストップで何種類も買い付けられるというメリットがあります。
主力商品でもある「おやついも」は、創業初期にデパートで試食販売した際に、お客様から直接聞いた要望をもとに開発。女性が食べきれる程度の小ぶりのサツマイモをパッケージングしたもので、これが炊飯器や電子レンジでイモを調理する東南アジアでも扱いやすいと好評に。輸出量を大きく伸ばすことになりました。
②鮮度を保つ特殊な包材を開発
輸出時の腐敗対策も、海外シェアが伸びた大きな要因となっています。
それまでサツマイモを船便輸出する際に問題となっていたのが、カビや腐敗によって30%ものロスが出ることでした。ロス分を見込むと末端の販売価格が割高になってしまうのです。
そこで、くしまアオイファームが注目したのが、サツマイモを包装する袋です。
同社は包装資材メーカーと共同で、表面に無数の小さな穴が空いたサツマイモ用の特殊な包装フィルム「Pプラス」を開発。袋内の二酸化炭素濃度や水分量を調節して腐敗や結露を防止することで、ロスは5%ほどに抑えられるようになりました。
③最新式の貯蔵庫・出荷場がすごい
一般的にサツマイモは貯蔵することで甘さが増し、食感も変化すると言われていますが、周年出荷を可能にしたのは、2017年10月に新設されたばかりの大型貯蔵庫と出荷場です。
収穫されたサツマイモは、まず高温・高湿の「キュアリング貯蔵庫」に収納し、90時間かけて収穫時の傷を自然治癒。その後、最大1,150トンまで収容できる大型低温貯蔵庫でじっくり熟成させます。
④ITツールを積極的に活用
創業当初7、8人だった従業員が75人と10倍にも膨らんだ同社。煩雑になった情報共有などに関する課題は、様々なアプリケーションを利用して解決したそうです。
例えば、栽培管理には圃場単位で作業記録がつけられる「agri-note」、ハウスや貯蔵庫の温度設定などの環境管理には「Smart Logic」、社員や契約農家の人事管理には顔写真付きで面談の情報なども一体管理できる「カオナビ」、社員の勤怠管理には「シュキーン」といった複数のアプリやクラウドサービスを利用しているそう。
ITツールを難なく使いこなしているあたりは、平均年齢32歳という若い会社ならではと言えるかもしれません。
⑤人事管理を大切にしている
最後に、同社が特に重要視しているのが人事管理です。
例えば、「ほんの気持ち手当て」という独自のボーナス支給制度があります。これは月に一回、現場社員が「活躍した」と思った自分以外の社員に投票する制度で、持ち分は一人1000円分。「カオナビ」のアンケート機能を使って投票し、同時にメッセージも添えます。
この制度によって普段からお互いの働きぶりを「見る」「見られる」という意識が生まれ、経営側からも現場で信頼を集める“隠れたキーマン”を見つけることができたといいます。
現在の課題、そして今後の展望は?
高齢化した契約農家を助ける取り組み
そして、現在進めているのが、契約農家の事業継承を支援する取り組みです。同社が取り扱うサツマイモのうち、自社生産は10〜15%程度で、残りは約150軒の契約農家が担っています。
しかし、契約農家の高齢化とともに、廃業するケースが増えたことが問題になっていました。主な原因は①農業機械が壊れた際に新たな設備投資のリスクをとれない、②繁忙期をこなす体力がない、③後継者がいない―という3点。
そこで、同社は農業機械のリースや収穫代行などを行う一方で、家族経営の農家を丸ごと社員化する仕組みを作りました。社員なので報酬は給料制。休みのローテーションなどは同社が管理し、人手が足りないときには応援の社員を派遣。農地は借地として同社が借りる形になりました。
下出副社長は「実際にやってみて非常にいい取り組みだと実感しています。農家さんに対して人手を提供できる一方、農家さんからは長年培ってきた栽培技術を若いスタッフに指導してもらえる。今後も増やしていきたい」と話します。
加工品販売や研究施設、宇宙利用も!
驚くのは、同社の強みと言えるこれらの仕組みをわずか5 、6年で作り上げてきたことです。
2014年2月には農林水産省から6次産業化の事業者認定も受け、今後はサツマイモを使った様々な商品開発・販売を進める一方、品種改良や栽培方法などに関する研究施設を創設する予定だといいます。さらには、サツマイモのエネルギー利用や宇宙食としての展開、宇宙栽培などのアイデアも温めているとか。
同社が掲げる経営理念は「強い農業はこえていく」。これには「時代を越え、しがらみを越え、肥えていく」という意味合いがあるそうですが、私たちの想像をも越えて、まだ誰も見たことがない農業の未来を壮大に思い描いているようです。
【写真提供】株式会社くしまアオイファーム