日々増大するフードロスへの挑戦
世界の食品廃棄の量は13億トン。生産される食品の3分の1で、約7500億ドル(約84兆円)の経済損失を生んでいます(2013年、国連調べ)。そんななか、世界的な人口増加と食料需要増加を背景に、国連は食品廃棄の削減への課題意識を高めています。国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」では食料廃棄削減の目標が定められており、「2030年までに小売・消費段階での世界全体での1人当たりの食品廃棄量を半減すること」という高い目標が掲げられています。
フードロスは、製造・卸・小売・外食等の流通の各段階で発生しており、その理由は腐敗や賞味期限切れ、規格外品、食べ残り等、非常に多岐にわたります。イメージが付きやすいように日本の例で、各業種の廃棄量を下図で比較しました。
廃棄量全体としては食品製造業が多いですが、“本当は食べられる量(可食部のみの廃棄物量)”は外食や小売といった消費者に近いところで発生していることがわかります。この現象は経済が発展した先進国で起こりやすい傾向があるそうです。
国連や各政府が食品廃棄の削減に向けて動き出していますが、民間団体も動き始めています。例えば、「フードバンク」を行うNGO団体も世界各地で増えてきました。フードバンクとは、品質に問題はないにもかかわらず市場で流通できなくなった食品を、企業から寄附を受け生活困窮者などに配給する活動です。さらに、社会的意義だけではなく、これをビジネスチャンスと捉え、ベンチャーとして食料廃棄に挑む企業も生まれてきています。
飲食店の余りものをマッチングする
まず紹介したいのが、飲食店で余った食品を割安に購入できるアプリを提供する、Karma(カルマ)です。彼らはスウェーデン発の企業で、スウェーデンとロンドンに拠点を構えるスタートアップです。Karmaのアプリを開くと、近くにある提携レストランが提供する余った食品のリストが表示されます。余った食品なので、価格は通常の半額程度です。ユーザーはアプリ上で食品を購入して、そのレストランまで取りに行くといったシンプルな仕組みです。
Karmaは2016年にこのサービスをリリースし、2018年9月現在、1900社のレストランやホテルと提携を結んでいます。ホームページによると毎月5万食がこのアプリで販売されているようです。Karmaは2018年8月に新たに1200万ドルの資金調達を実施し、累計の調達額は1800万ドル(約20億円)。今回調達した資金を使い、既存市場での事業拡大と新規市場への進出を行うそうです。日本でもTABETE(タベテ)やReduce GO(リデュースゴー)等、類似のサービスがあり、Karmaのように普及するかもしれません。
ゲイツも注目。植物性由来のスプレーで腐敗を防ぐ
最近大型調達で注目を集めたのは、なんともシンプルでインパクトのあるサービスでした。カリフォルニア州を拠点とするスタートアップ、Apeel Sciences(アピール・サイエンシズ)が提供する「Apeel(アピール)」は、水に溶かして青果物等の農産物にスプレーする事で腐敗までにかかる時間を2~3倍に延ばす商品です。アボカド向けでは実用フェーズに入っており、アメリカの一部店舗ですでに販売が開始されています。
腐敗の原因は水分の蒸発と酸化です。この技術を使うと、スプレーにより農産物の周りに特殊な膜を作り、内部の水分を閉じ込めて、外気を遮断する事ができます。結果、農産物の水分の蒸発と酸化の進行を遅らせ、腐敗までの時間を延ばす事ができます。創業者のジェームス・ロジャーズはカリフォルニア大学で材料工学を研究していたのですが、鉄の腐敗に使っていた技術を農作物に応用し、この会社を設立しました。
この技術は、特に冷蔵物流が未発達な途上国で、大きなインパクトになるのではないかと注目されています。Apeel Sciencesはビル・ゲイツ、メリンダ・ゲイツ基金の支援を受け、2012年に設立されました。今では累計1億1000万ドル(約120億円)の資金を調達し、より多くの農作物に対応できるよう研究開発を進めています。
今回はフードロスに関する海外ベンチャーを紹介しました。日本は「もったいない」精神がある一方で食品廃棄量も多い国です。社会的課題は視点を変えればビジネスチャンスになります。日本からも世界に羽ばたくフードロスベンチャーが出てくるとうれしいですね。
Karma
Apeel Sciences
TABETE
Reduce GO