『ほ場水管理システムWATARAS(ワタラス)』ってなんだ?
株式会社クボタケミックスの『ほ場水管理システムWATARAS(ワタラス)』は、スマートフォンやパソコンで水位や水温をモニタリングしながら、水田の灌排水(給水・排水)を遠隔や自動で管理できるシステムです。
この技術は、研究開発国家プロジェクトである「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「次世代農林水産業創造技術」によって農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)が中心となって開発されています。
『WATARAS(ワタラス)』を導入することで、遠隔操作でのバルブ開閉はもちろん、タイマー設定による自動給水や、設定水位を自動で保つ一定湛水などの運用で水管理労力を軽減するとともに、無駄な給排水を抑制できるので、用水量の大幅な削減 ※1 を実現します。
インターネット経由で操作が行える電動アクチュエータ(バルブなどの開閉装置)を給水バルブと排水口に設置。ユーザーがスマートフォンやパソコンから行ったバルブの開閉指示や設定変更は、インターネット上にあるクラウドサーバを経由し、ほ場の近くに設置した通信中継機から電動アクチュエータに特定小電力無線(920MHz帯)で伝送され、作動する仕組みになっています。
また、この逆の経路で電動アクチュエータからは、20分おきに自動で水位と水温データがクラウドサーバに発信されているので、ユーザーはいつでも最新のほ場データを手元の端末で確認することができます。
設置については現場によっても異なりますが、既設のバルブに簡単に取り付けることができるのがポイントです(開水路や落水桝にも対応)。また、電動アクチュエータにはソーラーパネルとバッテリーを搭載しているので、ほ場に電源を用意する必要もありません。
通信中継機については、無線ボックスと通信ボックスがコンパクトにまとめられているので、限られたスペースで設置でき、1台の通信中継機で半径5km圏(良好な条件下・アクチュエータ内部のアンテナを外部に設置する場合もあり)に設置した電動アクチュエータを最大で80台(標準40台)接続させることが可能です。システムの利用料は通信中継機1台あたりで設定されているので、ランニングコストが抑えられるのも『WATARAS(ワタラス)』の特徴です。
総労働時間の約3割 ※1 を占める水田の水管理を『ほ場水管理システムWATARAS(ワタラス)』で軽減
「最初は半信半疑だったけれど、とにかく楽になりました」――と、笑いながら感想を話してくれたのは、2018年4月に千葉県スマート農業導入実証事業で『WATARAS(ワタラス)』を実証試験した千葉県山武市のカネタ農場・髙橋正浩さん。
髙橋さんは55ha(東京ドーム11.8個分)・約250枚のほ場でうるち米6種類と、もち米3種類を栽培。近年では離農者から水田を引き継ぐことも増えており、飛び地のほ場も数多く管理しています。それらほ場の水管理には大変な労力がかかっており、すべてを見て回るにはスクーターで1日半を要し、総移動距離は100kmにもなるそうです。
『WATARAS(ワタラス)』を設置したほ場も、自宅から直線で9kmも離れており、遠隔操作に関しては、「別のほ場で代掻きを行っている最中に、スマートフォンで代掻き水を入れる指示を出せば、2日後にはきれいに水が入っていたのが印象的だった」と話すほか、このほ場に関しては「スマートフォンで水位を常に確認できるので、日々の見回り作業が不要になった」ともいいます。
【水管理に要する労働時間は約8割削減、用水量は5割減少】という農研機構の試験結果 ※1 の話をすると、「本当にその通りだった」と髙橋さんはうなずきます。
「見回っているだけと思われるかもしれませんが、水稲の仕事で水管理が占める割合は大きく、それが疎かになると雑草が増え、除草剤が必要になるなど悪循環が生じます。その見回りに費やしていた時間を草刈りや追肥など、次の作業にあてられるのが最大のメリットだ」――と、髙橋さんは水管理労力の削減効果について話します。
また、用水の使用量削減についても効果があったと髙橋さん――「一定湛水に設定すれば、自動で設定水位をキープしてくれるので、無駄な給排水がなくなります。猛暑日には地温を下げるためにかけ流しを行うのですが、かけっ放し、こぼしっ放しということはありません。『WATARAS(ワタラス)』があれば、設定水位で水が止まるので、ほかの用水利用者に迷惑をかけることはありません。できれば土地改良区やJA、行政などが主導して地域全体で『WATARAS(ワタラス)』を導入できれば、水資源を効率的に共有できると思います」
「従来の見回り作業は、目視や経験則で行っていましたが、『WATARAS(ワタラス)』を入れることでほ場の見える化ができ、スマートフォンで確認ができるので、いつもと違うなと感じたときはほ場を見に行きました。また、水位を設定通りに保てるので、ジャンボタニシの活動を抑えることができて食害が減ったことや、モグラの侵入による漏水もありませんでした。水位とバルブの開度が手元で分かるので、目視では気づかない漏水も数値で把握できます」――と髙橋さんは水管理労力や用水量の削減以外にも導入の効果があったと感じています。
最後に増設について伺ったところ、「7ブロックあるほ場の各ブロックに、まずは少しずつ導入し、周りの生産者に『WATARAS(ワタラス)』を知ってほしいと考えています。もちろん行政が補助をしてくれるとありがたいのですが、農業従事者がどんどん減っていくなかで、今後より必要性が高まるシステムなので…」と髙橋さんは地域への普及に期待を寄せています。
クボタグループでは、営農支援サービス「KSAS(Kubota Smart Agri System)」や、水環境分野におけるIoTサービス「KSIS(Kubota Smart Infrastructure System)」を提供しています。クボタケミックスによると、今後は、それらと『WATARAS(ワタラス)』との連携に努めていくとのこと。
今後も担い手農家にほ場が集積されていくのは時代の流れです。そんな環境の中、水稲栽培の総労働時間の約3割 ※1 を占める水管理労力を削減できる『ほ場水管理システムWATARAS(ワタラス)』にかかる期待は大きいといえます。
※1=農研機構プレスリリースより[(研究成果)田んぼの水管理をICTで遠隔操作・自動制御]
<取材協力>
カネタ農場 千葉県山武市
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