◆今回お話を聞いたのは…◆
辻敦史さん 農業用灌水(かんすい)資材の営業を経て2011年に就農。伊勢原市で25アールのハウスと、80アールの畑でミニトマトと西洋野菜を栽培している。趣味は釣り。 |
佐藤愛美さん 大学を出て会社に3年勤め、県立かながわ農業アカデミーを経て2014年に就農。横浜市の女性農業後継者でつくる「農娘会(のうむすかい)」で活動中。横浜市で1.1ヘクタールの畑と16.5アールの施設で野菜を栽培している。趣味は旅行、散策。 |
1年間作物をとり続けるために続ける努力
——どのような農作物を栽培していますか?
佐藤:少量多品種で、年間100種類くらいは作っていると思います。米以外の農作物は、直売所や月に数回のマルシェなどのイベントで販売しているので、うちの野菜をわざわざ買いに来てくれるお客様をできるだけたくさんの種類の野菜でお迎えしたい。そんな思いから、少量多品種の生産をしています。
辻:3つのハウスで作っているトマトがメインです。あとは露地栽培でもトマト、そしてイタリア野菜をいろいろと育てています。
——お二人ともハウスと露地、両方で栽培しているのですね。
辻:1年間トマトを切らさずに収穫して販売していきたいという思いがあって、ハウスで収穫ができない時期もトマトをとれるようにと、後から露地を始めました。
佐藤:うちもハウスでは夏にトマト、秋にはカボチャなどを作っていますが、基本的には露地がメインですね。
——年間通して作物がとれるように工夫しているわけですね。
辻:そうですね。僕はハウス栽培で越冬長期どりという、夏に苗を植えて、翌年の夏ごろまで収穫できるという作型をとっているのですが、どうしても8月だけは収穫するのが難しいんです。そこで、露地栽培も始めれば1年間とれるなと思いましたね。
佐藤:うちは自分の直売所があるので、お客さんがコンスタントに来てくれるように、一年間とり続けて販売しなければという思いがありますね。
——苦労もありそうですが。
佐藤:収穫時期をずらすために、わざと列ごとに1週間くらいずらして種をまいたはずなのに、気候の変化によって同じくらいの高さに育ってしまって一気に収穫できてしまったりすると、どうしようとなりますよね。質の良い品物をきちんとした価格で購入してもらうためには、温度管理をいかにするかというのは重要だと感じます。
辻:僕の場合は今年露地栽培で失敗しましたね。梅雨明けが思ったよりもかなり早くて、気温が高くなるのも早かったので、うまくトマトが受粉できなかったんです。
ソバージュ栽培という、金属の支柱にトマトをはわせてトマトのトンネルを作るという栽培法をとっているのですが、そのトンネルがきちんとできる前に暑くなってしまった。ハウス栽培のトマトの収穫時期とかぶらないように、普通よりもだいぶ遅い時期に植えているのですが、そうしたリスクがあるのだと思い知りました。
冬の露地栽培の温度管理「トンネルが風で飛ばされて大失敗」
——佐藤さんは露地栽培でトンネルを使用しているんですよね?
佐藤:はい、小松菜やほうれん草などの葉物類は霜が降りると腐ってしまったりするので、冬は寒さから作物を守るために、そうしたものにはトンネルをかけますね。また夏にも寒冷紗(かんれいしゃ)という遮光や暑くなりすぎないためのトンネルを使います。
——トンネルのメリットは何ですか?
佐藤:メリットはやはりトンネル内の温度を保つことができるので、育ちも早くなることです。うちのように、少しずつ時期をずらしてとりたいという農家にとっては、無駄なくちょこちょこ収穫できるというのは、ありがたいことです。育つ早さをトンネルによって調整できるので。
——デメリットはありますか?
佐藤:とにかく手間が掛かることですね。トンネルを出してきて、飛ばないように押さえないといけないし、2~3人でやらなければならないので人手も必要です。
さらに、立ててからも気候や葉っぱの様子を見ながら温度管理や水の管理をしなくてはいけません。トンネルの中が暑くなりすぎて蒸れてしまうこともあるので、片方だけ開けて風を入れるなどする必要もあります。水やりもトンネルを開けてしなければなりません。
——失敗したこともある?
佐藤:支柱という曲がる棒があるのですが、それをかまぼこ型に差すときに高さや差す間隔を均等にしないといけません。横着をして少し広めに支柱を打ったことがあって、すると風が強い日に、全部バーッと飛ばされてしまって(笑)。手を抜いてはいけないと、強く実感しましたね。
——それでも、冬の露地で温度管理するためにはトンネルが必要なんですね。
佐藤:基本的には葉物野菜、あとはニンニクやイタリア野菜にもトンネルを使っていますが、霜にあたると、その後溶けてまた凍ってを繰り返してしまうんですよね。そうなると腐ってしまい、売り物にならなくなって破棄することになってしまいます。そうした事態を防ぐためには、トンネルはやはり必要です。
冬のハウスは細かな気配りが必要「窓を1センチ単位で開け閉めする」
——辻さんは3つのハウスでトマトを栽培されていますが、ハウスの管理は大変ではないですか?
辻:実は、真冬でも太陽が出ている間は、ハウス内の暖房はほとんどたきません。暖房をつけなくても30度くらいになったりするので、日中は全然問題がないのです。「ハウスは自然じゃない」という声を耳にすることもありますが、きちんと太陽の光という自然なものを使ってやっているということは、意外に知らない人が多いかもしれませんね。
——冬の温度管理はどうしていますか?
辻:ハウスには天窓がありますが、そこを1センチ開けるか2センチ開けるかだけでも、ハウス内の気温は変わってきます。夜の間に冷えたトマトが一気に温まると水がついて、そこから割れたり病気になったりしてしまうので、1日の中でハウスの温度はゆっくりと上げていきたい。そうした努力はしていますね。
——すごい技術が求められそう!
辻:うちはハウス内をモニタリングして、その結果をもとにプログラムを組んでやっています。今の設定ではどのような曲線で温度が上がっていくかということが見られるので、そこをコントロールしていますね。
——ハウスの高さや形状によっても違いはありますか?
辻:今、3つのハウスはすべてタイプが違うんですよね。その中で、一つだけ背の高いハウスがあるのですが、温度が急に上がり過ぎないためそれが自分にとっては理想的で、管理もすごく楽ですね。また、日当たりがいいのも大切だと思います。
——寒い時期に、一番注意していることは何ですか?
辻:停電してしまうとアウトなので、雪が降ると危機感は強まりますが、そういう時は、「重油が高いときこそ暖房をたけ」という先輩の教えを思い出して実践しています。
——大雪の時なんかは、さらに大変ですよね。
辻:大雪が降ったときの対応としては、暖房の設定温度をマックスまで上げて、いつ暖房が切れてもいいように24時間つけっぱなしにしたこともありましたね。
温度管理は年々難しくなっている!?
——温度管理によって、農作物の味や品質は変わってくると感じますか?
辻:やはり季節によって、できた作物の味は変わってきます。トマトなら、冬の方が夜の気温が下がるので、凝縮感があるというか、甘く濃い味になります。春になると、若干実も軟らかく、皮も軟らかくなってきて、みずみずしい感じに変わってきます。気候に合わせて、野菜も変化しているように感じますね。
佐藤:根菜も寒ければ寒いほど甘みが増して、色も濃くなります。また、暖かいと実も葉も大きくなるので、それぞれに良さがあると思います。
——温度管理をするうえで、ずばり一番の天敵は?
佐藤:近頃は夏の異常な暑さ、台風など本当に天気が読めないことが多くて。どんなことにも対応できるように、種まきの時期や、気候によって強い品種など、どんどん勉強しないといけないと思っています。いかに作物がとれない時期に出荷するかというのが農家にとっては勝負でもあるので。
辻:先日の台風24号による被害で、内陸の伊勢原市まで塩害の被害があり、びっくりしましたね。あとは、夏が暑すぎて作物を作るのが難しくなっているように思います。
佐藤:確かに、みんなおかしくなってきていますよね。日焼けして売り物にならなくなってしまうこともあって、いかに夏の太陽を防ぐかというのは今後の課題ですよね。いろいろと対策していくために自分が何人も欲しいと思うこともあります(笑)。
辻:暖めるより冷やす方が難しいですから、設備費もかかるんですよね。農家の口癖みたいになってきて、「今年は異常気象だね」と毎年言い訳しているじゃないかと(笑)。これからは言い訳しない農家になろうかなと思っています。
佐藤:それが理想ですよね(笑)。
——冬ならではの温度管理について、試行錯誤されているのですね。また、冬に限らず年間通して気を配る部分があるのだと分かりました!