◆今回お話を聞いたのは…◆
永島太一郎さん 外資系銀行員を経て2012年に就農。横浜市金沢区で500年間以上続く農家。永島さんの代になってからはハウスでしいたけ栽培を始めた。趣味は料理。 |
鈴木優也さん フォルクスワーゲン車のディーラーを経て2011年に就農。横浜市横須賀市にある約1.5ヘクタールの農地で他品種の地元・横須賀野菜を栽培する。趣味はスポーツ全般。 |
畑の回転率を上げるために
——鈴也ファームさんは冬でも畑フル回転だそうですね!
鈴木:今(11月初旬)は、お盆過ぎに種をまいたニンジンやダイコン、カブなどの根野菜を収穫中です。同時進行で、3月くらいから収穫が始まるタマネギや春キャベツの定植もやってます。冬の農家は作物を作っていないと思われるかもしれないけど、うちは全然。今でも畑いっぱいに作ってますよ。
永島:作付けは毎年けっこう変えてる?
鈴木:かなり変えてるね。野球でいうとレギュラーメンバー(売れ筋野菜)はあるけど、そこに新人(新たな野菜)を入れて「使えるな」となると、どれかを出してという感じでローテーションを組んでる。
永島:同じ神奈川県内でも三浦市のほうに行くと、もっと大規模な農地でキャベツや大根を大量に作って市場に卸している農家もある。それも一つのやり方だけど、鈴也ファームは多品種の野菜を直売してるよね。
鈴木:そう。結局持ってる面積は変わらないから、農地を生かして最大限利益を生み出すしかない。だからうちの畑では、回転が早い野菜を年に3回、4回とまわしてる。夏野菜に比べて冬野菜は単価が低いから、数をこなしていかないとならないしね。
今年は台風の塩害があって、うちの畑がある三浦海岸エリアは特に被害が甚大だった。作物が復活しそうかある程度見て、だめそうな部分は全部トラクターでさらって種をまき直した。露地栽培だと温度で種をまける時期が決まってくるから、ローテーションの判断も重要だね。
永島:同じ畑で何回転もさせるのは、輪作や地力を保つ技術がないとできないこと。代々受け継がれてきた技術があってこそ、クオリティーとスピードが両立するんだよね。
鈴木:そこは先代に感謝。僕らはダイレクトに飲食店さんと取り引きをしてるから、クオリティーが落ちるとすぐに反応がある。仲がいい飲食店さんは「今回は味落ちたね」とか「色悪くない?」とか本音で言ってくれるから、こちらのクオリティーもどんどん上がるんだと思う。
収穫時期をずらして生産! 残ったものは加工して売り切る
——永島さんは、4棟のハウスでシイタケとキクラゲを栽培していますね。栽培時期が限られていると思いますが、どのように収益最大化をはかっていますか?
永島:4棟のうち1棟は、今年7月に建てました。そこで8~10月の間キクラゲを栽培して、寒くなってきたからキクラゲはもう終わり。これからはシイタケが始まります。シイタケは菌床の発生の時期をずらすことで、ある程度毎日収穫できる。小規模だからこそ、毎日収穫できるように工夫してますね。
鈴木:加工もしてるよね?
永島:野菜と違うのは、基本的に前日と当日の収穫分だけ出荷して、残りは乾物にできること。干しシイタケ、干しキクラゲにして無駄なく売り切る。形が悪いシイタケはパウダーにして、そこから横須賀ビールを作って販売してるよ。
鈴木:永島農園はアクセスがいいから、シイタケ狩りとかバーベキュー体験を開催してるのも特徴的だよね。
永島:そうだね。収穫したものを食べておいしいと感じる体験は絶対に楽しいものになるはずと思ってやってるよ。“楽しい”と“おいしい”の切り口をたくさん作って、食育や農業に興味を持ってもらえるきっかけになったらなと。
だから、これ以上ハウスの規模を大きくするっていうよりも、クオリティーを上げつつ外に向けての働きかけをやっていきたいと思ってる。
鈴木:キクラゲはどう?
永島:キクラゲは、国産の比率が4%しかないから、以外とスーパーにも売っていないんだよね。生のキクラゲを食べたことがないって人は多いと思う。生だとさっと湯通しして、サラダや刺し身で食べるのがおすすめ。干しキクラゲはおでんに入れると、だしを含んでぷるぷるになっておいしい。そんなふうに食べ方も含めて広めていきたいね。
「作る」以外の取り組み
——「作る」以外で農業を盛り上げることにも積極的だと聞きました。現在進行中のプロジェクトについて教えてください。
鈴木:横須賀商工会議所が立ち上げた「産農人育成プロジェクト」の一環で、週1回農業を志す高校生2人を受け入れています。作物を生産するだけでなく、流通させる“マーケットセンス”を持った人材を育てることが目標なんです。具体的には野菜作りはもちろんのこと、僕らと一緒に農業法人をやっている飲食店の社長さんの加工場でドレッシングができるまでを学んでもらったり、野菜ソムリエや料理研究家、経営者の方々と話せる場を設けたりしています。
永島:学生さんにとっても、ただ作って収穫してという研修じゃないから勉強になるよね。新規就農にいいイメージばかり持って、実際に仕事についたら「違った」と言って辞めてしまう人も多いから、実践型の研修ははいいと思う。
鈴木:例えば種まきをとっても、学生にはあえて手で種をまいてもらって、その隣で僕が機械を使う。労働時間やクオリティの差を実感してもらいながら、機械の費用の話をするんだ。そうすると、「設備投資」とは何なのか、何を基準に機械を買うかが身をもって理解できるようになる。
永島:将来、就農した時にも役立つね。
——生産者向けに行っていることはありますか?
鈴木:先日、神七主催で神奈川全域から100人以上、農業に携わる方々に集まっていただきました。一人で新しいことにチャレンジするのは難しいですが、チームで集まればもっとおもしろいことができるのではないかと思います。
永島:自然と仲間が集まってきている気がしますね。農家と他業種の方々が協力して新しい可能性を作って、もっと農業を盛り上げていきたいです。やりたいことはいっぱいあるので、今後もいろんな人を巻き込んで動いていきたいと思います。