注目すべき近年の気象傾向
豪雨に酷暑……全国的に厳しい気象に悩まされた近年
振り返ると、2018年は全国的に厳しい気象に悩まされた年でした。
「平成30年7月豪雨」では、西日本から東海地方で激しい大雨。その後は、記録的な高温も続き、7月23日には埼玉県熊谷市で観測史上最高の41.1度を記録しました。
最高気温の更新は、2013年8月に高知県四万十市で当時41.0度を記録してから5年しか経っておらず、また豪雨に至っては前年2017年に「平成29年7月九州北部豪雨」が発生しています。
甚大な農業被害
厳しい気象があれば、農業への被害も少なくありません。
一例として、「平成30年7月豪雨」等による、農作物、農地・農業用施設関係、林野関係の被害額を、農林水産省は合計約3286億円と発表しています(「農林水産関係被害の概要」、農林水産省、2019年1月9日)。
「過去に例の少ない気象現象が多い」
近年の傾向について、「過去に例の少ない気象が多い」と話すのは、ウェザーニューズの木ノ内浩二(きのうち・こうじ)さん。世界規模の民間気象会社である同社に入社して約25年、そのほとんどの期間で農業気象を担当してきました。
「極端な気象も増えています。いわゆる気候の温暖化なども合わさって、最高気温が更新されていると考えられます」
続けて、木ノ内さんは話します。
「一方で近年の酷暑や台風、豪雨などは、発生確率で言うならば100年や50年に1回のレベルでもあり、まったく考えられない範囲とは言えません。しかし、各種のインフラは、それより低い想定で設計されていたこともあり被害が出てしまいました」
めったに起こらない気象とは言え、考え得るレベルであるならば、対策のとりようもあるかもしれません。
農家が注意するべき気象と対策例
熱中症には温度だけでなく湿度も関係
では、どのような気象に気をつければ良いでしょうか。
まず、夏場に特に気をつけたいのが、熱中症です。
「熱中症=気温と思われる方が多いですが、同じくらい湿度が影響します。気温25度だとしても湿度が極端に高いと熱中症の危険性があります。湿度が高いと、汗が蒸発しないため体温が下がらず、熱が体内にこもるからです。ですから、気温が低くても安心しないようにしてください」と木ノ内さんは注意します。
雷雨や突風の前触れ、「乳房雲」には要注意
また、普段から雲の色や形にも気を払うようにしていると、天気の変化にも気づきやすくなるそうです。
特に、こぶ状の雲が垂れている「乳房雲」を見かけたら、要注意。激しい雷雨やひょう、突風の恐れがあるサインになります。
台風は右側ほど風が強い
夏場は、台風も無視できません。台風は、日本へ反時計回りに回転しながらやってきます。そのため、巻き込む風と移動させる風が同じ方向に吹く、進路の右側ほど風が強くなります。
木ノ内さんはワンポイントとして「台風は避けようがなく、あまりに強い台風だと施設の補強などだけでは十分でないことも。農業保険に入ることも対策です」と付け加えました。
施設栽培で特に注意したい雷
さらに夏場は、雷も増えます。
「雷は直撃しなくても誘導雷(雷が落ちた周囲の電線などに大きな電圧・電流が発生すること)による被害もあり得ます。特に施設栽培の分電盤などに影響が出ることもあるため、近くに落ちたことが分かれば、分電盤を切って誘導雷を拾わないようにすることも一つの対策です」(木ノ内さん)
ベテラン農家は知っている!? 気象予測術
天気予報では「晴れ」でも実際は「雨」が降って、作業の際に困ったという経験はないでしょうか。
天気予報と実際の天気が異なる一つの要因は、天気予報の対象地域を区切る各範囲の広さ。気象庁の場合、全国約1300カ所に設置された地域気象観測システム「アメダス(AMeDAS)」などを基に、約20キロ間隔で予報を出します。すると、約20キロ四方がひとくくりにされ、局地的な天気の変化に対応しきれません。
「当社は、全国約1万3000カ所に観測地点を設けています。また、一般の方から1日に約18万件の情報を寄せていただき、現地情報を精細に把握しています。これらによって、予測精度を高めると同時に、“1kmメッシュ”と狭い範囲ごとの予測を出すことができています。スマートフォンアプリ『ウェザーニュースタッチ』の予報的中率は90%で、業界初の『5分天気予報』もあり、農業者にも利用していただいていますね」
ウェザーニュースタッチでは、ゲリラ豪雨のアラート(警報)を59分前に受信できたり、自分専用のアラート設定ができる「マイソリューション」機能があることもメリットになっています。
農業者におすすめの天気予報の見方
「そうしたアプリを利用するのもおすすめですし、私は農業者にはいつも『天気図を見る習慣を持つと良い』と話しています。なぜなら、テレビの週間予報だけでは表れにくい、天気の傾向が分かるようになるため。テレビではたいてい天気予報と天気図を見せて放送していますから、見比べることで、前線と雨や気温の関係などが分かります」
木ノ内さんいわく、これは新規就農者でも、数年ですぐに身につけられるスキルとも。身につけておきたい習慣と言えるでしょう。
天気予報以外で天気を予測する方法
さらに、木ノ内さんがおすすめするのが、天気予報以外から天気を予測する方法です。
「気象庁の『異常天候早期警戒情報』を見たり、マニアックなものでは『高層天気図』を見て、寒気の位置や、ジェット気流の流れを読み、ご自身で農作業に生かす方もいらっしゃいますね」
また、大事なのは、自分がいる土地の特性を知ること。特性を知れば、それに沿った判断ができます。
「例えば、大きな川に近い地域だと、川から発生する水蒸気によって、にわか雨や雷雨などが起きやすくなります」
特性を知るためには、地元の先人の知恵を借りることも有効だそう。「○○山が雲で隠れたら翌日は雨」など、地元の言い伝えを知っておくことも知恵の一つです。
ウェザーニューズが予測した2019年の天候
北日本 | 東日本 | 西日本 | 南西諸島 | |
---|---|---|---|---|
5月 | 平年並 | 平年並 | 平年並 | 平年並 |
6月 | 平年よりやや低い | 平年よりやや低い | 平年よりやや低い | 平年並 |
7月 | 平年よりやや低い | 平年並 | 平年並 | 平年並 |
ウェザーニューズによる日本の気温「長期見解」(2019年7月まで)
ウェザーニューズでは、3カ月先の「長期見解」も発表しています。ちなみに2019年7月までの気温は上記のとおりです(2019年4月18日現在)。
自然が相手のため、何が起こるかは分からない空模様ですが、予測をすることでとれる対策もあるでしょう。
木ノ内さんは、最後に次のように話しました。
「天気予報は一つだけでなく、いろいろなものがあること自体を知っていただくと、リスクの幅を大きくとれます。強い台風など対策のとりようがないものもありますが、日々の雷やちょっとした雨は対策がとれます。とれる対策は何かを認識して、しっかり対策をとっていただくと良いのではないでしょうか」
天気予報は農業の大きな道しるべ。自分なりの工夫を凝らしてみてはいかがでしょうか。
写真画像提供:ウェザーニューズ
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