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秘境の村をお菓子でPR 蕎麦の実フロランタン開発秘話

秘境の村をお菓子でPR 蕎麦の実フロランタン開発秘話

秘境と呼ばれ、平家の落人伝説もある宮崎県椎葉村(しいばそん)。人口約2600人(2019年6月1日現在)の山間の村です。名物はそば。古くから地元の人々に愛されてきました。このそばを使って椎葉村を盛り上げるお菓子があります。その名も「蕎麦の実フロランタン」。地元のそば粉やそばの実をメインの食材として、その他の素材も宮崎県産にこだわって作っています。このお菓子への思いを、開発者の椎葉昌史(しいば・まさふみ)さんにお聞きしました。

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伝説の秘境にUターンしてそば屋に

自然が美しい椎葉村の風景

椎葉村は四方を山に囲まれ、美しい棚田が絶景とも言われる山間の村。壇ノ浦の戦いで敗れた平家の落人がこの地に住み着いたとの伝説があり、村内には多くの史跡があります。
また伝統的にそばをよく食べる文化のある椎葉村では、そばの栽培が盛んであるものの、ほぼ村内で消費されてしまうため、椎葉村産のそばは村外の人にとっては非常に希少価値の高いものになっています。

椎葉昌史さん

この地に生まれ育った椎葉昌史さんは、大学進学以降30歳まで椎葉村を離れていましたが、2012年にUターン。2010年に母と叔母が地元で「よこい処しいばや」というそば屋を開店したことがきっかけでした。
「戻る直前まで、東京の大手飲食チェーンで店長をしていました。もともと飲食業が大好きで、大学時代のバイトも飲食。このスキルを地元で生かしたいと思って戻りました」と言う椎葉さんは、今ではよこい処しいばやの店主です。

椎葉村のそばを使う

草刈りをする椎葉さん

希少な椎葉村産のそば粉を使うことにこだわっている椎葉さん。しかしある日、いつものように店で使うそば粉を仕入れに行くと品切れ。「役場に問い合わせたら椎葉村での生産量がピークの半分以下になっていると聞いて、ショックを受けました。このままでは椎葉村産のそばがなくなってしまう、という危機感から、自分でそばを育てることにしました」
しかし、椎葉さんは農業未経験。「草刈りすらしたことがなかった」というレベルだったにもかかわらず、2015年、友人たちの力を借りながらそば栽培を始めます。

椎葉村に古くから伝わる農法にこだわる

畑で木や草を焼き、その灰をそば栽培に活用

椎葉村は、古くは縄文時代にもさかのぼると言われる焼畑農法が残る数少ない地の一つとして世界農業遺産にも認定されています。
椎葉さんの畑では木や草を刈って敷き詰め、しばらく乾燥させたのち火をつけて草を燃やします。椎葉さんはこの燃えた後の灰を肥料としてそばを栽培しています。
「この農法のおかげで、化学肥料や農薬を使わずに済みます。それに、そばはもともと雑草より強い作物で種まきから2~3カ月で収穫できるので、あまり手がかからないんです」と椎葉さん。店で使う全量を賄うことはできないものの、安定的に収量をあげています。

椎葉村に来られない人にも椎葉村を知ってほしい


「蕎麦の実フロランタン」を開発するきっかけは、椎葉昌史さんの妻・美夏(みか)さんの手作りのフロランタンでした。結婚前からこのフロランタンが大好物だった椎葉さんは「これを地元椎葉村のそば粉を使って作れないか」と思いたち、自ら作り始めました。

コンセプトとしてイメージしたのは、女性たちが仕事中にお土産のお菓子を配りあってコミュニケーションをとる姿。「生のそばだと椎葉村に来ないと食べてもらえませんが、お菓子だったら日持ちするのでお土産として持って行ってもらえる。お菓子をきっかけに椎葉村を知ってもらえると思ったんです」

とはいえ、菓子作りの修業をしたことのない椎葉さんのフロランタン開発は試行錯誤の連続。試作品をいろんな人に食べてもらい、食感を良くするために蕎麦の実をトッピングすることや風味を増すためにゴマを入れることなど、改良を重ねていきました。

とことんこだわった素材

「椎葉村を知るきっかけになるお菓子」というコンセプトから生まれた蕎麦の実フロランタン。それならばと、そば以外の素材も地元産にこだわりました。
「そば粉とそばの実は自分で栽培する分だけでは賄えないので、椎葉村産を含め宮崎県産のものを使用しています。小麦粉・卵・発酵バター・生クリームも宮崎県産です。ゴマも宮崎県内の三股町のブランドもの。砂糖はそのおいしさにほれ込んで沖縄県の波照間島の黒糖を使っています。アーモンドだけ、どうしてもアメリカ産になっちゃいましたが……」と、椎葉さんは素材そのものの良さを生かしてフロランタンづくりをしています。

そばを食べる文化を伝えたい

製造は手作り。人手は家族とパート従業員だけで、年間3万個を出荷しています。
その甲斐あって、2019年の第8回チームシェフコンクールでは最高賞の審査員特別賞など6つの賞を受賞しました。

また、宮崎県児湯郡新富町にある一般社団法人こゆ財団と共同で「宮崎そばフロランタン」という姉妹ブランドの商品も開発するなど、宮崎県内での存在感を増しています。

延岡市でのワークショップの様子

椎葉さん自身も、椎葉村から車で約2時間の延岡市でそば料理のワークショップなどを行い、椎葉村のそば文化を発信しています。
「店でお客さんに出しているのは普通の温かいそばですが、もともとはそばがきに似たそばの伝統料理など、ほかにも地元のそば料理がいろいろあるんです。毎回参加してくれるリピーターの方も多くて、喜んでいただいています」

これからの椎葉村と蕎麦の実フロランタン

椎葉さんは、さらに蕎麦の実フロランタンの生産を拡大し、より多くの人に椎葉村をアピールしたいと言います。
「地域に仕事があれば、一度村を離れても帰ってこられる。そしてそばの需要があればそばを作る文化も守れるじゃないですか。そばを椎葉村の持続可能な産業にしたいんです」

しかし、フロランタンは製造過程で割れやすい特性があるため、機械での増産はとても難しいとのことですが、それもすでに織り込み済みのようです。
「機械で大量生産する大企業は参入しにくいので、逆にうちのような小さな経営体でもビジネスとして持続可能だと思っています。村の人を雇用して、村産のそばを使って、椎葉村の良さを蕎麦の実フロランタンで伝えていきたいです」

画像提供:椎葉昌史さん

蕎麦の実フロランタン

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