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「物が届く」当たり前のその裏にある、静かな熱意

「物が届く」当たり前のその裏にある、静かな熱意

いま手元にある飲み物も、今夜、食卓にあがる野菜たちも。私たちが日常使うものは、誰かが運んでくれたものだ。当たり前すぎて普段意識することはないが、物流は運び手の熱意によって支えられている。ひとたび物流が止まれば物はどこかに滞留し、たちまち生活は混乱する。365日休みなく走り続ける、その原動力を追った。

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広い県土と、冬の雪…過酷なエリアで物流を担う使命

岩手県の内陸にある胆沢郡金ケ崎町に本社を構える『本宮運輸』は、県内を中心に東北の大型配送センターや地元スーパーに生鮮食品を配送している。岩手県の県土は、四国4県分の広さに匹敵するとも言われ、北海道を除くと面積は日本一。当然、県内に物資を届けるためには走行距離が長く時間もかかり、冬の凍結にも気が抜けない。そんな過酷な条件でも「岩手の物流を止めないことが、自分たちにできる社会貢献」と語る社長の菅谷さん(上部写真左)と、ドライバーの藤原さんにお話しをお伺いしました。

お話をお伺いしたドライバーの藤原さん。この日はこの後、仙台に向けて出発した

一人一台、責任をもって届ける

担当する出発便にもよるが、朝は私たちがまだ寝ている早朝3時に始まる。伝票のチェックを行い、その日の配送先と配送物の確認を自ら行う。配送センターに移り荷造りを行い、トラックへ積み込むまで全工程をドライバー自身が行う。4tトラックに積み込む荷物は数にして大体300~400個。配送ミスに繋がらないように積み込む際は、商品名・品番・賞味期限のすべてをチェックしてトラックに載せる。「面倒だけど、決められたフローを間違いなくやる。これだけです」と藤原さん。朝6時頃に荷造りを終え目的地へ出発。配送・集荷を終えて戻ってくるのは、大体13時前後くらい。藤原さんが語る言葉に、特別なことはあまりない。しかし、「当たり前のことを当たり前にやり続ける」これがいかに難しいか私たちは知っている。そこがブレない真っすぐさが配送のプロたる所以なのだろう。

野菜など軟らかいものは、ちょっとした荷崩れで品質が落ちてしまう。荷物固定も気を抜けない

自由そうなところに憧れて

藤原さんは、ドライバーになる前は車関係の工場に勤務していた。部下を持ちチームワークが必要な環境で勤務をしていたとき、立ち寄ったコンビニで見かけたトラック運転手に「自分のペースで仕事をできて、自由そうだな」と思ったことがきっかけで、配送の経験は全くなかったものの「初心者歓迎の求人をみて(笑) 思い切ってチャレンジした」という。それから6年、念願のドライバーになった感想は?「配送中は一人でいる時間を確保できる。でも事務所に戻ると仲間がいる。このバランス感がとてもいい」と笑顔。一人の時間には何をしているのでしょうか。「ほとんど仕事のことを考えていますね。その月にあったミス、品質改善、さらに休みのシフトづくりまでトラックの中で決めています」。一人で集中できるので考えもまとまりやすいのだとか。

1回の事故で世界が変わってしまうから

現在、同じチームで働くのは9人。藤原さんは管理職としてメンバーをまとめる立場だ。指導をするときに特に気を配っていることは、どんなことだろうか。「同じ失敗を何度もしない、ということ。一度注意したことを何度も指摘されることは、信頼を失うことになります」。事故に対する意識の醸成はとても大切。「この仕事は、一回の事故で世界が変わってしまいます」。だからこそ、一度起きたミスは全員で共有して、もし自分が当事者だったらどうしたら防げたかを全員が能動的に考えるようにしている。事故事例や危険予測の観点から安全を学ぶ安全講習も月1回開催している。さらに、本宮運輸が所有する全車両に『デジタルタコレーダー(通称:デジタコ)』と呼ばれる運行記録計が装備されており、経由地と時間、速度や急ブレーキの発生頻度などが記録されている。帰社後、真っ先にメンバー分のデジタコデータをチェックし、事故の芽があれば速やかに是正している。与えられたルートを安全に走行し出発地に戻ってくることを明日も変わらず続けるために「当たり前のことを当たり前にやる」というルールは揺るがない。

デジタコで安全の指標を数値化。合計得点で運転の安全度がわかるしくみ。乗務前のアルコールチェックも徹底している

地域に対しての使命感

「物を届けることで、この街の暮らしを陰から支える」という気持ちは、本宮運輸の従業員の思い。どんなに美味しい農作物も消費者に届かない限りは農家の収入にはつながらない。地元の作物を新鮮かつ品質の良い状態で運ぶことに本宮運輸は何よりもこだわってきた。生鮮食品が多いため、安全とともに「その日に届ける」というスピード感も欠かせない。急な依頼でもしっかり目的地に届けるために、ドライバーの調整を行うのが4人の事務スタッフ。運輸会社にしては多い方、という事務スタッフのお陰で事務所はいつも笑い声が絶えない。「いってらっしゃい」「おかえりなさい」明るい声が響くこの場所から、目的地で待っていてくれるお客様、そして消費者のために今日もハンドルを握ります。

いつも賑やかな4人。人文字で本宮運輸の「MOTO」を表現してくれました

若手ドライバーに対しての責任

本宮運輸ではドローンを活用した事業で、県の経営革新計画を申請し2019年に承認を受けた。なぜ、配送企業でドローン? と思われる方も多いだろう。社長の菅谷さんに聞いてみました。「配送業は、慢性的な人員不足に陥っています。運ぶ物はあるのに成り手がいない」。トラックの運転に必要な免許は、準中型・中型・大型の3種類あり、種類により運転できるトラックの大きさが変わります。若手のドライバーで免許を持っていない場合はどうしても収入に差がついてしまう。ドライバーをしっかりと稼げる職業にしないと、人員の確保はさらに厳しくなると考えていました。そんなときに狙いをつけたのがドローンです。ドローンの操縦資格を従業員に取得させることでなにか新たなサービスを展開できないか、その答えがドローンを使った農薬散布でした」。地元の農家の中には機械化がまだ進んでいないエリアも残っており、農薬散布は従来通り手作業で行っている農家も多い。高齢農家向けの農薬散布を、ドライバーが請負って売り上げをドライバーに還元するという新しい仕組みを作り上げ、金ケ崎町商工会の協力も得て経営革新計画としてまとめました。「これからも、物は動き続ける。お客さんに、安定的に物が届く物流網を維持するためには、いままでと同じことを続けているだけではいけないと思っています」。これから先も、物を運び続けるため新しい挑戦は続いていく。


株式会社本宮運輸

岩手県胆沢郡金ケ崎町六原下二の町210
電話:0197-47-3388
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