なぜ東京都が堆肥づくり?
公益財団法人東京都農林水産振興財団(以下、財団)の青梅庁舎の一角にある「東京都有機農業堆肥センター」。1994年に東京都が環境保全型農業を推進しようと、土づくりに不可欠な堆肥を作るためのモデルプラントとして、東京都青梅市に設置された。堆肥の生産だけでなく、堆肥生産技術の普及や都民への環境保全型農業についての情報提供などの役割もある。現在、都が関連する堆肥センターはここだけだ。
ここでは年間400トンの「とうきょう元気堆肥」を生産。近隣の有機農家や家庭菜園愛好家を中心に販売されており、リピーターも多い人気の堆肥だ。
堆肥の製造工程
原料は牛ふん・豚ぷん・鶏ふん
まず、家畜のふんが運ばれてくる。堆肥の原料となるのは、隣にある青梅畜産センターで飼育されているブランド豚の「トウキョウX」やブランド鶏の「東京しゃも」「東京うこっけい」のふん、そして農林総合研究センターの試験研究用の牛や近隣の酪農家2軒の乳牛のふんだ。一日のふんの処理量は2700キログラムにもなり、その重さの割合は牛ふん80%、豚ぷん15%、鶏ふん5%とのこと。
臭いの防止と水分調整のために副資材を混ぜる
ふんをそのまま置いておくと悪臭が発生するため、すぐに副資材を混ぜて臭いを防止する。水分が多すぎると発酵が進まないため、水分調整の役割もある。
副資材として主に使われるのは、街路樹の剪定の際に切られた枝を粉砕した「剪定枝チップ」。近隣の市から持ち込まれるため無料だ。剪定枝チップを使う理由として「水分を良く吸うので水分調整しやすい点と、発酵に良い微生物がいる点」だと川手さんは言う。
ふだんはこれだけで足りるが、今年は足りず、製材所で出るおがくずやかんなくずを購入して使っているそうだ。
自走式撹拌機で定期的に混ぜながら一次発酵
一次発酵で欠かせないのは、イタリア製の自走式撹拌機「コンポターン」。センター長の川手さんによると、これを購入してからかなり堆肥の撹拌の手間が軽減されたという。ゆっくりと走りながら、ふんと副資材を撹拌することで空気を行き渡らせて微生物の働きを促進し、約20日間発酵させる。
「大事なのは、毎日堆肥の温度と水分を計って調整すること」と言う川手さん。「堆肥を作る微生物のご機嫌をとる」ためだそうだ。夏場は水分が低くなり過ぎないように、冬は外気温で寒くなりすぎないように施設の入り口のカーテンを閉めるなどの対応をして、水分量70%、発酵温度70℃以上に保たれるようにする。高温を保つことで雑草の種子や害虫の卵などを死滅させるという目的もある。
一方で、この段階ではアンモニアが発生しやすい。カーテンを閉めて作業すると職員の健康に影響があるため、天井に換気扇をつけ、そこから外に臭気を逃がすことで対応している。
二次発酵は「横型ロータリー式撹拌機」で
二次発酵にはさらに20日間かかる。この「横型ロータリー式撹拌機」の施設の床には空気を出すための管が入っており、堆肥に空気を含ませながら撹拌できるようになっている。この段階での温度は60℃ほどで調整され、発酵が進む。
ふるいにかけてサラサラに
さらに数回ふるいにかけて、残った枝の繊維などを取り除くと堆肥の完成だ。ふんの臭いなどの悪臭はなく、さらさらとしている。これをさらに20日間追熟させて、完熟堆肥が完成する。水分は50%前後に調整し、農家にとって使いやすい堆肥になっている。
堆肥の品質は?
使用するふんの種類に変動がないため堆肥の成分が大きく変わることはないが、販売する堆肥に関しては公設機関で成分分析を実施し、肥料取締法に基づいて表示をしている。
また、放射性セシウムおよび残留農薬の検査を定期的に行い堆肥の安全性を確認している。
年々需要が増える「とうきょう元気堆肥」
「とうきょう元気堆肥」の価格は100キログラムあたり700円。原則はバラ積み(軽トラック等にバケットで直接堆肥を積込む方法)で袋詰めしての販売はしていないが、袋を持参した方には袋詰めも対応している。財団のホームページで堆肥の販売情報を掲載しているが、口コミにより希望者が増加しており、全員に行き渡らせるために販売量を調整することもあるという。
都の施設で作られた堆肥であるため、購入できるのは都民だけ。100キロ単位で、1軒あたり4トンまで買うことができる。
年々需要が増え生産が追い付かない状態だが、原料が足りないなどの事情もあり、大幅な増産の予定はない。今後は、東京都エコ農産物認証を受けた生産者に購入の優先枠を設けることなども検討しているという。
堆肥生産の技術の普及も目的
もともと「堆肥を生産する技術を農家に普及させる」という目的もある東京都有機農業堆肥センター。堆肥を売ることには「微生物を持って帰ってもらう」ということにも意味があるそうだ。
「どうも堆肥づくりがうまくいかないという方が、自分の堆肥に『とうきょう元気堆肥』を混ぜることで、良い微生物が入り、堆肥がうまくできるようになることもある」と川手さんは語る。具体的な指導は農業普及センターの指導員などが行うが、施設の見学を受け入れ、堆肥づくりのアドバイスも行っている。