ブランド豚「鹿児島XX」「鹿児島OX」に掛ける、一人一人の情熱と愛情
飼料にこだわり、豚へのストレスは最低限に
昭和43年創業。鹿児島県薩摩郡さつま町で養豚業を営む旭ファームが自信を持って出荷しているのが、ブランド豚「鹿児島XX」「鹿児島OX」です。母豚数1800頭、5カ所に農場を持ち、年間4万7000頭を出荷している県内でも指折りの養豚場です。お話をうかがったのは3代目社長の大迫尚至さん。大学では経済学を専攻、27歳からこの業界に入り、その後カナダへ1年間留学。語学の勉強の傍ら、養豚場の視察を重ねた経験もあるなど「何でもやってみよう」というチャレンジ精神の持ち主です。
旭ファームの豚たちは、さまざまなこだわりを持って育てられています。まず1つ目は飼料。「食べた物で肉質・味が決まる」と、飼料にマイロを使用しています。「コストも高く、出荷日齢は一般的な飼料よりも長くなりますが、旨味が増し、あっさりとした脂身になるんです」と大迫社長。さらに「ストレスは味に直結するため、最後の最後までできるだけストレスを抑えてやさしく世話をします。どれだけ愛情込めて育てても、最後に与えたストレスで”老け肉”と呼ばれる質の悪い肉になる可能性があるほど、豚はデリケートなんですよ」
豚と環境にやさしく、持続可能な経営を
農場が5カ所に分かれているのも、豚のヘルスコントロールをしやすいメリットがあります。5つの農場をスリーサイト方式によって、繁殖農場、離乳子豚農場、肥育農場に分けています。これによって病気が発生してしまった場合にも、農場全体に広がるのを防ぐことができるのです。日齢によって豚を移動させるために要する労力・時間は必要になりますが、豚を感染症から守る点では優れています。
さらに、先進国型(知的)産業を目指す同社は、環境にやさしい農場づくりも行っています。おが粉を床に敷きつめた農場は、ふん尿処理に対応。発酵させて堆肥となり、近隣の農家が使う肥料になります。周辺地域に還元していく循環システムを考えた経営を行っています。
元気で健康な豚を育みたいという熱い思い
繊細な豚だからこそ抱える、養豚業界の課題
1日200~300頭の子豚が産まれ、年間4万7000頭を出荷する旭ファームで、豚の健康管理は大きな問題です。「豚は病気にかかりやすく、言葉が話せないために体調不良を私たちも見逃してしまうことがあります。結果、症状が進行してしまうことも…。元気で健康な豚を育てること、それが私たちの願いです」と大迫社長は思いを込めて話します。
そのために行っているのが毎日の豚の観察。スタッフの目で1頭1頭を観察し、体調不良の豚を発見して必要な処置を施します。とは言え、大群管理だからこそ見逃してしまうこともあります。こだわりと情熱、そして愛情をかけて育てているからこそ、さらなる改善への思いを強くしているのです。
状況改善のために獣医師から提案されたIPC
そんな時に舞い込んできたのがIPC(Individual Pig Care=豚の個体診療)プログラムです。「養豚管理獣医師を務めてくださっている石関先生からお話をうかがって…。やれることはやってみよう! というのが導入のきっかけでした」と大迫社長。さすがチャレンジ精神の持ち主です。
推薦した石関先生はIPCプログラムの理解を深めるためスペインを訪問し、基本と現場での応用方法を学んだ経験があります。「豚も人と同じです。気温の変化や感染症が原因で体調を崩してしまいます。元気に回復させてあげるためのポイントは病気の早期発見・早期治療。旭ファームは広いスペースに多くの豚が走り回る大群管理という飼育方法を取り入れているため、1頭1頭の観察は容易ではありません。そのため、IPCプログラムに取り組むことをきっかけに観察と個体ケアの時間をあらためて意識してもらい、観察の目合わせをする機会にしてもらえたらと考えました」
観察ポイントを共通化し、体調不良豚を早期に発見
目の前の”大変さ”よりも、結果のために取り組む
「毎日の豚の観察というのは養豚場にとって当たり前の仕事だからこそ、系統立ててスタッフに分かりやすく説明して、IPCプログラムとして日常作業に無理なく組み込める」という石関先生の思いが通じ、2019年3月からIPCプログラムを導入した旭ファーム。スタッフ全員で農場のルールを設定し、観察ポイントを共有。症状ごとに4段階に分けます。重要なのは病気にかかって24~36時間の豚(A豚と分類)を見極めること。A豚であれば治療成功率80~100%ですが、何もしないと24~48時間程度でB豚となり、治療成功率は50%に下がってしまいます。座学で学んだ後は、現場で豚を見ながら目合わせをしていくのです。実施計画の設定により目標を決めたことも、目的意識の統一に役立ったようです。
IPCを導入している第2農場で8500頭前後を管理する育成担当の萩原さんは「従来に比べてもっと丁寧に観察するようになりました。大変な作業ではありますが、少しでも状況が良くなればと思い、導入に賛成しました」とその効果を口にしています。
基準を統一することで観察レベルがアップ
旭ファームのスタッフは経験が長く、一人一人の観察は高いレベルでできていましたが、観察の目合わせをする機会になりました。IPCプログラムを導入して約8カ月、「当初は長い時間をかけて8500頭を観察していましたが、次第に慣れてきて現在は短時間で観察できます。治療する豚の中でも、早く回復する豚が増えたというのを体感しています。観察ポイントの統一がA豚の早期発見と早い回復につながったのはひとつの成果だと考えています」と萩原さん。大迫社長もIPCプログラムの導入には一定の評価をしているようです。
A豚の特徴。各部位を観察していち早くこの状態で治療を開始することが大切です
IPCプログラム+新たな治療プログラムでさらなる相乗効果も
IPCプログラムの導入メリットについて、石関先生はこう補足します。
「病気を発見したら次は治療が必要になります。これまでは1日1回、3日間連続で注射していましたが、その都度、治療中の豚を見つけて注射するのは、人も豚も労力がかかります。そこで提案しているのが1回の治療で済むような治療プログラムです。病状レベルに応じて適切に治療できますし、1回の注射で効果が持続するタイプの薬はIPCプログラムと相性の良い組み合わせです」
「豚の観察はどの農場でも毎日実施していることです。毎日のことだからこそ、少しのレベルアップが大きな変化につながる可能性があります。IPCプログラムと聞くと難しいように聞こえるかもしれませんが、いつもの観察の延長にあるものです。興味を持った時がチャンスです。まずは取り組んでみてください」とは石関先生からのアドバイス。旭ファームのスタッフの皆さんも、IPCプログラムの導入について「他の農場にもお勧めします」と口を揃えます。
<取材協力>
旭ファーム株式会社
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<IPCプログラムについて>
ゾエティス・ジャパン株式会社
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「豚の個体診療(IPC)」はプログラムの呼称です。診療や治療は獣医師の指示に従ってください。