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コロナ時代の農のすすめ~今、種をまくことの意味~

小島 希世子

ライター:

コロナ時代の農のすすめ~今、種をまくことの意味~

新型コロナウイルスの影響で、長期にわたる休校など生活面で不自由な思いを抱いている人は多いのではないでしょうか。そんな中、神奈川県藤沢市で私が運営する体験農園「コトモファーム」では、平日には以前より親子連れが来るようになりました。皆さんが畑に求めることを探りながら、こんな時代だからこその「農の大切さ」をお伝えします。

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私は、神奈川県藤沢市で野菜農家をやっています。普段は人間と接するよりも、虫や鳥など人間以外の生命体と接するような生活。「産業的」な農業というよりは、自給自足の延長のようなスタイルで年間30種類ほどの野菜を作っています。
また、畑の半分の約150区画を地域の人々が家庭菜園を楽しむための体験農園「コトモファーム」として運営しています。休校が始まった3月以降、ここで平日には以前より子どもたちの姿を見かけるようになりました。

コロナ禍による自粛の日々。畑での解決方法は

新型コロナウイルスの感染が著しい地域では自粛要請が続き、出かけづらい状況が続いているようです。
現在の自粛要請が解除されたとしても、今後人間が密集して住む生活スタイルなどが続く限り、同じような事態が再度訪れないとも限りません。収束が見えない中、この状況が長く続くことへの不安を解決するための方法が求められていると感じます。
小さいお子さんを持つ親御さんから、次のような声を聞くことがあります。
「スーパーにお買い物にいく際、子どもを連れていくと、周りの目も厳しい。かといって、小さな子どもだけで家に置いておくのは、あまりにも危険すぎる。悩ましい……」
「ずっと家の中にいると、子どものエネルギーの発散場所がなく、家の中で騒いで、もう、めちゃくちゃ……。かといって連れていける場所がない。イライラがつのって爆発寸前」
「子どものこともそうだけど、それ以外のことも、とにかくいろいろ考え込んでしまって不安になってしまう」

こんな悩み事を解決する方法の一つとして、私は農家の立場から、次のことを提案します。
「畑で自分の手で自分の食べるものを作ること」

こんな時代だからこそ、子どもにも自給自足力を身につけさせることは、生きる力につながるかもしれません

子連れで行ける畑通いでスーパー通いの回数を減らす

自分で自分の家族の食料の一部を自分で作ると、スーパーにいく回数は、ゼロにならないにしても、確実に減ります。
玉ねぎやにんにくなど、育てるのに半年以上の月日が必要な野菜もありますが、二十日大根やベビーリーフであれば、暖かくなるこれからの季節であれば、種まきから収穫まで1カ月もかかりません。

また、畑であれば、スーパーのように人が大勢いる状況を避けることができ、むしろ、「自分と子ども以外、誰にも会わない」可能性も高いので、子どもを連れてきても厳しい目で見られるということはあまりないのではないかと思います。

当園「コトモファーム」を例に挙げると、1区画の広さが7坪(22平方メートル)相当ありますので、農作業中もソーシャルディスタンスは保てますし、農作業は一度始めると夢中になりがちなので、想像以上に面と向かって人と話すことが少ないように思われます。私自身、農繁期は、農作業に没頭し、誰とも一言も話さない日もあります。

「食料調達をする活動」自体は、不要不急ではなく、生きていくために必要な活動に含まれると感じますので、おそらく自粛の対象にはならないのでは、と考えます。

7坪で充分作れる野菜の種類

家で自粛しなければいけないのは、「3密(密閉、密集、密接)を避ける」「接触8割減」というところからきているかと思うのですが、家の中よりこれらの環境を整えられるのが、「畑」のような気がします。
畑は屋外なので、換気がよい開放空間であり、家の中より単位面積あたりの人数が少なく(めちゃくちゃ広い豪邸に住まれている方は畑より単位面積あたりの人数が少ないかもしれませんが一般的には)、農作業中に間近で会話や発声をすることはあまりありません。

また、「農作業」は、適度に体を動かしますので、子どもに野菜作りを手伝ってもらえば、体力づくりやストレス発散になります。

3密にはなりにくい「畑」という空間

野菜づくりが不安を遠ざける?

先が見えないというのは本当に不安です。
少し私の活動についてお話しさせてください。
私は、農家の立場から、働きたいけど仕事がない方と人手不足の農業界をつなぐ取り組みを10年以上行っています。働きたいけど仕事がない方の中には、ホームレス状態の方や生活保護を受けている方、引きこもっている方などがいらっしゃいます。
新型コロナのリスク以前に、経済的・身体的・精神的なリスクにさらされ、常に先が見えない状態の方もいらっしゃいます。
私がこの活動を始めたきっかけは、「一人でも多くの方が、自分自身のために、食べ物が作れるようになれば、餓死することなく生きていけるんじゃないか」と考えたからです。

活動の一例を挙げると、皆さんと一緒に農作業し、野菜作りを少しずつ覚えていただいたりもするのですが、そうすると、不思議なことに、一部の方から次のような内容の声が聞けるようになるのです。
「野菜づくりを覚えたことで、将来への不安が少し減った気がする」

また、農業という仕事は、不確定要素にあふれた世界です。
毎年先が読めない天候、山などで確保できる食料が足りなくなると畑に食料を取りに来る小動物たち、気まぐれなカラスたち、環境によって増えたり減ったりする野菜が大好きな虫たち……。
先が見えない畑の世界で、自分の手で、自分の食べるものを生み出せたという実体験は、先が見えない人間の世界での不安を少しばかり解消してくれるかもしれません。

「今、種をまくことは、未来の食料の種をまくこと」

人は食べ物を食べなければ生きてはいけません。
植物と違って光合成できないので、残念ながら人は食べなければ餓死します。飢餓状態が続けば、次第に体は弱り、最終的には致死率100%です。

農業は、今日種をまいたら、明日できる、といったものではありません。
収穫まで、数カ月という月日を必要とします。
また植える時期を逃すと、次植えられる時期は一年後……という野菜も少なくありません。

「あなたが数カ月後に食べる食料」を、どこかの農家があなたの代わりに「今」、種をまいているわけです。
「どこかの農家に託していた“生きていくために必要な活動”を自分の手で行う」、言い換えると、「畑で自分の手で自分の食べるものを作ること」は、自分の命を支えることだけでなく、自粛によるいろんな悩みを解消してくれる状況をももたらしてくれると、私は考えます。

畑で力強く育つかぼちゃ

近くに畑がなかったり、外出自粛を徹底する場合でも、野菜づくりはプランターでも十分楽しむことができますので、ぜひチャレンジしていただけるとうれしく思います。

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