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フリーランス農家という生き方 農業の本当の魅力とは

千田 一徳

ライター:

フリーランス農家という生き方 農業の本当の魅力とは

日本各地で自称「フリーランス農家」として活動する小葉松真里(こばまつ・まり)さん。この聞きなれない「フリーランス農家」という肩書きが「なんだか自由そうでステキ!」と感じた農家憧れ中の私、ライターちだが取材してみると、小葉松さんのフリーランス農家としての生き方は「農業との新しい関わり方」とその可能性を示唆してくれるとても興味深いものでした。

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フリーランス農家になったワケ

◆小葉松真里さん◆

小葉松真里さん 1990年生まれ。北海道帯広市出身。
学校卒業後、地域に貢献する仕事がしたいと思い、地元新聞社、函館のまちづくり会社で、主に地域のイベント等の企画運営を行う。仕事を通して地域を支え続けてきた一次産業に可能性を感じ、農業の世界へ飛び込み、道内農家で2年間住み込みで働く。自分ならではの農との関わり方ができないかと試行錯誤の末、フリーランス農家という働き方を実践中。

元々北海道の帯広で生まれ育った小葉松さんは、「畑ばかりで何もない」「田舎に行くと堆肥(たいひ)の臭いがする」と元々地元があまり好きではなかったそう。
さらに農業をしている親戚の様子から、農業=あまり稼げない、ダサい、という思いを幼少期からずっと抱いていました。

帯広の風景。広大。

そんな小葉松さんが「フリーランス農家」として道内のみならず日本各地で活躍することになるとは、本人も夢にも思っていなかったそうです。

なぜそこまで小葉松さんが大きく変わったのか、それは「農家さんとの出会い」にありました。

十勝の新聞社で働いていた頃、仕事を通してさまざまな農家さんと交流する機会があったんです。そこで若い農家さんたちが生き生きと自分の農業に対する思いや夢を語っている姿を見て、農業に対する見方が変わっていきました。

小葉松さん

「キュウリは土からニョキッと生えていると思っていた」と話すくらい農業に疎かったと言う小葉松さんですが、熱意あふれる農家さんたちとの触れ合いを通し「人や地域を支えるのは一次産業だ」という思いを強め、ついに仕事をやめて富良野の農場で住み込みで働き始めることにしました。

富良野での様子。メロンなど農産物のPRもしていた。

農場で働いた2年で「自分は自然の一部。だけど、自分は地球を消費して生きてるだけ。還元したい」と思うようになりました。
そこから、有機農業や自然栽培など規模は小さくても環境負荷などを考慮した農業に興味を持ち始めました。

小葉松さん

その後、北海道夕張郡栗山町の地域おこし協力隊としてマルシェの開催や大学生の援農ツアーなどを行い、農業を発信する仕事も経験した小葉松さんは2つの疑問を抱きました。それは「自分は生産のプロになりたいのか」「自分が目指す農業との関わり方は何か」ということでした。

地域おこし協力隊時代、札幌駅周辺で農家さんとマルシェへ出店したときの様子。

2年間の畑仕事と、後の地域おこし協力隊での「農を発信する仕事」という「生産」と「発信」の両方の仕事を通して、生産者としてよりも、その魅力を伝える側の方が自分を生かせるのではと気づきました。

小葉松さん

ちだ

農業=生産というイメージがありますけど、実際はそれだけではないですもんね。

フリーランス農家として活動開始

そうして小葉松さんは2019年、「フリーランス農家」としての活動を開始します。

ちだ

いよいよ聞いちゃうんですが、フリーランス農家って、なんですか?
自分としては「農業と自分の得意な活動、好きな活動を掛け合わせた働き方」というイメージです。

小葉松さん

小葉松さんは「自分の農地」を持ちません。夏は北海道で、北海道が雪で閉ざされ農業ができない時には茨城、沖縄などへ行き、現地の農家さんのところで働いたりイベントを開催するなどしています。

ただ、将来就農を考える人なら、多くの地域にまたがって働くよりも自分が独立を希望する地域で援農をした方がいいのではないでしょうか。
そう思った私に、小葉松さんはこう答えてくれました。

確かに、一つの地域にいないことのデメリットはあるでしょう。しかし、同じ日本でも場所や人が違えば農業のやり方、天候、気温、土質、そして農業に対する考え方など全てが異なります。いろんな農家さんと働くことで自分の視野が広がって、目指したい農業の姿も見えてくると思っています。

小葉松さん

特に、農業経験がない人が就農を目指す時には「どんな農業をしたいのか」を頭ではイメージできても経験をベースに具体的に計画を立てるのは難しいでしょう。
いろんな土地の農業のやり方や農家さんのやり方を体験するのは、自分の目指す農業像を作る上で合理的かもしれません。

さらに、小葉松さんは「就農を前提としていなくても、農業バイトなどを通して農家さんとの関わりを持つこと」に意味があると言います。

私が農業に興味を持った時、「食べる」という行為は日常的に行うのに「農業」自体は遠い存在だと感じたんです。
自分の口に入るものがどのように作られているのかを全然知らない、と。

小葉松さん

ちだ

僕も自分で畑をやってみて「除草剤を使わないとこんなに大変なんだ」とか「消毒しないと虫がすごい!」と初めて気づきました。
いろんな農業や考え方がありますけど、私は実情を知った上で選択することが重要だと思ってます。

小葉松さん

「いい農家さんとの出会いは、時に人生を変えることもある」

というのは小葉松さんの言葉で私が印象に残ったものの一つです。

では、そんなステキな農家さんを一体どうやって見つければいいのでしょうか。

私は「自分で何かを始めよう、動こう」としている農家さんに魅力を感じます。
なので、積極的に農業関係のセミナーなどへ参加して、そこに来ている農家さんと話をするようにしています。
そこで面白い方がいたら自分の活動を話して、「作業手伝いに行ってもいいですか?」って声をかけちゃいます。

小葉松さん

行動力のカタマリな小葉松さんならではの探し方ですね。
普通の人がマネをするのはなかなか厳しいと思うので、求人サイトなどで農業バイトを探すときの注意点を聞きました。

SNSを見るのはいいと思います。FacebookやTwitterの発信内容で人柄や考え方が見えることもあると思うので、あらかじめ確認しておくといいのではないでしょうか。

小葉松さん

フリーランス農家が他の地域の農業を経験して分かったこと

小葉松さんが以前マイナビ農業が主催する「農家の課題解決ゼミ」にプレゼンターとして出席した際、同様にプレゼンターで出席していた茨城県の有機農園モアークの橋澤幸治(はしざわ・ゆきはる)さんと出会い、誘いを受けモアークで約1カ月ほど働く機会があったそうです。

小葉松さんが収穫したモアークさんのベビーリーフ。収穫から選定まで1人で行った。

モアークさんは大きな規模で経営されていて、経営面でも学びになるのではと感じました。
またベビーリーフをメインに生産されていて、将来的に家庭菜園でベビーリーフを生産したいとも思っていたので、誘っていただいて3日で茨城行きを決めました(笑)

小葉松さん

有機農園モアークで作業をする小葉松さん。

当時、北海道内の農家さんのみのお手伝いをしていた小葉松さんは、初めての道外の農業、そこで働く人たちに触れて多くのことを学んだそうです。

モアークさんで働く方々からもとても刺激を受けました。
筑波大学に留学して有機農業に興味を持ちそのまま移住した方、証券会社などビジネスの世界から農業の世界へ飛び込まれた方、近所のおばさんにもらった野菜がおいしくて食生活が変わって10キロ減量し、そこから農業に興味を持った方など本当にいろんな方がいました。

小葉松さん

ちだ

みなさんに共通するところはあったんですか?
農業を手段としてとらえて、どのように自然環境や人の幸せに貢献するか、という考え方が共通していました。
そこから、自分の目指す姿が決して間違っていないのだと思いを強くすることができました。

小葉松さん

モアークさんでの仕事を通して刺激を受け、自身の道を再確認した小葉松さん。
そこからさらに新しい気づき、アイデアが生まれたそうです。

茨城の野菜がとってもおいしかったんです。北海道の野菜が一番!となんとなく思っていたので「日本にはまだまだおいしい野菜がたくさんあるんだ!」と感じて、フリーランス農家として各地を回りながらその土地の野菜のおいしさを知ってもらいたいという着想に至りました。それが、「移動スナック」です。

小葉松さん

農業に興味のある人と農家をつなげる「移動スナック」

小葉松さんは、これまでも北海道内外で農業、農産物のPRを目的としたイベントを開催しています。

「道産娘(どさんこ)スナック」と名付けたイベントでは、飲食店の店舗を間借りし、北海道の食材やお酒を提供しています。

京都にある店舗を間借りして開催したスナックイベントの様子。中央が小葉松さん。

また、滞在した土地で出会ったおいしい野菜を紹介したり、農に興味関心がある人達が集うバースタイルのイベント「FARMERS BAR(ファーマーズ・バー)」も好評で、小葉松さんや、仲間のSNSでの告知だけで多くの人がやってくるそうです。

ちだ

今後は農業バイトをしつつ旅をしながら、小葉松さんが出会ったおいしい地元の野菜をキュレート(選んで組み合わせる)してふるまうんですね!野菜のキュレーターだ!!
マルシェや援農ツアー、移動スナックなどで野菜の味はもちろん農家さんの思いや考え方などもみなさんに伝える、架け橋になることが私の役割の一つだと考えています。

小葉松さん

東京のBARイベントで出したビーツコロッケ。食べたことない。食べてみたい。

実際、小葉松さんが企画した援農ツアーやスナックイベントでは、苦手だったニンジンを克服した人が、そこから農業に対して興味を深め農家さんと直接つながる、ということもあったそう。

お客さんがスナックで野菜を食べることで農家さんに興味を持ってくれて、そこから「私もお手伝いに行きたい」なんてことになることもありました。

小葉松さん

援農や農業バイトって素人がやってもいいの? 農家さんのメリットは?

小葉松さんが企画した農業ツアーに参加した大学生と。

私自身も、これまで自分で農業をし、また農家さんのお手伝いや取材を通じて多くのことを学びました。
しかし感じたことがあります。

素人が手伝いにいって農家さんは迷惑じゃないのか? 農家さんにとってメリットはあるのか?ということです。

繁忙期の農家さんに頼まれて手伝える人を紹介したり、援農ツアーをしたりしましたが「素人でも一生懸命やってもらえたらありがたい」という方が多いです。迷惑だからやめて、と言われた経験はないですよ!

小葉松さん

援農をする時には経験の有無にこだわらず、熱意を持って取り組むことが大切なんですね。
ただ「農業をする時に必要な服装」を心がける必要があると小葉松さんは言います。
小葉松さんは初めて農業バイトをする時、なんと短パンで行ってしまったそう。

虫に刺されたり枝などを踏み抜いてケガをしたりすることもあるので、服装や持ち物などはあらかじめ確認しておくのがベターです。

小葉松さん

初めての援農、服装や持ち物がわからない!という人はこちらの記事をご覧ください

また、外部の人間が援農に来ることは農家さんにとって労働力の確保以外のメリットもあると小葉松さんは言います。

シンプルに言うと「刺激になる」のが良いことだと農家さんはよく私に言ってくれます。

小葉松さん

日々忙しい農家さんは、なかなか他の業界の人と関わる時間を持つことができません。
販路を強化しないと、情報発信をしないと、世の中の動きに合わせて作付計画を見直していかないと、などなど「やらなければならないけどつい後回しにしてしまう」ことはたくさんあります。

こういった状況下で外部の人が入ると、新しい知識や情報が得られ農家さん自身の行動にも変化が出るのだそうです。

例えば、ITやマーケティングのスキルがある人が、農家さんとの世間話の中でちょっとした相談にのる。スキルを持っている人にはなんでもないことでも、農家さんにとっては気づきや課題解決の一歩になることもあります。

小葉松さん

ちだ

お金を払ってプロのコンサルタントに聞くほどでもないちょっとした疑問や課題ってありますもんね。
でも、僕は特にこれといったスキルはないんですが……
ちださんは、全然関わりのなかった業界、業種の方と話していてハッとしたり自分の考えが整理されたり背中を押されたり、という経験ってありませんか?

小葉松さん

ちだ

ありますあります! 知らなかったことが知れたり、自分の挑戦を応援してもらったりもしました。
農家さんも同じだと思うんです。外部の人が農業バイトとして関わることで、お互いが刺激を受けたり情報や思いを交換することは双方にとってポジティブな出来事だと私は思います。

小葉松さん

外部の人が援農するということは、農家さんにとっても働く側にとっても視野が広がり、自分の今を見つめ直すいいきっかけになるのかも知れません。win-winですね!

フリーランス農家として、これからどうする?

フリーランス農家という生き方を選んだ小葉松さんに、これからについて聞いてみました。

農産物の魅力はもちろんですが、農業を通した生き方も伝えられればと思っています。
新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止にせざるを得なかったイベントなどもありますが、これが落ち着いたらまたいろんな仕事を作っていきたいですね。

小葉松さん

小葉松さんは2020年の初め、北海道が雪で閉ざされて農業ができないタイミングで、沖縄県で農業のワーキングホリデーに参加しました。
そこでは直売所の立ち上げに関わり、新しい農家さんとの出会いもあり、イベントの開催もしたそうです。

小葉松さんが立ち上げに関わった沖縄の直売所。

北海道は冬に農業ができません。でも、私は一年中農業に携わりたいんです。今後も夏場は北海道、冬は沖縄や関東地方などで農業に関わることができればと思っています。

小葉松さん

日本中をダイナミックに飛び回り、人と農をつなぐことにひた向きに活動する小葉松さん。
最後に農業に興味のある人に向けてメッセージをもらいました。

コロナ禍で大変な状況ではありますが、一方でさまざまなことを見つめ直す機会でもあると私はとらえています。
「食」や「農業」に改めて向き合うことで、気付けることもあるのではないでしょうか。
ぜひ、畑に足を運び、野菜作りに携わり、農家さんとお話をして、おいしい野菜を食べてください。

小葉松さん

フリーランス農家!とまではいかなくとも農業に興味がある、という人はいるのではないでしょうか。
そんな人にとって、援農は農業の実情を知ることができる選択肢でしょう。

今だからこそ、私たちの体を作る食べ物、それを作る農業について考えてみてもよいのではないでしょうか。

画像提供:小葉松真里

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