そもそも養鶏とは
養鶏とは農業分野の畜産の一種であり、鶏(ニワトリ)を飼育することです。主に、卵を生産するために採卵鶏を飼育する養鶏と、肉を生産するために食用鶏を飼育する養鶏の2つに分類されます。育て方もさまざまで、大規模に機械化された養鶏場で行う養鶏と小規模ながらブランド地鶏のように高付加価値を付けて育てる養鶏などがあり、どんなスタイルを望むかによって働き方も大きく異なります。大規模な養鶏場では機械化や自動化が進み、数万〜数十万羽をケージと呼ばれる大きな鳥かごで管理・飼育しています。一方、平飼いや放し飼いなど昔ながらの方法で飼育する養鶏場もあり、事業体それぞれのスタイルで生産しています。鶏は温度や環境にとても敏感な生き物。鶏が快適に過ごせているのかを知り、健康状態を常に管理できるかがとても重要です。
採卵用養鶏
鶏たちが元気よく卵を産めるように、ベストな環境を整えるのが最大のミッションの採卵養鶏場。卵を産む雌のひなは育雛(いくすう)用のケージで飼育され、その後、産卵の始まる120日齢頃に採卵用の成鶏ケージに移動されます。産卵のピークは210日齢頃です。産卵期間中は、施設の温度や換気、照明の管理はもちろんのこと、鶏の体重や卵の重量、産卵数などを計測し、餌の種類や量など考慮しながら、食べっぷりや、ふんの色、固まり具合など鶏の健康状態を細かく観察していきます。配合飼料は朝と夕方を中心に配餌車や自動給餌機で与えます。機械化が進んでいる施設では機器の異常がないか常に点検します。
よく卵を産む鶏は午前中の早い時間に集中して産卵するので、卵同士がぶつかって傷がつかないようにすばやく卵を集めていきます。一般的にはエッグトレーというくぼみのある容器に入れてコンテナで出荷しますが、ベルトコンベヤーで自動的に集卵する装置もあります。平飼いや放し飼いの場合、鶏は産卵箱の中や地面などに卵を産むので、汚れや傷がつく前に手作業で卵を集めていきます。年間の産卵数は鶏の品種によって異なり、150〜300個前後。ちなみに、鶏は1日に1個までしか卵を産むことができません。産卵をはじめておよそ1年経過すると、産卵率や卵の質が低下して新しい羽に生え変わる換羽が起こり、休産期に入る鶏が出てきます。そして産卵開始からおよそ1年半〜2年後、仕事を終えた採卵鶏は新しい鶏と入れ替わり、その生涯を終えます。
食肉用養鶏
食肉鶏は一般的にブロイラーと呼ばれています。およそ21日間のふ化期間を経て雛になった後、小型の鶏はおよそ50日間の育雛期間を経て出荷、大型の鶏はおよそ60日間で出荷と成長速度が早いのが特徴です。小型のものは2キロ前後、大型のものは2.5キロ前後で出荷されるほか、フライドチキン用として1.7キロ前後で出荷されるものもあります。名古屋コーチンや比内地鶏など、日本の在来種の血を半分以上継いでいる地鶏や養鶏農家の飼育方法によっては、ふ化してから75日以上、中には150日間じっくりと育てた後に出荷されるものもあります。雛が小さい時ほど重要なのが室温の管理です。寒いと雛が隅に集まりすぎて圧死する恐れがあり、暑くても蒸れてしまうことがあります。また、鶏舎の多くが高密度で飼育しているため、ワクチンの接種やこまめな清掃を行うなど、衛生管理が大切です。成長段階にあわせて飼料は変わりますが、通常ブロイラー用の餌には病気を予防するために抗菌剤や抗生物質が添加されているため、出荷1週間前からは薬を含まない飼料を与えることが法律で義務付けられています。そうして育てた鶏を出荷したあとは次の雛たちのために鶏舎を掃除し、消毒などを徹底的に行います。
養鶏場の仕事内容
採卵用養鶏場の場合
基本的に「オールイン・オールアウト」と呼ばれる方式で飼育します。「オールイン・オールアウト」方式とは、同時期に入荷した雛を飼育後、一斉に出荷することで、採卵鶏の場合は役目を終えた鶏が出荷となります。鶏舎ごとに行うため、定期的に雛が入れ替わります。鶏を一斉に出荷して鶏舎の清掃と消毒をし、一定期間空けてから新しい雛を迎え入れることで衛生的な環境を保つことができます。給餌、集卵、出荷は年中無休で続くため、ローテーションを組み、交代で休むのが一般的です。
鶏の飼養管理
ふ化場から生まれてすぐの雛を受け入れた場合は、点眼や飲水、スプレーなどでワクチンを接種します。ある程度育った状態の雛を仕入れることもできます(後述)。
産卵の役目を終えるまでの間、給餌、清掃、温度や湿度管理、照明管理などを行いながら飼養します。機械化が進んでいるところでは機器の管理や点検も行います。長期にわたって飼養する場合は、卵の品質の向上や産卵率の回復のために誘導換羽(※)を行うことがあります。
※ 羽が抜け替わり休産期に入るサイクルを給餌などで調整し、休ませること。
鶏舎の清掃
除ふんやダニの駆除などを行い、鶏舎を清潔に保ちます。
集卵
傷があるものや奇形などの不良卵を取り除き、洗卵し、規格重量ごとに選別します。
出荷
卵を出荷します。また、役目を終えた鶏たちは廃鶏業者へ引き渡します。
雛の入れ替え準備
鶏がいなくなった鶏舎を清掃し、高圧洗浄機などを用いた水洗いや消毒などを徹底的に行います。その後、一定期間空けてから新しい雛を迎えます。
食肉用養鶏場の場合
採卵用養鶏場と同じように基本的には「オールイン・オールアウト」の方式で飼育し、ローテーションを組み、交代で休むのが一般的です。
鶏の飼養管理
生まれてすぐの雛をふ化場から迎え、点眼や飲水、スプレーなどでワクチンを接種します。出荷までの間、給餌、清掃、温度や湿度管理、照明管理などを行いながら飼養します。機械化が進んでいるところでは機器の管理や点検も行います。食肉用養鶏は平飼いが主流で、鶏は木くずやわらなどでできた敷料の上で育てます。敷料は湿り具合をみて、随時追加して乾燥させておくことが大切です。
鶏舎の清掃
ほこりや汚水、汚物などを取り除き、鶏舎を清潔に保ちます。
出荷
出荷日数に達した鶏は一斉に出荷されます。その後、採卵用養鶏場と同様に鶏舎を清掃し、高圧洗浄機などを用いた水洗いや消毒などを徹底的に行います。その後、一定期間空けてから新しい雛を迎えます。
一日の仕事の流れ
採卵用養鶏場の一日の仕事の流れ
4時30分頃 | 自動給餌機などで餌を与え始める。 餌を与える頻度は養鶏場によって異なり、1日分を3〜5回に分けて与える場合や2日分を一度に与える場合などがある。 |
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9時〜16時頃 | 集卵作業や鶏舎内の清掃。 | ||||
16時頃 | 集めた卵の選別作業を行い、出荷。 | ||||
16時30分頃 | 鶏舎内の見回り。鶏の健康状態や施設の環境などをチェックする。 | ||||
17時頃 | 一日の作業終了。 |
一般的なケージ飼いの小・中規模養鶏場の場合はこのような流れです。大規模な養鶏場の場合は温度管理や光量管理、給餌、集卵、ふんの処理までがほとんど自動化されているため、集中管理できるという特徴があります。また、小規模の平飼いや放し飼いの養鶏場の場合は、自身の生活スタイルにあわせて飼育管理していることが多く、仕事の流れは農家によってさまざまです。
食肉用養鶏場の一日の仕事の流れ
8時頃〜13時頃 | 鶏舎内の見回り。温度調節や換気など機械のチェック。自動給餌器で餌を与えながら鶏の様子を観察していきます。 時期によっては雛を受け入れケージに移す入荷作業もあります。 |
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14時〜16時30分頃 | 鶏舎内の見回りと清掃。 雛が順調に育っているか、床面が清潔に保たれているかチェック。 時期によってはコンテナへ成鶏を移す出荷作業もあります。 |
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17時頃 | 一日の作業終了。 |
一般的な食肉用養鶏場の場合はこのような流れになりますが、規模や農家のスタイルによって変わります。機械化が進んでいる養鶏場は、機器の管理作業も重要な仕事となります。また、とても繊細な雛の時期は小まめに室温や餌の量をチェックしたり、ある程度育ってからは群れの管理をし、つつかれて傷がつかないようにしたりするなど、鶏の様子を常に観察し、飼養管理することが大切です。
養鶏場を経営するには?
鶏の調達方法
採卵鶏を調達する場合は、大きく分けて3つのパターンがあります。
①ふ化直後の雛を仕入れる場合
ふ化場から雛を仕入れて育雛します。この場合、雛に対しての保温(給温)が必要になるため、室温管理できる育雛舎を構えることが必要です。餌の選定をはじめとした飼養管理を自ら行いたい人向けです。
②ふ化後、給温期間を終えた40〜50日齢の雛(中雛)を仕入れる場合
育成場から雛を仕入れます。ふ化直後に比べて、安定して育てることができます。
③産卵開始直前の120日齢の雛(大雛)を仕入れる場合
育成場から雛を仕入れます。導入コストは一番かかりますが、初期の設備投資が比較的少なく済みます。
どの段階で仕入れるのかは、育成技術、飼養管理の体制など、自身の経営にあわせて検討しましょう。
食肉用養鶏の場合は、ふ化場から生まれたての雛を仕入れます。
餌の調達方法
採卵用と食肉用の鶏で餌の内容は異なりますが、一般的にはトウモロコシや大麦、小麦、大豆などの穀物や、動物性の原料を混ぜ合わせた配合飼料を購入し、与えます。また、農家によっては米ぬかや野菜くずなどを発酵させた自家製のオリジナル飼料を与える場合もあります。採卵用の鶏の場合、配合飼料は大きく分けて育成期用と産卵期用があり、鶏の育成段階にあわせてタンパク質やカルシウムの量などを変えていきます。また、食肉用の鶏の場合は採卵用の鶏に比べて成長速度が早いため、タンパク質、エネルギーともにおよそ10%高い飼料を与えることが多いようです。与える時期や内容なども含め、飼料会社に問い合わせるとよいでしょう。
必要な設備
何が必要なのかは、規模や内容によって大きく変わります。
一気に揃えようとせず、予算や方向性を決めて、自身の技術レベルにあわせて徐々に増やしていきましょう。
鶏舎(土地も含めます)
大規模養鶏向きのケージ飼いか、中・小規模向きの平飼いか放し飼いかによって鶏舎の内容が大きく変わります。また、畜舎は建築基準法が適用されるため、規模や立地に応じて建築確認申請などの手続きが必要です。
自動給餌器、給水器等
手で餌を与える場合は、餌の容器、バケツ、シャベルなどが必要です。規模に合わせて配餌車や自動給餌器を揃えましょう。
鶏ふんの処理用器具
かなりの小規模であればスコップなどで除ふん作業ができますが、それ以上の規模の場合、フォークリフトにバケット(砂利などをすくえる大きなバケツ状の容器)を取り付けて作業する必要があるため、重機の導入も検討しましょう。
洗卵、選別の機械
どのように出荷するかによりますが、自ら販売をする場合は洗卵、選別のための機械やそれを設置する建物の導入検討が必要です。全てを手作業で行う場合は、エッグトレーなど集卵後の卵の保護用器具などを揃えましょう。
必要な知識やスキル
本やインターネットからでもある程度の知識はつきますが、やはり現場で学ぶに越したことはありません。養鶏場で働きながら何が必要なのかを学んでいく方法が、一番の近道かもしれません。
鶏に関する基本的な知識
寿命、性質など鶏種ごとの違いや、悪癖(羽食い、尻つつきなど)の問題など、基礎知識を得ることは重要です。ふ化場でもらう飼養マニュアルなども参考にしましょう。
鶏の健康管理について
家畜伝染病予防法によって飼養衛生管理基準が定められています。伝染病に関する知識やワクチンの接種など病気予防の知識を得るのはもちろんのこと、獣医師との顧問契約も検討しておきましょう。
飼養環境について
どの段階の雛を飼育するのかによって、温度、湿度管理、点灯管理など必要な環境は異なります。自分の育成技術にあわせて環境を整えましょう。
鶏卵の衛生的取り扱い
集卵時の注意、洗卵方法、表示事項について。
鶏卵の表示事項はJAS法と食品衛生法で規定されています。自らパッキングし重量を表示して販売する場合に備えて、卵重計量責任者などの必要事項を調べておきましょう。
販売先の確保
道の駅などの産地直売所や量販店などとの契約、また販売会社を持つ飼料会社へ相談し、販売ルートを決めておくことが重要です。また、近年の災害や伝染病などに備え、信頼できる養鶏場とパートナー契約を結び、万が一の時でもお互いに卵を流通できるような体制を整えておくことも大事です。
養鶏生産計画
どの品種の鶏をどれくらい仕入れるのか、機械など設備投資はどうするのか。養鶏場を経営するための生産計画も立てておきましょう。
各種申請
鶏を飼育する場合、自治体への届け出が必要です。家畜の病気の発生やまん延を防ぐため、家畜伝染病予防法の一部が改正され、2020年度より公布されました。この改正によって全ての家畜の所有者に「飼養衛生管理者」の選任が義務付けられ、責務が明確化されるようになりました。提出書類は各自治体のホームページからダウンロードするか、都道府県の各家畜保健衛生所や市町村役場で入手できます。100羽以上の鶏を飼育する場合は、飼育環境についての書類なども必要です。記入後は管轄する各家畜保健衛生所に提出。その後、毎年2月1日現在の飼育頭羽数等に加え、100羽以上飼育している場合は鳥インフルエンザ防疫のため毎週の鶏の死亡状況も各家畜保健衛生所に報告します。
新たに養鶏経営を始めたい人のための支援制度
国が掲げる「40代以下の農業従事者を2023年までに40万人に拡大」という目標をもとに、新規就農から経営の確立までを一連の流れとして、研修や資金の交付など総合的に支援する制度が充実しています。
■畜産クラスター事業
地域の畜産の収益性を向上させるための畜産クラスター計画において中心的な経営体と位置づけられた場合、施設整備や機械の導入を支援。また、農協や公社等が買い入れ・借り入れした離農跡地などで畜舎等の補修・改修を行い新規就農者に貸し付ける取り組みも支援してくれます。
■農業次世代人材投資資金
次世代を担う人材を育成・確保するため、就農前後の支援体制が充実。「準備型」では就農前の研修期間中に年間最大150万円を最長2年間交付し、「経営開始型」では独立して自営する新規就農者に対して年間最大150万円を最長5年間交付します。
■強い農業・担い手づくり総合支援交付金
地域の担い手が融資を受けて農業用機械や施設を導入する際に支援してくれるものです。「先進的農業経営確立支援タイプ」では個人は1000万円、法人は1500万円を上限として、「地域担い手育成支援タイプ」では300万円を上限としてそれぞれ事業費の10分の3以内を補助してくれます。
■青年等就農資金
新たに農業経営を始める際の施設の設置、機械の購入等に必要な資金を長期、無利子で貸し付けます。農業経営を始めようとしている、または始めてから5年以内で、市町村から青年等就農計画の認定を受けた認定新規就農者であることが条件です。貸付限度額は3700万円で償還期限(返済までの期間)は17年以内となっています。
養鶏農家の平均年収
採卵用養鶏の平均年収
農林水産省の調査によると、2018年の採卵養鶏経営における1経営体あたりの農業粗収益は5181万円で、農業経営費は4846万円。農業所得は336万円でした。
食肉用養鶏の平均年収
農林水産省の調査によると、2018年のブロイラー養鶏経営における1経営体あたりの農業粗収益は1億2065万円で、農業経営費は1億705万円。農業所得は1360万円となっています。
もしもの時の支援制度
自然災害や疫病。どんなに気をつけていても「まさか」は突然やってくるもの。そんな時に役に立つ支援制度をご紹介します。
■鶏卵生産者経営安定対策事業
鶏卵の取引価格が補填(ほてん)基準価格を下回った場合に差額の9割以内を補填してくれる制度。事業実施主体による鶏卵需給見通しの作成も支援してくれます。
■農業信用保証保険基盤強化事業
甚大な自然災害によって被害を受けてしまった場合、経営再建のために借り入れる農業近代化資金の保証料を5年間免除。経営再建に必要な資金の融通を円滑にしてくれます。
■家畜疾病経営維持資金融通事業
高病原性鳥インフルエンザ等の家畜伝染病の発生で被害を受けた畜産経営に対し、低利で融資してくれます。「経営再開資金」では、個人2000万円、法人8000万円を上限とし、償還期限は7年以内となっています。「経営継続資金」「経営維持資金」ではいずれも鶏100羽あたり5万2千円を融資、償還期限は7年以内で貸付利率は0.75%以内です。
■消費・安全対策交付金(ソフト)
農場で発生している慢性疾病等の清浄化や発生予防のため、野生動物の侵入防止対策や消毒など、農場バイオセキュリティーの向上に取り組む地域の資材の整備を支援してくれます。
■家畜生産農場衛生対策事業
管理獣医師による衛生管理指導を受けるためのコンサルタント契約料や、家畜保健衛生所の検査費用等を支援してくれます。
■家畜防疫互助基金支援事業
高病原性鳥インフルエンザの発生に備えて生産者自ら積み立てを行い、高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザの発生時に、経営再開までに必要な経費等を相互に助け合う互助基金の仕組みそのものを支援してくれます。
未経験でも大丈夫! 養鶏場の経営を始めてみよう!
どんな養鶏農家になりたいのかによって、規模やスタイル、目指す方向性などが大きく変わります。だからこそ、全ては自分次第。生き物たちと向き合う仕事だからこそ、じっくり腰を据えて始めてみましょう。
※ 情報は2020年8月20日時点のものです。
取材協力:北川鶏園(採卵養鶏場)