ブランド米に執着するからコメは産業化できない
──50年以上前に誕生した「コシヒカリ」を筆頭に、これまで数多くのブランド米が出てきました。近年はさらに加速した感のあるブランド米開発競争についてどう感じていますか。
コメの品種の多様性が段々となくなってきたのが何より残念。新しい品種が次々に出ているけど、ほとんどが良食味で粘り気のある「コシヒカリ」の血を受け継いでいる。だからどの品種も特徴においては似たり寄ったり。食べ比べをしたところで、すべての品種を言い当てられる人はきっと少ない。昔のコメはもっと多様だったのにね。
それにブランド米といっても、成功したといえるのは「ゆめぴりか」と「つや姫」、それに「魚沼産コシヒカリ」くらいでは。産地がブランド米を目指すのは構わないけど、成功できるのはごくわずかだということを認識しているのだろうか。
マーケットはブランド米ばかりを求めているわけではない。コメの需要はもっと幅広い。需要が伸びている外食や中食向けをとっても、カレーやパエリアなどさまざまな用途がある。そうした用途向けの品種はこれまで開発されてこなかったわけではないが、数は少ない。「コシヒカリ」を超えることだけを前提にしたブランド米開発競争に執着しているから、コメはいつまで経っても産業化できないのではないか。
各県が一斉に良食味を追求する原因は生産調整
──なぜ良食味ばかりを追求する品種の開発がされてきたのでしょうか。
最大の原因は生産調整だね。要するに低たんぱくの良食味を追い求めれば、肥料を抑えるので、必然的に反収は少なくなる。そうすれば全体的な生産量は減るだろうと。それによって米価を維持してきたわけだ。
ただ、それがコメの消費の減少を招いてしまった。生産調整はコメを産業化できなくしている要因になっているので、早々にやめた方が良いというのが私の持論。やめてしまって農家の経営が成り立たないというなら、たとえば所得を補償する政策に切り替える方法もある。別の政策を考えたほうがいい。
──著書では生産調整に関係して、「用途限定米穀」の問題も指摘していましたね。
これまたひどい政策で、コメを作付けする段階から用途に応じてその行き先を法律でもって縛るということを平然と行っている。その対象は「加工用米」(※1)「新規需要米」(※2)「区分出荷米」(※3)「国又は米穀安定供給確保支援機構が用途を限定して販売した米」(※4)。たとえば加工用米として作付けすれば用途もまた加工用に限定され、飼料用や米粉用などそれ以外の用途には利用できない。これはじつにおかしな話。本来であれば品質を検査して最もいいコメは家庭用にして、品質が落ちるに従って業務用や加工用に、もっとも悪いくず米は鳥の餌用にすればいい。
「用途限定米穀」をはじめとする生産調整には年間で3000億円以上という巨額の国家予算が動いている。この予算は毎年膨らんでおり、今年も「水田リノベーション事業」という補正予算が別途加算された。おそらくは農林水産省は利権のためにこうした仕組みを設けていると思っている。
※1 清酒などの酒類や加工米飯、みそ、米菓類などの原料用の米。
※2 飼料用、米粉用、輸出用、バイオエタノール用などの米。
※3 主食・加工用またはミニマム・アクセス米(最低限輸入義務の外国米)が販売されている以外の用途などの米。
※4 ミニマム・アクセス米などを加工用や飼料用などとして販売する米
株式会社化した堂島に期待
──コメの産業化と品種開発のあるべき姿について、考えを聞かせてください。
市場をつくるべきだね。そのために注目すべきは8月にコメ先物市場が本上場されるかどうか。ただ、先物市場はあくまでもリスクヘッジ(危機回避)のためにあるので、合わせて現物市場をつくらないといけない。両方の市場が整うことで、農家も産地も本当の意味で需要に応じたコメ作りができるようになる。
それは当然ながら品種の開発にも好影響をもたらす。いまのように「コシヒカリ」を親とする品種ばかりではなく、需要に応じた多様な品種の開発が進むはずだから。先物市場を運用している大阪堂島商品取引所が2021年4月1日から株式会社になり、現物市場を持つ構想を持っている。コメの産業化にとって転機となりうることなので、大いに期待したい。