長く使うためにも気をつけたい、トラクターの保管方法
トラクターの寿命は、およそ20〜30年といわれています。長い期間、多目的に使える点は大きな魅力なのですが、とても高額な農機具のため、買い替えは少しでも先延ばしにしたいもの。そこで1日でも長持ちさせるための秘訣(ひけつ)として、まずは保管状況から見直していきましょう。
屋外での野ざらしはやめましょう
まずNGとして挙げられるのは、野ざらしのような場所での保管です。日中は直射日光にさらされ熱を帯び、夜間は気温が下がって冷たくなってしまうといった状態では、1日の温度差が激しいため、本体はもとより機内に使われているゴム製品なども劣化が進み、すぐに傷んでしまいます。なるべく屋根のある、日の当たらないところで保管するようにしましょう。
ブルーシートで覆わない
野ざらしはもちろん、車庫のような屋根のある場所で保管する場合も、ブルーシートをかけたままで置いておくのは絶対にやめましょう。よく「ホコリや汚れから守るため」といった話を耳にしますが、それではシートの中に湿気がこもってしまい、ダメージの原因となります。日陰で風通しの良いところにそのまま置いておけばひとまずOKです。
定期的に汚れを落としましょう
土や泥などの汚れや、耕起に使うロータリーなどにわらや草が巻きついていないか確認しましょう。そのまま放置しておくとさびの原因となるばかりか、使うたびにわらや草がロータリーの爪軸に絡まり、詰まりの原因となってしまいます。こまめに掃除するのが理想ですが、難しいようでしたら少なくともシーズンの終わりに、点検も兼ねてきれいな状態に戻しておきたいところです。
自分でできるメンテナンスについて
トラクターはけん引車ともいい、その本体は作業機を除いた車両の部分となります。メーカーにより多少の差はあるものの、基本的に本体自体のメンテナンスに大きな違いはないため、以下を参考にぜひ自身でお手入れを行ってください。今回は特に、エンジン部のまわりについて見ていきたいと思います。
エンジンオイルの点検・交換
自動車と同じく、トラクターもエンジンオイルの量や汚れ具合をチェックする必要があります。検油棒のゲージを見て、オイルが規定量入っているか、真っ黒に変色していないか確認しましょう。
交換の目安は1年に1回ですが、その際に注意しておきたいことがあります。オイルは漏れ出さない限り、基本的には減らないもの。そのため、規定量のオイルを入れていたにもかかわらず、明らかに減っていたというような場合は、何かしらの異変が疑われます。極端な話、オイルがなくてもエンジンはかかります。しかし、そのまま使い続けると焼きつきという現象が起き、故障の原因となるばかりか、トラクター本体を買い替えることにもなりかねません。異変に気がついたら、早めに農機具屋へ相談することをおすすめします。
ラジエーターを確認
冷却水を循環し、エンジンが高温になることを防ぐための重要なパーツで、1年に1度はキャップを外して中を確認する必要があります。液量が十分でないと、すぐにエンジンが熱くなり、使用中に湯気が出たり焼きついたりすることも。ラジエーター液はホームセンターなどでも売られており、簡単に補充することができます。
そして、ここでもエンジンオイルと同様、液量が極端に減っていないか確認してください。もし液量がかなり減少してしまっている場合、どこかに異常があるのかもしれません。考えられる原因としては、プロペラ側にある網目状のフィンがさびたり劣化していたりすると、水が漏れ出すことがあります。見つけたらすぐにラジエーターを外して、修理に出してください。また、ここがホコリやゴミなどに覆われて、風が送れなくなったため冷やすことができなくなり、オーバーヒートしてしまったというケースもよく見られます。こうしたことは、まめに掃除をすることで回避できるので、ぜひ覚えておきたいポイントです。
エアクリーナー
その名の通り、エンジンにきれいな空気を送り込むために必要な部位で、内部には砂やホコリを取り除くエレメントが設置されています。消耗品なので3〜4年ごとに交換したいところですが、かなり汚れる場所でもあるため、実際に取り出して確認し、たまった砂を払ったり、エアーコンプレッサーなどがあれば自身で掃除したりすることをおすすめします。
使用前に見ておきたい! 早めの点検がトラブル回避に
トラクターは多少不具合があっても作動するため、トラブルになって初めて修理に出すというケースが多々見られます。例えばゴムベルトが1本劣化していても、一見問題はないように思えるのですが、実は周辺の機器に大きな影響を及ぼすことも。ここでは、みなさん意外と目が行き届いていない、タイヤやゴム製品などの消耗品について解説します。
タイヤ
トラクターのタイヤには、カタカナのハの字のような目がついています。これは田んぼや土中での作業で滑らないよう、かき爪の役割をしています。本体を支え地面に直接触れるところでもあるため、使うほどに減っていき、そのまま使用を続けると、ゆくゆくはスリップの原因にもなります。またタイヤのチェックでは、空気圧の点検もあわせて行いましょう。空気は必ず抜けていくものですし、規定量が入っていないと劣化が早まる原因にもなります。タイヤにきちんと空気を入れておくことが、長持ちさせる秘訣なのです。
ゴムベルト
カバーをあけると、さまざまなゴムベルトが使われていることがわかります。よく見られるトラブルとしては、車体内のプロペラを回すゴムベルトの劣化です。劣化に伴い徐々に削れて細くなると、プロペラの回転速度があがらなくなります。すると空回りをして回転数が落ちるため、送風できずラジエーターが冷えないといった現象に見舞われます。ゴムベルトは古くなると緩んでたるんでくるので、手で触れてみてピンとした張りがない場合は、交換時期と考えられます。
そのほか、車体の下をのぞいて液漏れしていないか確認しましょう。液漏れがあった場合、土や砂利の上で保管しているトラクターは、コンクリートと違い滴が垂れていても気がつかないことがあります。下からのぞいたり、タイヤのシャフト周辺が油にまみれていないかなど注意して目を向けてみたりしてください。
トラクターの壊れやすいポイントを解説
それでは次に、実例を見ていきましょう。トラクターは用途が多岐にわたる万能な農機具ですが、実は作業のほとんどがロータリーでの耕起です。土に直接触れる部分であり消耗も激しいため、故障のリスクも高いといわれています。
今回、私たち唐沢農機サービスに依頼があったのは、HINOMOTO(ヒノモト) C144のトラクターです。やはりトラブルが見られたのはロータリーで、作業中に異音がするとのことで持ち込まれました。
オイルシールとベアリングの交換
ロータリーの爪軸の両端には、オイルシールとベアリングがはめ込まれています。オイルシールは、軸に密着してベアリングを土やホコリなどから守っていますが、劣化によりボロボロになるとそこから異物が混入してしまいます。今回も同様で、砂や泥が入り込んだベアリングから転動体が抜け落ち、安定して回転できなくなったため異音が発生していました。そのまま使い続けた場合、不安定な回転によってベアリングケースの穴も広がってしまい、最悪の場合、爪軸ごと交換することにも。いつもと違う音など異変を感じたら、すぐに点検に出しましょう。
刃の交換
ロータリーの刃は、耕起の際に土と擦れる部分なので、使うほどに削られて細くなり、毎年交換する人もいるほど。すり減った状態で使うと、地面に筋状の切れ目が入るだけで、土を全く起こせていなかったという状態になります。耕起を終えた後に気がつくケースもありますが、それではせっかくの作業が無駄になってしまうため、ここもしっかり確認しておきたい点です。新品に比べ、刃が半分ほど減ってしまったら交換の目安です。今回もかなりの消耗が見られたため、新しい刃と交換しました。
まとめ
作業機をかえたり部品をプラスしたりすることで、大抵の農作業がカバーできてしまうトラクター。少々の異変があっても「使えるから」と、そのままにしている人もいますが、ある日突然動かなくなった、など大ごとになりかねません。鉄と鉄が当たるカンカンという甲高い音や、シャーシャーと擦れるような異音がしたり、液漏れ、タイヤやゴムベルトのすり減りなどに気がついたりしたらすぐに農機具屋へ相談しましょう。処置が早ければ、費用も安く修理期間も短く済むので、普段からそうした点検を心がけ、少しでも異常を感じたらすぐに対応するようにしましょう。