農業後継者問題という社会課題の解決に取り組む
『くまもと農業経営継承支援センター』
熊本県では、天草地方の海から阿蘇地方の標高の高い山間地域まで変化に富んだ地形や気候を活かして米や野菜、果樹、畜産をはじめ、多様な農畜産物が生産されています。
一方で全国同様、農家数や農業就業人口は減少傾向にあり、後継者不足に歯止めがかからないのも現状です。農業者の高齢化に伴い、後継者が見つからないままリタイアしていく方も少なくありません。平成30年度に行われた経営主への調査によると、これから先の営農継続年数が10年未満という回答が5割、後継者がいないと回答した人も5割。さらに令和元年度の調査では後継者がいない経営者のうち約7割が引継ぎ先は第三者でも可と回答しています。とはいえ、個人的なつながりによる第三者への継承には限界もあり、親族間継承も世代間での意見の相違や経営移譲のノウハウ不足など課題が山積みしています。
そのような中、新たな担い手として期待される新規就農希望者からの相談は増加傾向にあります。本県の新規就農者は直近5年平均で見ると450人程度で、生産力を維持するためにも、さらに就農を推進することが急務となっています。
このような中で、農業の継承問題を解決するには、リタイヤする農業者の経営資産を新規就農者等へ円滑に継承する仕組みづくりが不可欠です。そこで、農業の円滑な経営継承を進めていくための相談窓口として誕生したのが、『くまもと農業経営継承支援センター』(以下「継承支援センター」)です。令和3年6月、県内12の農業関係団体等で構成され、各機関が連携しながら、地域の担い手や新規就農者へ継承するためのマッチング支援を行う事務局が熊本県農業会議内に設置されました。
経営継承計画の策定から実行までサポート。
「譲りたい人」と「受け継ぎたい人」をしっかりマッチング
農業の経営継承先は、一般的に第一に親子間・親族間継承、次に地域の担い手への継承、そして最後が第三者への継承の順番で検討されます。親子間・親族間の継承はスピーディーに行われやすい一方で、後継者の就農に対する意欲や経営能力の向上・育成といった対策も必要になります。親族や地域に継承者がいない場合は第三者への継承が検討されます。候補者を探してマッチングをするなど、双方が納得した継承に至るには、周囲の協力や丁寧なサポートが求められます。
ひとくちに農家の「経営継承」と言っても、農地や施設・機械などの「有形資産」ばかりではありません。農業技術や経営ノウハウ・人脈などの「無形資産」を含め、次世代の後継者に引き継ぐことが求められます。後継者がいないままリタイアしていく経営者の中には優れた方が多く、それらが散逸していくことは経済的にも地域的にも大きな損失です。このため継承支援センターでは、移譲希望者の有形・無形の資産情報をデータベース化し、双方のマッチングがスムーズに進むよう関係機関と連携し支援を行っています。
経営継承にあたっては、経営者と後継者による準備段階から実行まで計画的に進めていくことが大切です。経営状況や資産の見える化から後継者の選定・育成、経営継承計画の策定、実行まで、しっかり伴走しながらサポートするのが継承支援センターの役割です。
- 経営継承に向けた機運の醸成・啓発
- 経営移譲・継承希望者の情報収集・整理
- 県域における経営継承情報の一元化(データベース化)
- 経営移譲希望者情報のホームページへの公表
- マッチングの実施
などを行いながら、移譲希望者や継承希望者の支援を行います。加えて、継承希望者への事前農業研修支援、移譲希望者への継承手続き支援などをサポート。県の農業普及・振興課や市町村、農業委員会、農協、生産組織などと連携をしながら地域ぐるみで伴走支援を行うのが、この取り組みの大きな特長となっています。
将来を見据えて継承支援センターに相談。
「若い人がチャレンジしやすい魅力ある地域に!」
実際に、継承支援センターのサポートを利用している果樹農家の中川さんにお話を伺いました。
熊本市西部地域で果樹園を営む中川さんは、40年以上夫婦でみかんや不知火(デコポン)を栽培してきましたが、家族に継承者がいないことから継承支援センターに相談。果樹経営を法人化するなどして、準備を進めています。
「60歳を過ぎたころから自分自身の体力等も考慮し、将来を見据えて継承の準備を始めました。形のあるものや、技術や形のないものを含め、自分たちの果樹園を引き継いでもらうことも大事ですが、江戸時代から続くこの地域全体の果樹栽培の将来を守らないと行けないという思いも強かったですね。この地域は若い農業の担い手も多く、お互いに情報交換するなど活発な活動をしています。さらに外部から、農業で稼ぎたいという若い人が来て、この地域が盛り上がってくれればうれしいです」と中川さん。

中川さんご夫婦
今後の展望については、「果樹栽培の技術だけでなく、経営のノウハウも学んで自立するためには、1〜2年では難しいです。さらにこの地域特有の地形で農業をしていくためには、身に付けなければならない技術や経験も必要です。地域の未来のためにも、継承支援センターと手を組んで、新規就農者が継承者として自立できるよう私自身もしっかりサポートしていきたいですね」と話してくれました。

果樹栽培が盛んな熊本市西区・河内町の風景
長年培った農業のノウハウや有形・無形の財産を次世代に引き継ぐためのワンストップの窓口『くまもと農業経営継承支援センター』。興味を持ったら、まずはホームページにアクセス!メールやお電話でお気軽に相談可能です。
【問い合わせ先】
一般社団法人 熊本県農業会議
〒862-8570
熊本県熊本市中央区水前寺6-18-1
(熊本県庁行政棟本館9階)
TEL:096-384-3333 (直通)
FAX:096-385-1468
Mail:43ninaite@nca.or.jp