農Tuberとは
農Tuberとは「農業系YouTuber」の略称です。YouTubeを通して農業の魅力などを発信している人たちが、こう呼ばれています。ちなみに「農チューバ―」という言葉は、北海道のメロン農家である寺坂農園の寺坂祐一(てらさか・ゆういち)さんが商標登録をしています。
農Tuberが発信する内容は農作物の栽培方法や、農業をやっていて日常的に起こる出来事、農家のライフスタイルなどが主なテーマです。特に奇をてらったことをやる必要はなく、農業に携わっていれば普通に経験することを、それぞれのやり方やセンスで紹介・解説して発信しています。
農Tuberが今注目されている理由
こうした投稿には、多くの視聴者が関心を持ち、特に人気のある農Tuberは5万人を超えるチャンネル登録者数を獲得しています。
ちなみにYouTubeでチャンネル登録者数1万人以上は上位3%と言われているので、これはすごい数字と言えるでしょう。
主な視聴者層は、家庭菜園をしている人、就農して間もない人、これから就農を希望している人で、さらに漠然と農業に興味を持っているという人も含まれています。
これまであまり知られていなかった、作物の栽培方法や、仕事のために使用する資材はどういうものか分かることから、これらの人たちが楽しみながら勉強するために見ていると推察されます。
農Tuberの魅力
・収入源が増える
・毎日の農作業を動画で記録できる
・農園のブランドを構築できる
・農園のファンを増やせる
・農業を盛り上げられる
・メディアへの露出につながる
農Tuberとして情報を発信するのはとても楽しい作業です。発信によって上記のようなメリットが生まれます。
収入源が増える
YouTubeを見れば分かるように、それぞれの動画には広告が付いています。テレビ番組のコマーシャルと同じで、動画が再生されると広告も再生され、その数に応じて動画投稿者は広告収入が得られます。ただし、チャンネル登録者数1000人以上、直近12カ月の全投稿動画の再生時間4000時間以上など、いくつか条件があります。月に数百万、数千万稼ぐといわれているトップクラスのYouTuberは例外で、大多数は月1~5万円程度。それでも収入が不安定な農家にとって、本業以外に収入源が増えるのは嬉しいことでしょう。
毎日の農作業を動画で記録できる
作業日誌を毎日書くのはかなり面倒ですが、動画で記録しておくと、あとから見返すことによって、やり方の改善や将来の作業計画に大変役立ちます。また、コメント欄を通して、他の農家の人と知り合うことができ、有効なアドバイスを得られたり、仕事の励み・モチベーションアップにつながったりすることもあります。
農園のブランドを構築できる
「〇〇農園のレタス」「〇〇果樹園のブドウ」など、自分の育てる野菜や果物は、他にない特別な物であると広く知ってもらうことがブランド構築です。特に直販をするならこれはとても重要です。そのためには品質の良さとともに、どんな人が、どんな環境で、どんな思いを込めて育てているのかを伝えることが有効ですが、農Tuberになれば動画を通して独自のストーリーをアピールできます。
農園のファンを増やせる
自分の農園、作物、視聴者が参考にできる技術やノウハウ、そして農業に対する自分の愛情や心意気などをオープンにすることで、たくさんのファンを獲得できる可能性が生まれます。ブログやSNSの文章・写真の発信でもできることですが、映像と音声のパワーは、それよりはるかにインパクトが強く、スピーディーです。
農業を盛り上げられる
動画を撮影し、編集をすると、自分の仕事を客観的に見られます。毎日当たり前にやっている農作業は、一般的に見るとエデュケーション(教育)の面からも、エンターテインメント(娯楽)の面からも、とても面白いコンテンツだということが分かってきます。それによって一人一人の発信が、農業って楽しい、大切なものだというメッセージになり、日本の農業全体を盛り上げることにつながります。
メディアへの露出につながる
メディアは記事やニュースとして取り上げられそうな人や事象を毎日、インターネット上で探しています。人気の高い動画、質の高い充実した動画を作って常に発信していれば、取材などを求められる可能性が膨らみます。メディアに露出すれば、相乗効果で視聴者もますます増え、ブランド構築や販売にも大きな効果をもたらします。
農Tuberの始め方
1. 発信するテーマを決める
2. Googleアカウントを作成する
3. YouTubeアカウントを作成する
4. YouTubeでチャンネルを開設する
5. スマホまたはカメラ・外付けマイク・防風グッズ・三脚を用意する
6. 動画を撮影する
7. 編集する
8. 動画を投稿する
では実際に農Tuberとして農業情報を発信するには具体的に何をすればいいのか、順を追って紹介していきましょう。
1.発信するテーマを決める
まずは投稿するテーマと、それに合ったチャンネル名を決めましょう。例えば就農したての人なら「就農1年生の奮戦チャンネル」といった名前にすれば、毎日の農作業からいろいろ投稿できます。就農希望者にとって、ほんの少しだけ先輩の奮戦する姿はぜひ見たいコンテンツです。その他、どんな人に見てほしいかイメージして、自分の個性・専門性に特化したテーマで発信すると見てもらいやすくなり、視聴者を増やせます。
2.Googleアカウントを作成する
YouTubeはGoogleの関連サービスです。投稿するにはまずGoogleのアカウントが必要です。Googleトップページ右上のログインから入り「アカウントを作成」から種類を選択(自分用でOK)し、姓名・ユーザー名・パスワード、さらに生年月日と性別を登録。最後に利用規約に同意すればアカウントを作成できます。
3.YouTubeアカウントを作成する
YouTubeアカウントはGoogleアカウントとひも付いているので、Googleアカウントを作成すれば、それがそのままYouTubeアカウントとなります。YouTubeのトップ画面に移動し、右上のログインボタンがGoogleで登録した自分の名前になっていれば、YouTubeのアカウント作成は完了です。
4.YouTubeでチャンネルを開設する
YouTubeトップ画面からログインして「チャンネルをカスタマイズ」をクリックし、基本情報にこのチャンネルはどんな趣旨で作っているのか、どんな内容なのか、概要の説明を書きます。これでアカウント名(自分の名前)と同じチャンネルが開設されます。別のチャンネル名(例えば、○○農園)にするには、プルダウンメニューの「設定」から「新しいチャンネルを作成する」を選び、その名前を入力します。
5.スマホまたはカメラ・外付けマイク・防風グッズ・三脚を用意する
一眼レフなど、性能の良いカメラがあるに越したことはありませんが、作業の合間に手早く撮影できることが大切なので、あまり操作が複雑なものは不向きです。最近はスマートフォンのカメラでもきれいな動画が撮れるので、それで十分でしょう。ただし、きちんと固定して撮影できるよう、三脚は必ず用意しましょう。
また、視聴者は画質が少々悪いことには我慢できても、音声が聞こえにくいことにはストレスを感じます。農Tuberの場合は屋外での撮影が多く、風が強いと音声が聞き取りにくくなるので、外付けマイクや防風グッズは必需品です。必ず両方セットでそろえておきましょう。カメラかスマートフォンがあれば、他のものにかかる費用はいずれも数千円程度です。今は動画撮影に大きなコストはかかりません。
6.動画を撮影する
動画コンテンツは見やすいこと、分かりやすいことが第一です。簡単なメモ程度でもいいので台本を作り、このシーンではこうしたコメントといったように、あらかじめ話の流れを作っておきましょう。それに沿って各シーンを撮影していくとスムーズです。
また、無理に1人でやろうとせず、手伝ってくれる人がいれば撮影やインタビューをお願いしてもいいでしょう。撮影したらその場で再生してみて、必要に応じて再度撮ります。この時も自分の他にモニター役をしてくれる人がいれば、いろいろな意見を言ってもらったり、その場で撮り直しもできたりします。
7.編集する
編集ソフトは初心者でも簡単に操作できるもの、なおかつ安価なもの、なかには無料のものがたくさん出ています。パソコンによってはあらかじめインストールされているソフトもあり、ほとんどコストはかかりません。スマートフォン用のソフトもあるので、その場で撮影から編集まですることも可能です。ただし、基本的に時間と労力は必要です。内容にもよりますが作業には数時間かかることもあるので、1人でやるのが大変なときは誰かに手伝ってもらってもいいでしょう。
8.動画を投稿する
できた動画はファイルにしていったん保存し、YouTubeに投稿しましょう。まずYouTube Studioにログインし、右上の[作成]で[動画をアップロード]をクリック。ファイルを選択して投稿します。慣れないうちは大変に感じるかもしれませんが、ちゃんと台本を作って撮影・編集すれば、次第に早くなり、1、2時間でもできるようになります。
農Tuberのチャンネルテーマ例
・農作業のハウツー
・農業機械や農機具の使い方紹介
・サステイナブルな栽培方法
・実験動画などのエンターテインメント
・就農情報
・農業経営のノウハウ
視聴者の問題解決に役立つ動画であることが基本です。ただ、役立つと言っても、真面目な“お勉強動画”になってしまっては大変な割に人気が出ません。最初から考え過ぎず、まず自分が訴求したいもの、これが面白いと思うものをどしどし発信していきましょう。実際に投稿を始めると反響によって、視聴者は何を求めているのかがだんだん分かってきます。
大きなテーマとしては以下のものが挙げられます。
農作業のハウツー
農Tuberの王道コンテンツといってもいいでしょう。作業の様子は、学びたい人はもちろん、さして農業に興味のない人でも、思わず見てしまいます。ただし、真面目にやり過ぎて、細かいカット割りと教科書みたいな解説コメントや字幕を付けて作るのは、かなり手間がかかります。ラフに見せて気軽にトークする形でも十分です。中にはコメント・字幕もなく延々と草刈り作業をするだけといった動画もあります。
農業機械や農機具の使い方紹介
とてもニーズの大きい分野です。機械の使い方は取扱説明書などに載っていますが、文章と図だけ見て理解し、実際に使いこなすのは困難です。その意味で動画による解説はとてもありがたいものです。また、トラクターの走る姿、コンバインによる収穫風景などは見ているだけでも迫力があります。
サステイナブルな栽培方法
「サステイナブル」であることは今後の生活の重要なキーワードです。農業関係者だけでなく食を取り扱う人たち、環境保全に興味を抱く人たちにとって、現場でサステイナブルな農業に取り組んでいる農家の意見・発信はとても貴重なものです。大きな社会問題に関わっているとも言えるので、メディアに注目される確率も高くなる傾向があります。
実験動画などのエンターテインメント
スマート農業の実験動画も一つのジャンルを作っています。ドローンを使った種まきをはじめ、AI、ロボット、IoTなどの実験動画は見ていても面白く、農業関係者はもちろん、テクノロジーに関心を持つ人が向学のために視聴するケースも増えてきているようです。構成や編集に趣向を凝らし、エンターテインメントコンテンツとして見せている動画もあります。
就農情報
就農を考える人にとって、現場で実際に働いている人からの情報ほど貴重なものはありません。自分はどんなことを考え、どんな準備をして就農したのかなどが発信内容になります。資金は?家族への説明は?現在はどれだけ収入があり、どんな暮らしをしているのか?将来設計は?など視聴する就農希望者が知りたいことは山ほどあるので、自分のことを素直に話すだけでも十分に有益なコンテンツになります。
農業経営のノウハウ
就農情報と関連して、就農希望者は農家が現在どのように経営しているのかについて知りたがっています。また、他の農家の経営者もうまくいっているところはどんなことをしているのか、非常に気にしています。開示可能な部分、自分ならではの経営手法があれば積極的に発信し、うまくいく方法を伝授していくといいでしょう。
農Tuberの開拓者「Harada Farm」
広島県東広島市の有限会社原田農園のYouTubeチャンネル「Harada Farm」は、農業系YouTuberの開拓者として有名です。栽培方法や農機具の使い方などを主な発信内容とし、YouTubeの世界でもトップクラスの登録者数を獲得しています。これからスタートする人には、教科書として大変参考になるチャンネルです。
農Tuberを始めるときに意識したいポイント
・投稿頻度をキープする
・投稿も仕事の一つと心得る
・あらかじめストックを作る
・登録者数・再生数を伸ばすコツを動画で学ぶ
・関連動画に載るところから始める
・視聴者維持率を保つ工夫をする
・冬場でも視聴してもらえる動画を作る
農Tuberとして活躍するには、七つのポイントがあります。これらのポイントを意識して活動することで視聴者を増やし、自分の情報を広く届けることができるようになります。
投稿頻度をキープする
いちばん大事なポイントは継続すること。できればほぼ毎日、動画を投稿し続けることです。YouTubeでは常に投稿頻度をチェックしています。頻度が落ちると、評価が落ちて自分の動画が視聴者のおすすめに表示されなくなります。有名人でない限り、誰でもスタート時の視聴者はせいぜい数十人。月1万円でも稼げる農Tuberになるには、それなりの時間と積み重ねが必要なことも心得て、諦めずに投稿し続けましょう。
「投稿も仕事の一つ」と心得る
投稿頻度をキープするには、動画投稿を農作業や販売などと同等な仕事であると位置づけることが大切です。仕事の空いた時間にやればいいと思っていると、忙しくて余裕がないときは休みがちになり、それが続くとスタート時の意欲が下がっていきます。結局、「仕事ではないからいいや」となってしまい、そのまま放置しやめてしまう人も大勢います。何日も投稿しないと「仕事をサボっているようで居心地悪い」と感じるくらい、自分の中で仕事化・習慣化することが大切です。
あらかじめストックを作っておく
投稿頻度を維持する有効な手だての一つとして、スタート時にあらかじめ何本かストックを作っておくとよいでしょう。人は、年中好調というわけにはいきません。仕事や家のことで忙しく時間がない、体調が悪い、単に気分が乗らないということは必ず起こります。そうした時でもストックがあれば、新たに撮影・編集をしなくても投稿頻度を保てます。また、気持ちにも余裕ができ、ストレスを感じなくて済みます。
時間がある時、調子がいい時、天気の良い日などにまとめ撮りをしてストックを作っておくことも有効です。
登録者数・再生数を伸ばすコツを動画で学ぶ
農Tuberに限らず、動画投稿者に向けた登録者数・再生数を伸ばすノウハウは動画でも記事でも、ネット上で数多く見つけられます。登録者数・再生数を伸ばすコツを動画で学べるので、いくつかチェックしてみましょう。例えばサムネイルやタイトルの改善、ショート動画の作成、積極的に視聴者からコメントをもらえるよう動画の最後で訴えるなど、多岐にわたって紹介されているので、いろいろ勉強するといいでしょう。
関連動画に載るところから始める
初めて見てもらうための有効な手段として、すでに再生数の多い動画の関連動画に載るという手法があります。YouTubeの動画には自動的に選ばれた関連動画がいくつも出てくるので、これを利用して人気チャンネルのおまけとしてついでに見てもらうことで、登録してもらえることが期待できます。登録者数を増やすためには、毎日、膨大な数の動画が上げられる中、まず自分のチャンネルの存在を知ってもらう必要があることを念頭にしてトライしてみましょう。
視聴者維持率を保つ工夫をする
「視聴者維持率」とは、視聴者がその動画をどこまで見続けたかを示す指標です。この数値が高いほど視聴者が長く見続けたということになります。さらに、途中に入っている広告も見たとカウントされるのでYouTubeでの評価は高まります。これを高く保つには、視聴者が興味を抱きやすいテーマである、話の構成が分かりやすい、テンポが良いといったことが重要になります。視聴者維持率の高い、価値ある動画としてYouTubeのおすすめに選ばれるよう工夫しましょう。
冬場でも視聴してもらえる動画を作る
農Tuberは冬場に発信できるネタを持っていると強いです。農閑期である冬は投稿頻度も落ち、視聴回数も低迷しがちなのが通常の農Tuberのパターンです。確かに栽培の様子などは見せられないし、映像も地味になるでしょう。しかし、その気になればいくらでもネタは見つかります。春に備えての準備作業とか、農業以外の副業とか、農業に興味のある視聴者なら、農家の冬のライフスタイルも知りたいはずです。むしろ冬場は農Tuberとしての人気を高める季節と位置付けて、秋口から投稿計画を立てておくといいでしょう。また、前述したストック作戦で、ネタのない日はストックを使って投稿することや、逆に余暇を利用してストックを作っておくのもおすすめです。
あなたも農業への愛を発信しよう
黙々と農作業を行う農家は今や過去のイメージ。これからは自分がいかに農業を愛しているかを世界に向かって表現する時代です。そのためにも映像と音声で情報発信する動画投稿は最適のツール。多くの視聴者が農Tuberになったあなたの楽しい愛情表現、そして役に立つ情報を待っています。マイナビ農業でもさまざまな農Tuberの活躍を紹介しています。